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自閉する若者…『下流社会』の行方は
向上心なき『自分らしさ』
「下流社会 新たな階層集団の出現」(光文社新書)という本が売れている。「一億総中流」といわれたのは過去のこと。今、「下流」と呼ばれる階層が出現しつつあるという。その特徴は、生きる意欲に乏しい「だらだらライフ」だという。若い世代の価値観や生活は、どう変化しているのか。そんな階層社会の行き着く先は? 若者の消費行動や意識から読み解いた著者・三浦展氏に聞いた。 (宮崎美紀子)
「やっぱり下流は存在していたことが証明された」。「下流社会」は、今年九月中旬の発売以降、順調に売り上げを伸ばし、現在、六十五万部のベストセラーだ。この反応のよさを、マーケティングの専門家である三浦氏はこう分析した。
「下流」とは、生活に困る「下層」ではなく、上へ行こうという意欲が低い人、つまり、働く意欲、学ぶ意欲、金持ちになりたいという意欲も低ければ、コミュニケーション能力も低い、同氏いわく「人生への意欲が低い」人を指す。当然、所得も低く、結婚できない可能性もある。一方で団塊世代が持つような「自分らしさ」にこだわり、「下流」生活に必ずしも不満を感じていない。
三十代、独身女性を言い当てた昨年の流行語「負け犬」同様、強烈な印象を与えるこの言葉は、三浦氏の造語だ。
「思いついたのは、今年の六月末。いまいちピンとこなかったのが、『下流』を思いついてからは、一気にまとまった。『ダラダラした若者をしかってもいいんだ』と思うと、ちょっと筆が滑ってしまったが」
■「中流」で頑張る こだわりもなし
何百億も稼ぐIT長者がいる一方で、フリーターやニートが増えているのを見れば、「一億総中流」が崩壊していることに誰もが気付いているだろう。「下流」の若者は、それを悪いことだとは思わず、中流へのこだわりもない。親の建てた家があり、「ユニクロ」や百円ショップで買い物をして、ファストフードを食べれば、定職につかなくても十分生活できる。「なんなんだ」と、上を目指してきた大人は思いたくもなる。「下流の出現」という三浦氏の指摘は、そんな漠然とした怒りを説明してくれる。
「若者のドロップアウトは、不思議な現象ではないが、一部に全く働く気がない人がいる。少なからぬ若者が、自分の空間に自閉している。他者のため、誰かを喜ばせるためにエネルギーを向けてもらいたい」
階層化は五年前からの研究テーマだ。既に多くの社会学者によって研究が行われているが、「言い過ぎでは」と思うほど三浦氏が踏み込むのは、マーケティング業界に身を置く人間だからだろう。
「学問は予測してはいけない。でも、マーケティングは予測しなきゃいけない。社会が向かう方向を示すとき、学問は位置まで正確でないといけないが、マーケティングは、大体でいい。素早い意思決定のためにやっているんだから。『下流』も、厳密な定義はなく、簡単に言えば『キーワード』。この言葉は、モヤモヤした世の中が、すっきり見える眼鏡であり、社会を考えるための武器」
「下流」社会の拡大で、良い影響として考えられるのは「大文化国家」だという。少数の頑張りで豊かな国になり、その恩恵で意欲が低い人も歌って踊っていられる社会。「その中から、マドンナやマイケル・ジャクソンが出てきてもいい。今、日本が芸術やスポーツ分野で素晴らしいのは、そういう社会だからだ」
だが、歌って踊っていれば収入は低い。悪い方に進めば「米国型社会になる」。イラク戦争では、就職先が軍隊しかない貧しい州の若者が命を落とした。「軍隊は米国で最大の雇用主。入隊すれば退役後も仕事を紹介してくれる。日本ではそこまでいかないが、そういう不気味な社会になる恐れもある」
「下流社会」では、意欲の低い人が、中流から滑り落ち、所得も上がらず、結婚もできない。結婚しても相手もまた下流で、その子供は、親の意欲が低いため、十分な教育を与えられないという怖い未来が提示されている。下流化を防ぐために、三浦氏が挙げるのが低所得者に対しての機会の優先だ。
「やっぱり、子供が親の所得で制約されてしまうのは、平等な社会ではない。何か見つけたい人、見いだしたい人には、どんどん情報やチャンスを与えなきゃいけない。一円で、一人でも起業できるというような制度が、山のように出てくることが必要だ」
大学で学ぶにしても、入学後に奨学金を用意するだけでは、大学を目指す意欲がない人には効果がない。早い段階から、意欲があれば親の所得に関係なく学べることを示す制度が必要だという。気力がない人に気力を持たせることは難しいが、三浦氏の提言はシンプルだ。
■防ぐには『好き』より『得意』を仕事に
「『好きなことを仕事にしなさい』ってのは、とんでもない。好きな仕事が見つからないからフリーターを続けることになるんだから。その人が一番得意なことを仕事にすればいいと言いたい。夢がないようだけど、一番得意なもの、つまり一番時給が高くなることをやればいい」
「下流」という刺激的なタイトルの本を手に取るのはどんな人たちなのか。
「希望格差社会」などの著書がある東京学芸大学の山田昌弘教授(社会学)は、「自分の子供が下流に転落してしまうのではないかと恐れている中流の親か、自分はこれよりはマシだと確認したい人たち。本当の下流の人は新書など読まないでしょう」と辛辣(しんらつ)に言い放つ。
本の冒頭には「下流度」を測る十二項目の質問がある。半分以上当てはまれば「あなたは下流的」というものだ。
精神科医で帝塚山学院大学教授の香山リカ氏は、大学の講義の中でこの質問を学生たちにしたという。
「こういう質問に学生たちがどう反応するかを見たかった」ためだが、意外だったのは「下流」に当てはまった学生の反応だった。
「ショックを受けたり、憤慨することはない。『私も流行の先端を行っている』という感覚なのか、喜ぶ学生もいた。しかし下流と言われて反感を持たない抵抗力のなさこそが問題で、それが下流化をさらに促進している」
意欲もなく、仕事もしない若者たちの問題は、今後顕在化すると山田氏はみる。「親にパラサイト(寄生)しているからこそ、好きな生活をしていられる。しかし十−二十年先、親が弱ってきたら放り出される運命にある。現状は破綻(はたん)の先送りでしかない」からだ。
「下流」になってしまった人が、そこから抜け出すきっかけはあるのか。香山氏は過激だ。「憲法が変わって徴兵されるとか、石原都知事から『お前たちのような人間は東京を出て行け』と言われるとか、かなり危機的な状況がないとできないかもしれない」
■あなたの下流度は?
「下流度チェック」 (同書から)
半分以上当てはまれば、かなり「下流的」
□年収が年齢の10倍未満だ
□その日その日を気楽に生きたいと思う
□自分らしく生きるのがよいと思う
□好きなことだけして生きたい
□面倒くさがり、だらしない、出無精
□一人でいるのが好きだ
□地味で目立たない性格だ
□ファッションは自分流である
□食べることが面倒くさいと思うことがある
□お菓子やファストフードをよく食べる
□一日中家でテレビゲームやインターネットをして過ごすことがよくある
□未婚である(男性で33歳以上、女性で30歳以上の方)
みうら・あつし 1958年新潟県生まれ。一橋大学社会学部卒。パルコ入社。マーケティング誌「アクロス」編集長を経て三菱総研入社。99年に消費・都市・文化研究シンクタンク「カルチャースタディーズ研究所」設立。主な著書に「仕事をしなければ、自分はみつからない。」(晶文社)、「団塊世代を総括する」(牧野出版)など。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051222/mng_____tokuho__000.shtml