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[希望のトポス]「小泉擬装改革」の対極にある日本の「優秀企業の条件」(2/n)
経済産業省・情報経済課の新原 浩朗課長(経済学博士)の「日本の優秀企業三十社」を対象とした「優秀企業の条件についての研究」(http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/niihara/01.html)という論文があります。その詳細は、原文で読んでいただくとして、この中から「日本の優秀企業三十社」の特徴を抽出して、多少私見も加えながら要点を纏めてみます。
[研究の前提になる問題意識]
1990年代以降のアメリカ型経営の導入で、昨秋以降において漸く日本企業の回復傾向(日本景気の回復傾向)が見られるようである(*注)が、本当に日本企業の経営力が強化されたのかという点については疑問が残る。それはさておき、一定の特徴的な要素を切り口として「日本の優秀企業三十社」を選び、これらの企業に共通する特徴を抽出した。
*<注>現在の景気回復傾向が「小泉構造改革」の成果であるという点については疑義がある。この論点の詳細は、当記事(1/n)を参照。
[アメりカ型経営の特徴]
アメリカ型経営で前提となるのは「株主重視」ということ。つまり株主から調達した資金(直接金融による調達資金)を使って最大限の収益を上げることが主な目的となる。従って、「売上」や「経常利益」よりも「ROE(株主資本利益率)」や「EVA(経済付加価値)」に代表される経営効率の追求が重視される。このため、「成果主義」の人事管理と「リストラ」(不採算部門の撤収と不要人員の削減)が徹底して実施される。要するにアメリカ型経営のコーポレート・ガバナンスでは「株主」が最大の統治権を持つ最上位に立つ。このため「株価の時価総額」が重要視される一方で、各企業の構成員(社員など)は末端に位置することになる。これらの要素を具体的に整理すると下記のようになる。
また、その他のアメリカ型経営の特徴には「執行役員(Chief Executive Officer)」と「カンパニー制」がある。「執行役員(CEO)」は、取締役の決定に基づいて業務の執行に専念する役割であり、役員という名がつくが取締役・監査役などとは異なる。日本にある従来の役職名で言えば支配人(取締役と部長職の中間)に相当する。「カンパニー制」は、社内分社制の仕組みであり、各事業部門をあたかも独立した会社のように分け(擬制資本を設定し)て、事業を運営する仕組みである。ヒト、モノ、カネの経営資源を各「カンパニー」に配分して「独立採算」意識を徹底するとともに「権限」を大幅に委譲する。
[経営分析で使った指標]
「ROE(株主資本利益率)」(Return on Equity/資本効率を見る指標)
・・・税引後利益を株主資本(自己資本)で割った数字。株主資本がどれだけ効率的に使われているか(資本効率)を見ることができる。ただ、株主資本が異常に小さい場合も、この数字は高くなる。従って、REOは自己(株主)資本比率(総資本(=自己資本+他人資本(負債))に対する自己資本の割合)など財務体質の安全性を測る指標と合わせて見る必要がある。
「総資本経常利益率」(収益性を見る指標)
・・・総資本に対する経常利益率の占める割合。 この比率は、どれくらいの元手で如何に効率よく利益を稼ぐことができたかという投資効率を判断する基準となる。
「自己資本比率」(株主資本比率/安全性を見る指標)
・・・自己資本を総資本で割った数字。自己資本は返済の義務がないため、この数値が高いほど安全性が高くなる。
「経常利益額の推移」(企業の成長性を見る指標)
「EVA(経済付加価値)」(Economic Value Added/資本コストを加味して収益性をより厳しく見る指標)
・・・この概念に最も近いのは、いわゆる付加価値(粗利益)である。しかし、EVAは[粗利益-(支払利息+配当)]で定義されることから、予め資本コスト(支払利息+配当)を差し引いた付加価値を意味する。
「日本の優秀企業三十社」は、主にこれらの要素に着目しながら過去15年間の経営的な数字を追跡し、詳細な分析を加えて抽出したものである。また、最終的にリストアップした企業三十社については経営トップ及び様々な関係者へのヒアリングが実施されている。
[日本の優秀企業に共通する八つの特徴]
<注>各項目の下に、■で具体例を示した。
(1)特筆すべきは、これら優秀企業のトップが押し並べて「説明能力が非常に高い」ことであり、その裏付けとなるのが彼らが「明快な経営ビジョン」を持っていることである。
(2)たとえ所属する産業自体が古くても、企業によって「優秀なビジネスモデル」は成立している。この意味で「固定観念」が害になる。
(3)内需に依存する企業は弱く、貿易で国際競争にさらされる企業が強いという常識も通用しない。ここでも「固定観念」が通用しないことが分かる。
(4)トップ自身が「自社の取り組むべき事業範囲」を明確に認識している。逆に言うと、優秀企業のトップは自分が理解できない事業は決して手がけない。別に言えば、優秀企業の経営者の頭の中は明快なコンセプトの塊であり、そのコンセプトが取り組むべき事業範囲の絞り込みに役立ち、かつトップの現場感覚が非常に優れている。
■マブチモーター
http://www.mabuchi-motor.co.jp/ja_JP/index.html
・・・町工場から創業したマブチモーターは、ただ一種類の商品である小型モーターにすべての努力を傾注しつつ世界相手の専門店になることを目指し世界シェアの50%以上を占有する企業に発展した。
■シマノ
http://fishing.shimano.co.jp/
・・・アウトドアで使われる最終消費財で、それなりの極限的な性能と高度な金属加工技術が要求され、他企業がまねしにくい分野に事業を絞り込んだ結果、売上の7割弱を占める自転車部品を筆頭に釣具・ゴルフクラブなどが大きな割合を占めている。1960年代に確立した冷間鍛造技術(常温で金属を変形する技術)などの金増加工技術への信頼が厚い。
■ホンダ
http://www.honda.co.jp/
・・・自動車のデザインが歴代社長の決定事項となっている。伝統的に、ホンダは現場、現実、現物の「三現」をトップが体感している。いわば、ホンダは「世界規模の中小企業」に徹している。
■信越化学工業
http://www.shinetsu.co.jp/j/
・・・化学産業分野で、デュポン、ダウケミカル、BASF、バイエルに次ぐ世界第五位の株価時価総額を達成した。今や、信越化学工業は世界トップクラスの高機能素材メーカーであるが、事業をシェアトップの領域に集中するとともに、金川千尋・社長が内容をすべて掌握できる範囲に事業規模を納めている。卓越した経営者である金川社長は社内電子メールを使わず電話で会話する。また、成否を問わずリスク判断の最終責任はトップの社長が取ることになっている。ここに見られるのも優れた現場感覚と「大きな中小企業」という独特の経営感覚である。
(5)トップが自分の頭で「因果律」的に考え抜ぬく力量がある。「因果律」的にとは、別に言えば「机上の空論ではなく、現実的な論理でものごとが考えられる」ということである。無論、これは知識を詰め込むだけの頭の働かせ方からもほど遠い。また、これら優秀企業のトップは「常識」、「通説」、「他社の成功事例」を無批判に受け入れることはしない。
■セブンイレブン・ジャパン
http://www.sej.co.jp/index.html
・・・鈴木敏文会長は、“我われは現場にいるのだから、顧客のことだけを考え自分で仮説を立て、それを実行で検証することが仕事だと、断言する。1973年、米国サウスランド社と契約してコンビニ事業を始める時には慎重論が大勢を占めたが、電機などの輸出産業を例示して反論した。これら日本の輸出産業が勝ったのは、規模ではなく生産性であり、生産性を高めれば小規模店舗でも勝てるという「現実的な論理」(因果律)で日本初のコンビニ事業を開拓した。
■ヤマト運輸
http://www.kuronekoyamato.co.jp/
・・・小倉昌男社長は、常識を疑い、役員たちの反対を浴びながら宅配便を現実的に成立させるシステムを考え抜き、「宅急便」を確立した。なお、二代目である小倉社長は、就任直後に結核療養を余儀なくされ、復帰して間もなく、今度は静岡運輸へ出向となり、労務管理から現場作業までの経験を積むことができ、結果的に経営の基本を具体的に習得した。つまり、机上の空論(論理)ではなく、現実を支配する「因果律」を身につけた。
■花王
http://www.kao.co.jp/
・・・後藤卓也社長は、社員に「資本コスト」の意識を持たせるため日本で初めてアメリカ生まれの経済指標、「EVA(経済付加価値)」(Economic Value Added)」を導入した。また、後藤社長の持論は「知識は知識として、それよりも自分自身の頭で考え抜くこと」の重要性を信念としている。
(To be continued.)
(参考URL)http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/
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