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(回答先: 中国経済に飲み込まれざるを得ない。 投稿者 ワヤクチャ 日時 2005 年 10 月 30 日 18:23:44)
東北アジア協力強化にとってのキー・イシューとしての半島問題
NPO法人京都日中文化交流中心 副理事長・京都大学教授
大西 広
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〈歴史的事件としての韓国の反米化〉
日本と同じく対米敗戦国として長期に「親米国家」であったドイツがフランスとともにイラク戦争に反対し「反米化」した.この世界史的意味を同様に持つものが韓国の「反米化」である.盧大統領がいかに対米交渉で譲歩をし、「反米」の外相が更迭されても韓国世論の基本は変化しない.むしろ,この韓国「反米化」の基本的な理由がドイツのそれと同じところにあると考えることが我々には必要である.
というのは,ドイツの「反米化」が東西冷戦の崩壊で「ソ連」という敵を喪失したこと,いいかえれば敵の喪失でアメリカとの同盟が不要になったことを背景としていると理解できるからである。このように理解できるとすれば,韓半島での南北首脳会談は「北」が敵でなくなったことによって,韓国はもはや本質的にアメリカとの同盟を不要にするようになった,少なくとも韓国の若者の意識の上ではそうなったのだと理解できる.つまり,ここでは事実上,「北」はもはや「敵国」ではなくなり,よってその敵対国=アメリカこそが逆に「敵国」となった.この過程で,韓国の「民族ナショナリズム」が大きな役割を果たしたことは言うまでもない.韓国にとっての「民族ナショナリズム」は同じ民族の「国家」、本来統一が果たされるべき「国家」としての「北」との友好を促進し、よって上記の国民感情を強める作用を持っているからである。アジア危機を急速に乗りきった事,オリンピックやワールド・カップでの善戦がそれを更に刺激している。
〈北東アジア一体化におけるキー・イシューとしての半島問題〉
このように考えると,アメリカの世界支配(正確には西側支配)にとって東西の分断=冷戦がいかに重要であったかを知ることができるが,それはとりも直さず,北東アジアの西側同盟=日米韓同盟にとって半島の分断が如何に重要であったかを意味する.結局,この意味で,北朝鮮に対してどのような態度をとるかが「アメリカ重視外交」か「北東アジア重視外交」かの違いを決める.日本の場合も小泉首相の訪朝時には韓国と同様の動きを示したが,その後の拉致問題をめぐるマスコミのキャンペーンとアメリカの介入により路線が引き戻されてしまっている.しかし,今後10年以内には日本も同じ方向に転じるものと思われる。この「10年以内」との根拠は、イラク戦争で泥沼に陥り、ドル危機目前のアメリカの国際的影響力が今後10年以内に急速に減退することが予測されるからである。
もちろん,この方向に転じるには,現在核兵器開発を進める北朝鮮問題の「解決」が不可欠である.日本でもたとえば憲法を踏みにじったイラク派兵などの「親米政策」が行われる際、「北朝鮮の脅威」という論点が決定的なテコとなっている。逆に言うと、これは「北朝鮮の脅威」がなくなったときの「離米」は避けられない。そして、こう考えるとき、北朝鮮の改革開放政策の推進は現在の中国と同じ意味での「無害化」の進行として極めて重要に思われる。実際、昨年秋の各種情報は北朝鮮経済の回復と開放化の推進を象徴するものであった。
〈回復軌道に乗る北朝鮮経済〉
その中心的な情報は穀物生産の豊作の情報である。北朝鮮は2002年7月に「経済改善措置」と呼ばれる大規模な価格改定を行ったが、その中心的な内容は、コメ、トウモロコシといった主要食料の相対価格の引き上げにあった(下表参照)。すなわち、不足度の強い物資の生産にインセンティブを与えて生産増を実現しようとのものであったが、この成果は作付け転換の結果を観測できる昨秋期まで分からなかった。が、しかし、その昨秋期にようやく明らかとなったのが過去最高ではないものの昨年度の穀物生産が対前年で4.7%の増加をしたということである(国連食糧農業機関と世界食糧計画の発表)。まだ完全自給には距離があるものの、過去9年間で最大の生産となった。食糧危機を脱したとともに、自留地を確保した農民たちが価格に反応して作付け転換をするという市場経済の浸透を示す意味で決定的な情報となっている。中国でも改革開放の第一段階はこうした農民へのインセンティブ付与にあった。また、さらに言うと韓国国境の開城、中国国境の新義州という経済特区の建設も急ピッチであって、2003年の繊維や衣料品、プラスチック類などの対中、対韓輸出は対前年比40%以上の増加となった(国内の工業生産も30%台の成長を実現している)。北朝鮮経済は明らかに改革開放の第一段階を突き進みつつある。
表 北朝鮮における2002年7月の価格・賃金改革(単位 ウォン)
旧価格・賃金 新価格・賃金 上昇率(倍)
コメ(生産者価格)(1kg) 0.8 40 50
コメ(消費者価格)(1kg) 0.08 44 550
トウモロコシ(生産者価格)(1kg) 0.5 31 62
トウモロコシ(消費者価格)(1kg) 0.07 33 471
電気料金(1kwh) 0.035 1.8 51
バス・地下鉄料金 0.1 2 20
冷麺(1杯) 15-20 150-200 10
男性用シャツ 25 225 9
男性用ジャンパー 55 555 10
一般労働者賃金 110 2000-2500 15-20
鉱山労働者賃金 6000
政府機関事務職員 180-200 3500-4000 19-20
大学教授 200 4000-5000 20-25
大学教授(博士以上) 7000-8000
米ドル 2.19 150 68
注)重村智計『最新 北朝鮮データブック』講談社現代新書、2002年および
Frank, Ruediger, ‘Socialist Market Economy in North Korea?: The Price Change of 2002 and Their Implications’, presented at Weatherhead East Asian Institute Brown Bag Lunch Lecture of Columbia University, February, 18, 2003.
したがって、北朝鮮の中国経済や韓国経済との正常な関係強化は今後長期に進むと見ざるを得ず、よってこの意味で「北の脅威」を喧伝する条件は減少するから、東北アジアの「冷戦」構造はほぼ完全に融解することを避けることはできない。つまり、この路線上でまずは完全に「離米」し、追って日本もそうならざるを得ない。東北アジアの共同の強化はこうした道を通って進行するものと思われる。
〈中国経済大国化の文脈の中で〉
ところで、こうして北東アジアの諸国が「離米」するということは,実質的にはこの地域で中国が中心的な役割を果たすことになることを意味する.そして,これは2020年や2030年の中国の経済規模を考えた時,極めて自然な現象である.報告者は以前,京大環太平洋計量経済モデルの計算結果として中国のGDPが2025年頃にアメリカのそれを越すと予測したが,この予想は日本が円レートを20数年で3倍化したこと,7%の成長さえあれば十年で倍の実質GDP,25年で6倍弱の実質GDPを持つことを考えれば十分ありうることと言える.この成長スピードで事が進めば,現在およそ14:30:4:52の日:米:中:その他のGDP比(全体で100)が14:30:70:52となる.これは日米のGDP成長率をゼロと仮定しているが,アメリカの成長率を少し高めに想定してもし米中比を50:70と仮定したとしても,その他世界を引き続きゼロ成長と仮定すると,この時の世界のGDP比率は全体を100として,日:米:中:その他世界=8:27:38:28となる.つまり,中国経済は世界のGDPの約4割を占めることとなる.この経済がまずは周辺諸国に,そしてさらに遠方に影響力を拡大することは好き嫌いの問題ではなく,もはや「歴史の必然」という領域に属する現実の問題と捉えないわけにはいかない.
また,この点で重要なのは,こうした傾向が既に始まっていることである.WTO加盟を通じた国際的影響力の拡大,中国があれば日本抜きでもEAEC構想を進められると東南アジアが考えたことを契機に日本もまた「アジア重視」に一定転じた事(この事情は古川栄一, 2002, 「東アジア協力(EAEC)はどうやって実現したか チャイナ・カードで覆された既存の日米協力関係」『月刊東アジアレビュー』第108号に詳しい),「上海シックス」や「メコン川開発機構」などを通じた中国の周辺諸国援助が活発化していることなどに表わされている.世界の重点がアメリカから北東アジアと中国にシフトするという大きな歴史の流れの中で現在の我々を振りかえる必要がある.
〈文明論としての東北アジアの分断とその克服〉
なお、最後に、こうして今まで存在した「東北アジアの分断」とその克服が文明論として持っている意味を確定しておきたい。それは、アメリカによる「分断」をここで「西洋文明による分断」と読み替えたとき、それは過去におけるユダヤ人とムスリムとの共同がバルフォア宣言とイスラエルの建国によって破壊されてきたこととの類似を想起せざるをえないからである。
というのはこういうことである。世間の常識とは異なって、オスマントルコや中東・中央アジアの多くのイスラム帝国はユダヤ人に広く活動の機会を与え、それによって利益を得続けていたものであった。たとえば、例の十字軍でさえ、キリスト教徒のイスラム教徒に対する攻撃というだけでなく、当地のユダヤ人への攻撃でもあった。が、今や西洋3宗教間の同盟関係が逆転をして、ユダヤ人がキリスト教徒と同盟するような関係となっている。このことをより強く表現すると、特別に経済の強い民族としてのユダヤ人を以前はイスラムが自分のものとしていたのに対し、現在ではキリスト教徒、なかんずくアメリカが自分のものとするようになった。世間ではユダヤ人がアメリカを乗っ取っているとの解釈が主流であるが、そうではなくアメリカがユダヤ人をイスラムから盗んだというのが筆者の趣旨となる。
このことを本稿の最後に述べたいのは、こうした「西洋(キリスト教)による金の卵の窃盗」は我々の東北アジアにもあったのであって、それが戦後における日韓(台)の位置であったという解釈である。つまり、ユダヤ=イスラム同盟におけるイスラエルの建国に対応する、東北アジアの分断の仕掛けは半島の分断にあった。この意味でも、半島の分断状況の克服=北朝鮮問題の解決は文明論的意義を持つのである。
したがって、現在の趨勢は極めて明るい。我々の前途は洋々たるものだというのがこの意味で筆者の主張である。
(参考文献)
大西広『グローバリゼーションから軍事的帝国主義へ』大月書店,2003年8月