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http://www.asahi-net.or.jp/~bd9y-ktu/message/c21.htmlより
「01/11/14 朝日新聞 経済評論家・内橋克人氏に聞く(テロは世界を変えたか)」
マネー資本主義はどうなるか
(聞き手・企画報道室次長 渡辺淳悦)
(前半は省略しました(by heart))
○イスラムは対極に
――イスラムはマネー資本主義に対抗するものなのですか。
「イスラムでは労働の対価以外の報酬を受け取ってはならない。人もカネも神が与えたものであり、イスラムの金融機関は利子、利息の概念そのものを禁じている。預金にも利子はつきません。ゼロコストの資金を集め、自ら生産設備をあがなって起業家に提供しています。リスクも成果も事業家と共有する。基本にあるのは喜捨の考えです。利が利を生むマネー資本主義に対するアンチテーゼがイスラムにある」
「イスラム銀行はすでに世界20カ国に広まっています。マネー資本主義とは異なる価値観であり、いま、世界に台頭している地域通貨などの思想とも通底するところがあります。世界市場化への対抗思潮として、その対極にあるものにとっては根源的な脅威と映るでしょう」
――イスラムが資本主義にとってかわるとお思いですか。
「いや、とってかわるのではなく、市場経済をより健全なものにする上で価値の高い対抗思潮だと思います。冷戦構造の時代には社会主義圏がその役割を果たした。年金、医療、福祉を含む広範な社会保障などの制度は共産圏にどう対抗するかということから、資本主義が渋々、譲歩しつつ生みだしてきたものです。そうした対抗思潮がなくなって、マネー 資本主義が自由に燃えさかったのが90年代でした」
○資金シフト光と影
――マネー資本主義は終わる方向にあると。
「超金融緩和でどんどんマネーを世の中に供給すれば景気がよくなると考えたのが、全く効果を発揮しない。経済が質的に変わって、マネーの魔力が次第に通用しなくなる。世界に流通しているドルは300兆ドルということですが、地球上に存在する国々のGDPの合計は30兆ドル、実際に貿易の決済に必要なドルは8兆ドルといわれます。利が利を 求めて世界中をはいかいし、あらゆる格差を突いて利益チャンスとする、そういう現実が目に見えるようになった。マネーの暴力、非道徳性を正当化するようなマネー資本主義に対して早い時期から私は警鐘を鳴らしてきたのですが……。長い人類の歴史はむろんのこと、資本主義の歴史から見てさえ大いなるゆがみである、と」
――貧困が多数派という状況の中ではテロは根絶できないのでは。
「世銀のリポートによれば、1日当たり1ドル以下の所得で暮らす貧困層は10年前に比べてむしろ大幅に増えている。サハラ以南のアフリカ、南アジア、旧ソ連を含む一部の地域で。グローバリゼーションは資金不足の地域に資金をシフトさせた光の部分もあったかもしれないが、それ以上に影の部分が強かった。富の一極集中という構造を是正する必 要がある」
――今後は、健全な資本主義に戻るのでしょうか。
「戻るというより進む。ある意味ではもっと抑制された市場経済へと進化すると思う。逆にいえば資本主義そのものをより人間化するという方向に進むのではないか。巨大なマネーの襲撃から地域と社会を防御するいかなる制度も障壁とみなして排除しようとする、そういうグローバリズムの終えんです」
「資本主義がよりよく機能していくためにいくつかの薬が必要です。国際的な資本移動のモニタリング、またヘッジファンドに湯水のごとく資金をそそぎ込む金融機関の情報開示など、新たな政府機能が国際的に求められるようになる。さらに環境、資源、景観など、いわゆる公共空間を市場には任せない、という政府機能の強化こそ世界の緊急課題です」
「北欧諸国は自給自足圏の形成に積極的です。私はF(フーズ、食糧)とE(エネルギー)とC(ケア)の地域自給自足圏ということをずっと言ってきました。北欧にとどまらず、多くの地域社会で取り組みが始まっています」
○競争と共生の並立
――北欧型の社会がモデルなのですか。
「日本モデルをつくりあげないといけないでしょう。日本の資本主義は二つの側面を持つ。一つは身内資本主義的な遅れた側面。利権構造、官僚優越という体制で、小泉首相はそこに果たし状をつきつけて高い支持率を得ている。ところが日本にはもう一つ高度に発展した資本主義、GDP世界2位の経済大国という側面もある。後者の市場原理主義によって前者の遅れた資本主義を克服しようというのが小泉構造改革の本質だ。つまりビッグバンアプローチですが、これは幾多のIMF支援国に適用して失敗した手法です」
――自給自足圏の中でも安定した経済成長は可能ですか。
「ほどほどの成長は可能です。それを実践しているモデルは世界にたくさんあります。『浪費なき成長』です。市民参加型の資本主義へ向けて変わらざるを得なくなる。競争セクターと共生セクターが並び立つ多元的経済社会ですね。それこそ人類の望みであり、必然でもあると思います。資本主義は今、大きな転換点にさしかかった。求められているのはグローバリゼーションの新たな組み替えです。そういう視点がこれから世界に強く根づいていくでしょう」
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うちはし・かつと 神戸新聞記者を経てフリーに。経済、国際、技術に対して個の視点から硬派の発言を続ける。著書に「匠(たくみ)の時代」「共生の大地」「不安社会を生きる」「内橋克人 同時代への発言」(全8巻)など。69歳。