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[希望のトポス]「小泉擬装改革」の対極にある日本の「優秀企業の条件」(3/4)
(6)優秀企業のトップには、「主流」を批判できるだけの貴重な経験(周辺部署や子会社などでの)を積み重ねた人が多い。言い換えると、彼らはそのキャリアの中に「傍流の時代」を持っており、たとえ創業者の一族であったとしても普通の意味でのニ・三世とは違う。
■キャノン
http://canon.jp/
・・・日本では、一般の会社がアメリカ型の「カンパニー制」を導入しても「持株会社」の社長にお伺いを立てるばかりの「ひらめ社長」(二つとも目が上についているゴマスリ)が多いが、「キャノン改革」の場合は始めから“自分の頭で考えるカンパニー社長のための人材育成”が目標とされた。御手洗富士夫社長は、同属出身ながら入社5年目でキャノンUSAへ出向し、以来23年間に及びアメリカで過ごすという、いわゆる傍流組の社長就任であった。このため、客観的な観点から思い切った不採算部門(パソコン。ワープロなど)の整理を断行し、キャノンを利益体質の企業に変貌させることができた。
・・・御手洗社長の成功の元は、外から会社を客観的に眺める体験をしたことで「会社の裸の事実」を冷静に認識できたところにある。従来の企業は、自社内のどこかの部門での「撃墜王」(卓越した業績向上の達成者)を経営層へ参加させるという人事が一般的であったが、それは「名選手=名監督」という固定観念に嵌っていたことを意味する。これからの時代の帝王学には、「主流」を批判できるだけの慧眼を身につけさせる意図的な「傍流経験」を加えるべきである。
(7)優秀企業のトップは「危機をチャンスへ換える不屈の精神」を身につけている。彼らは、追い詰められた時にこそ新たな方向性を発見して、それを千載一遇のチャンスとして活かしている。
■マブチモーター
http://www.mabuchi-motor.co.jp/ja_JP/index.html
・・・日本製の金属玩具の塗料に含まれる鉛がアメリカで問題となり、創業3年目(1957)に存亡の危機に遭遇した。当時、マブチモーターは玩具用モーターに100%依存していた。もし、ここでモーター以外の事業へ多角化したら現在のマブチはなかった。しかし、馬渕健一社長(創業者)は、そのようには考えず、多角化ではなくマブチのモーターを活かす「多用途化」へ活路を開き、そのカギが機能の強化と低価格化であることに気付いた。その結果、「ヘアドライヤー、ビデオデッキなどのローター、電気髭剃り」など凡ゆる生活用具分野等の用途へマブチモーターの需要を広げることに成功した。
■ヤマト運輸
http://www.kuronekoyamato.co.jp/
・・・宅急便前夜のヤマト運輸は存亡の危機に瀕した会社であった。それは、初代社長が“トラックは近距離小口輸送のためのもの”という固定観念に囚われていたため、高度成長期の長距離輸送の時代に乗り遅れたからである。このため、小倉昌男社長が仕事を引き継いだ時は倒産の危機が見舞おうとしていた。が、小倉・新社長は「個人小口輸送」という全く異質のマーケットに目を向けることで、この分野の創始者となり、会社の存亡の危機も乗り越えることができた。
(8)優秀企業のトップは「身の丈に合った成長を図り、事業リスクを直視する」という経営方針に徹している。総じて、これらの優秀企業は「資本市場に邪魔されない自律性を有している」が、これは「キャッシュフロー管理」の問題であり、言い換えれば、それは「収入−支出」で算出される現金の収支のことである。売上拡大(売掛金拡大)で見かけ上の利益が出ても、その売掛金(債権)の回収が伴わなければ経営の中は火の車ということもあり得る訳で、資金が手元に残らなければ黒字倒産である。つまり、キャッシュフロー重視の経営では、できるだけ多くの資金を手元に残すことが目標となる。ここから「売上規模拡大至上主義」の誤り、「売上と仕入れのバランス」の重要性、「将来のキャッシュフロー見通しと設備投資のバランス」の重要性などの経営的な観点が生まれる。
■キャノン
http://canon.jp/
・・・御手洗富士夫・社長は、就任時に打ち出した「改革プログラム」の中でキャッシュフロー経営を唄った。当時は、投資総額が1,300億円あり、減価償却は800億円であった。そこで御手洗社長は、500億円の利益があれば、純利益と減価償却だけで投資が全部賄えると考えた。キャノンの場合、この500億円の純利益を経常利益に換算すると約1,000億円になることを確かめた上で、この1,000億円の経常利益を稼ぐことを当面の目標として、早くも1996年にその目標を達成した。
■任天堂
http://www.nintendo.co.jp/
・・・任天堂は巨額の現金を手元に抱えているので、しばしば金融機関や経営コンサルタント(これら専門家を自認する業界の中に如何に詐欺師的、又はいい加減な輩が多いかは、銀行の不良債権問題や耐震強度擬装事件を回顧すれば分かる)から、任天堂は「資本効率の重要性」が分かっていないと批判された。しかし、これは山内 溥・前社長の自社に関する「独特の事業リスク感覚」がもたらしたものであった。つまり、山内 溥・前社長には「ゲームソフト産業は見込み生産なので、不安定な需要から派生する開発・製造リスクが常に付き纏う」という信念があった。そして、これは1982年の「アタリショック」(アメリカのゲーム業界を席巻していたアタリ社の突然の倒産)で見事に実証された。また、任天堂はバブル期にも一切「財テク」には手を出さなかった。娯楽の創造は特異だが、「財テク」は特異分野でないことを自覚しているのである。
(9)優秀企業のトップは「経営者は、持続性のある規律的で個性的な文化を自社の事業の中に埋め込むべきだ」と考えている。言い換えれば、これらの優秀企業には「経営者と従業員の双方を律する文化的な伝統」が存在する上に、使命観や倫理観といった「カネ」以外の規律が存在するということである。
[結論]
(1)「事業領域(ドメイン)を矢鱈と拡大せず、真面目に自分の頭で考え抜き、愚直なほど自分で理解できる範囲の仕事に限定しながら、それに情熱を傾けて取り組んでいる」という点に、優秀企業のトップの特徴が見られる。
(2)優秀企業のトップは、このような愚直さの上に「明快な経営ビジョン」と「非常に高い説明能力」を持っている。
(3)産業分野の新・旧の別、ハイテク・ローテクの別、内需・外需の別などで企業の成長性を論ずる「常識」は、一種の「固定観念」に過ぎない。
(4)優秀企業のトップは、徹底した「現場主義者」であり、「机上の空論(=論理)」に遊ぶことなく現実社会(自然、文化、伝統、習慣、ヒト、カネ、モノ、人的ネットワーク、地域社会など)の「因果律」を大切にしている。
(5)優秀企業のトップは、「主流」に甘んじることなく、むしろ「主流」を厳しく批判できる「傍流の目」を持っている。
(6)優秀企業のトップは、「危機をチャンスへ換える不屈の精神」を身につけている。言い換えれば、それは徹底した「プラス思考」である。
(7)優秀企業のトップは、「身の丈に合った成長を図り、事業リスクを直視する」という感性を身につけている。言い換えれば、それは「徹底したキャッシュフロー管理」による経営であり、「バブル志向」、「売上至上主義」、「株の時価総額主義」、「野放図な設備投資拡大」などとは一線を画しながら徹底したバランス経営を行っている。
(8)優秀企業のトップは、「市場」による規律よりも「自社の企業文化」による規律(ガバナンス)の方を重視している。それは、企業人としての一種の「使命感」でもある。
(9)日本企業に経営戦略がないという“アメリカかぶれ”の政治家・官僚・学者・企業家・経営コンサルタントらの批判は間違いである。欧米式であるか、日本式であるかではなく、要は以上の(1)〜(8)の日本型経営の原点を見据えることである。そうすれば、そこから日本社会のあるべき活力源の姿と光が見えてくる。
(To be continued.)
(参考URL)http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/
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