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何も知らずに「欧米では」と言っていないか。   川喜多喬 法政大学経営学部 教授(在ロンドン)
http://www.asyura2.com/0510/hasan43/msg/731.html
投稿者 hou 日時 2005 年 12 月 13 日 23:33:13: HWYlsG4gs5FRk
 

http://www.works-i.com/article/db/wn33_16.html


 日本を離れて久しいが、漏れ聞くところによると、日本企業の経営状況がいっこうに改善しないのは、「日本型」人事管理にこだわっているからで、「欧米型」人事管理を早急に導入しないからだと言う者がいるとか。日本企業の経営状況が改善しないのは、政治家と役人のせいだと思っていたが、私の思い違いかもしれぬ。しかし、それほど「欧米型」って、違うものだろうか。そして「欧米型」だと、経営業績は向上するものだろうか。
 アメリカならどこの金物雑貨工具屋にもある、大工道具トップメーカーのブラック・アンド・デッカーという会社がある。ここでは全社員がほぼ同じ昇給率である。昇給格差を猛烈につけないと会社が滅ぶというなら、B&Dなどはとっくに滅びてなければならない。デルタ航空では、不況で賃金カットが必要なときは、トップマネジャーがまず自分の給与をカットする。不況になると社員をカットして経営者ばかり賃上げする「欧米型管理」は、この「欧米」企業には存在するのだろうか。

「欧米型」人事制度だと利益率は高いか

 「欧米型」のROI(投資収益率)重視経営をやらなければならないと、机上の数字に強い外国帰りのMBAを採用せよと、言う者がいる。しかし1980年代末、GMに対抗するだけの強い会社に、フォードを復帰させたのは、ピーターセン会長の貢献によるところが大きいと言われるが、彼の言葉に、「利益だけを気にして経営を行うことは、テニスをするにスコアボードだけを見てボールを見ないに匹敵する」というものがある。ピーターセンは「欧米人」ではないんだろうか。「欧米の企業は目標管理で、毎年社員を厳しく管理しているから、業績が上がる」と、制度を売り込む者がいる。しかし「目標管理は、目標が何か、上司に理解できる場合は、うまくいく。しかし90%のケースでは、上司にも、さっぱりわかっていない」と法政大学の川喜多先生が言っている……となると大企業の人事課長など、軽蔑して誰も引用などしないし、気にもとめない。しかし、これはかの大ドラッカー先生が言っているのである。
 日本の経営学部の先生の本は出す気ないが、欧米ビジネススクールの先生の本だと争って翻訳する外国崇拝の出版社のために付け加えておくと、ピッツバーグ大学ビジネススクールのスリーバン教授の本を読めば、「目標管理が唱道され30年たち、ほとんどの主要企業が導入しているが、しばしば、失敗に終わっている」。それでも株価だけは上がっている。してみれば「株価だけ高い"強い経営"を作る重要な人事管理手法がMBOにある」なんて、私など恥ずかしくて言えない。株式オプションなどで経営者層を刺激すれば、経営者は勇気凛々、経営をちゃんと行うなどと言う者がいる。 たしかにアメリカを真似れば経営者の所得は急増するかもしれない。『フォ-チュン』誌(94年6月25日)の伝えるところによると、1980〜93年の間に、アメリカの経営層のペイは10倍になった。ストックオプションやボーナスプランで、報酬を得る工夫をしたのである。その結果、これほど株高になる前の1993年ですら、経営職のストックオプションの価値は、基本サラリーの23倍である。結果、生じるのは格差拡大である。「フォーブス500」企業の社長サラリーは、平均的な労働者のペイの157倍となった。現在、格差はさらに拡大している。重要な発見は、主要100社の社長の総収入と投資収益率(ROI)は無関係で(相関係数0.07)、関係あるのは解雇量だということである(相関係数は0.31)。
 一握りのエリ-トの強欲を満たし、大量に「労働力流動化」という名の解雇をして、しかも投資収益率を上げぬ制度の導入をもって、日本の人事制度の未来像とするなんぞ、私にはとうていできない。しかし社長の報酬を上げるような人事制度改革を人事部が提案すれば、経営トップから人事部課長が評価されることだけは間違いなさそうだ。

欧米では人材定着策など放棄しているか

 従業員の定着対策を重視する「日本型」人事はもう古いだって? そうかな。アメリカの大企業の社員たちには、しばしば「黄金の手枷」がはめられると言われる。 つまり、福利厚生があまりに手厚いので、会社を辞められなくなることである。こういう手枷をはめようとしているニューヨークのトップ企業は、どうも「欧米型」人事をやっていないと見える。いや、アメリカの人事管理者向けの最大の雑誌『HR Magazine』を見ても、イギリスの同等の『People Management』を読んでも、みな必死で日本の主要企業お得意の定着対策、福利厚生策を導入しようとしている。
 日本では減量経営を推奨する「国際的人事コンサルタント」は、いまニューヨークやロンドンでは「定着対策コンサルタント」として大活躍し、ボロ儲けしていることをば、ご存じだろうか。彼らは所と事情が変われば違うことを言う。 まことに、したたかである。振り回されているのは、近視眼的な人事の連中ばかりである。「欧米型」では不要になった社員はさっさと退職させると言う者がいる。しかし私の尊敬する数少ない企業の一つ、フェデラル・エクスプレスのザップメイル事業が1986年に廃止されたとき、部門の1300人の従業員には社内のポストへの優先公募権が与えられた。同じ給与水準の仕事が見つからない場合、15カ月間、同等以上の給与水準の仕事が見つかるまでは従前の給与が保障された。
 アメリカのGeneral Millsでは、勤続15年以上の者が解雇される場合には、社長個人の承諾が必ずいる。General Millsが子会社を売るときには、買収側の企業には、同じ人事政策を少なくとも5年間は維持することが契約で要求される。
Hallmarkでは、役員が2人、同意しなければ、誰もクビにはできない。かように社員の雇用に配慮する会社の経営は、悪化しているのだろうか。むろん日本でも経営状況が悪くなれば解雇があった。 欧米でもそうである。時に悪のりして経営状況がいいのに解雇をする企業も日本にある。欧米にもむろん、ある。
 しかし、できる限り社員をその意思に反して解雇することはしないようにしよう、と考えること自体が、捨て去るべき発想だと説くのは主義・主張であるから、別にそれに反論するのは学者の仕事ではないが、そういう経営が欧米では主流であるとする根拠をば学者としては見いだしたことはないし、ましてや社員の出入りが激しいほど経営状況がよいとか、社内の賃金格差が大きいほど経営状況がよいという証拠をば学者としては知らぬ。

「日本型」も「欧米型」も粗雑な概念

 世間になお知られぬ私の言うことを信じぬ人のために、スタンフォード大学のペファー教授の議論を紹介しておく。彼によると、成功している企業の特性は、(1)雇用保障がある、(2)採用に時間をかけ、注意深く行い、むやみと人を入れ替えない、(3)総合的な訓練を行い即戦力に頼らない、(4)職位による格差を少なくする、(5)経営情報を分有する……。
 なんだ「日本型」人事管理ではないか、と私は実は言わない。最初から「 」つきで使っているように「日本型」はこうだ、「欧米型」はこうだなどと生半可な知識を振り回すものをば私は軽蔑しているからである。欧米ってどこだろう? あれほど多様な国々の多様な企業に「典型的な人事制度」などあるのだろうか。日本のごとき小国についてもしかりである。
 よくよく考えて、必要があれば自社の人事労務管理制度を改善したまえ。むろん規範提言は学者の仕事ではないので、実務家にはどうぞと言うしかない。しかし、科学の目でもってすれば、どこにもない「欧米型」などをばモデルだと騒いでいるのは、人事における知性の衰退ではないかと思うのである。

 
川喜多 喬 (かわきた・たかし)
1948年生まれ。76年、東京大学大学院博士課程修了。茨城大学助教授、東京外国語大学助教授を経て、90年より現職。主な著作・共著に『産業変動と労務管理』(日本労働研究機構)、『ホワイトカラ-のキャリア管理』(中央経済社)、『(連載)こだわり人事のすすめ』(「労政時報」労務行政研究所)。企業訪問、現場調査、従業員インタビュ-が専門。現在、欧州に遊学中。


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