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米国の新たな敵の出現【Emerging Revolution in the South】
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投稿者 姫子音 日時 2005 年 12 月 19 日 18:31:57: ufZh96zaorBXw
 

Emerging Revolution in the South 2005年11月16日より引用。


中南米人は過去数年間を、彼ら自身の声を見つけ出すことに費やしてきた。現在、彼らは北の隣人に挑む力を手にした可能性がある。〔New Statesman記事の導入部より〕

米国の新たな敵の出現
〔The Rise Of America's New Enemy:Original Article in English/ZNet原文

ジョン・ピルジャー〔John Pilger〕;New Statesman;2005年11月10日

まるで重力に引っ張られているかのように渓谷へと広がるラ・ベガ村の手前の、最後の中産階級地域であるパラディソで、私は降ろされた。嵐が予想されており、2万の命を奪った1999年の泥流を記憶に留めている人々は不安げであった。「なぜここに来たのですか?」と丘をゴトゴトと登る満員のジープ・バスの中で、私の反対側に座る男性は尋ねた。中南米の多くの人々と同様、彼は年老いて見えたが、そうではなかった。私の答えを待たず、彼はウゴ・チャベス大統領を支持する理由を並べた。学校、診療所、手頃な食料、「私たちの憲法、私たちの民主主義」そして「初めて石油収入が私たちに向けられている。」私は彼がチャベスの政党MVR(第五共和国運動)に所属しているか聞いた。「いいえ、政治政党に所属したことは一度もありません。私が語れることは、私の人生がどの様に変化したのかだけです。夢にも思わなかった程に。」

私がベネズエラで度々聞いた、この様な生の証言が、西側諸国と、立ち上がり始めた大陸の間の一方通行の鏡を粉砕するのである。立ち上がると言って私が意味するのは、「眠りの後の獅子のように/征服されざる数で」と詩人シェリーが「無秩序の仮面」で記したように、数百万人の人々が再びざわめき立っている現象である〔訳注1〕。これは空想的ではない。社会全体を搾取と使い捨ての範囲に減少させる固定観念や陳腐な決まり文句をはるかに越えて、私たちの注意を喚起する、叙事詩的な出来事が中南米において展開している。

バスの男性や、予防接種を受け、初めて歴史・芸術・音楽を教わっている子供を持つベアトリスや、70代になって初めて読み書きをするセレドニア、そして真夜中にある医者――彼が生まれて初めて出会った医者――により命を救われたホセにとって、ウゴ・チャベスは「扇動者」でもなければ「専制君主」でもなく、人道主義者で民主主義者なのであり、彼は3分の2に近い国民の票を得ており、9つの選挙での勝利により認められている。それをダウニング街〔英首相官邸所在地〕の本物の専制君主であるブレア〔英首相〕を再就任させた5分の1の英国有権者と比較するといい。

チャベスと、コロンビアからアルゼンチンまでに及ぶ一般民衆の社会運動の高まりは、スペインの絶対主義により脅されていた社会に、フランス革命の思想をもたらした、1783年にベネズエラで生まれたシモン・ボリバルから始まった偉大なる独立闘争により鼓舞された、大陸をまたがる流血のない根本的な変化を象徴する。1960年代のチェ・ゲバラと現在のチャベスのように、ボリバルは北の新たな植民地の支配者を理解していた。「アメリカ合衆国は自由の名のもとに、アメリカ大陸を不幸で蔓延させる運命であるようだ」と、1819年に彼は述べた。

2001年のケベック市での米州首脳会議において、ジョージ・W・ブッシュは自由の名のもとの最新の不幸を、米州自由貿易地域(FTAA)という形で宣言した。それは米国が観念的な「市場」、新自由主義をついに全ての中南米に強いることを可能とするものであった。それは、メキシコを米国の労働搾取工場に変えた、ビル・クリントンの北米自由貿易協定〔NAFTA〕の当然な後継物であった。ブッシュは自慢げにそれが2005年までには法律化されると語った。

11月5日に、ブッシュはアルゼンチンのマル・デル・プラタにおける2005年の首脳会議に到着し、FTAAは議題にも上がらないと告げられた。34の国家元首のなかには、新しく、服従しない面々がおり、その全ての面々の背後には、米国に後援された企業の暴政をもはや進んで受け入れない人々がいた。かつて中南米の政府が、この種の偽りの合意について人々に意見を聞くなどということは一度もなかった。だが、現在彼らはそうせざるをえない。

ボリビアでは過去5年間、社会運動が複数の政府と外国企業のどちらをも追い出した。その企業のなかには、人々がトタル・ロキュラ・カピタリスタ――完全なる資本主義者の愚行――と呼ぶ、ほぼ全て、特に天然ガスと水を民営化することを課そうと追求した、触手を伸ばすベクテル社も含まれる〔訳注2〕。チリのピノチェト〔訳注3〕に続き、ボリビアは新自由主義の実験室と化すのであった。貧者のうちの最も貧しい者は、雨水にすら、最大でわずかな所得の3分の2を請求された。

標高4300メートル以上のアンデス山脈に位置する、エル・アルトの荒涼とした、凍えるような、丸石の敷かれた通りに立ち、あるいは、彼らの土地から追い出された鉱山労働者や農民の、石炭ブロックで出来た住居のなかで腰を降ろし、私は、英国や米国ではめったに引き起こされることのない類の政治論議をしてきた。彼らは率直で雄弁である。「私たちはなぜこれほど貧しいのか」と彼らは言う「私たちの国がとても富んでいるのに? なぜ政府は私たちに嘘をつき、外部の勢力の代弁をするのか?」彼らは500年の征服を生きた存在として言及し、それはその通りなのであり、先住民の奴隷労働により採掘された、銀の丘であるセロ・リコのスペインによる略奪までの道のりを遡る。そしてその略奪が3世紀の間スペイン帝国の財政をまかなった。銀が底をついたとき、そこには錫があり、1970年代に国際通貨基金(IMF)の要請により鉱山が民営化されたとき、錫は急落し、それと共に3万の職が失われた。コカの葉がそれに取って代わったとき――それを噛むことは飢えを抑える――米国に強制されたボリビア軍が、コカの作物を破壊し、刑務所を満たし始めた。

2000年に、むきだしの反乱が、白人企業寡頭政治と、アンデスのバチカンさながらに〔首都〕ラ・パスの中心部に位置する要塞を持つ米国大使官を襲った。いまだかつてこの様な事はなかった。その理由は「私たちの先住民の魂を守るため」大多数の先住民族がそれを始めたことにある。中南米全土における先住民族に対するあからさまな人種差別は、スペインの遺産である。彼らは見下されるか、存在せず、あるいは観光旅行者の好奇心の対象である。山高帽と色とりどりのスカートの女性達。それ以上ではない。オスカル・オリベラ〔訳注4〕のような洞察力のあるものたちに率いられ、山高帽と色彩豊かなスカートの女性達は、彼女たちの水が公共の所有に戻るまでの間、ボリビア第2の都市コチャバンバを包囲し、封鎖した。

それ以来毎年、人々は、水あるいはガス戦争を戦って来た〔訳注5〕。それは本質的に民営化と貧困に対する戦争である。2003年にゴンサロ・サンチェス・デ・ロサダ大統領を追い出した後、ボリビア人は国民投票で本当の民主主義に投票した。社会運動を通し、彼らはベネズエラのチャベスによるボリバル革命を築いたものに似た、憲法訂正議会を要求し、それと同時に、FTAAと他の全ての「自由貿易」協定の却下、国際的水企業の追放、そして全てのエネルギー資源に対する50%の課税も要求した。

後任の大統領カルロス・メサが計画の実行を拒絶したとき、彼は辞任を余儀なくされた。大統領選挙が12月4日に予定されており〔訳注6〕、野党の社会主義運動(MAS)が古い体制を追い出す可能性がある。その党首は先住民で、元コカ栽培農民であるエボ・モラレスであり、米国大使は彼をオサマ・ビン・ラディンになぞらえている。実際には、彼は社会民主主義者であり、コチャバンバを封鎖しエル・アルトから山を下り行進してきた者達にとっては、控えめすぎるのである。

「これはそう容易にはいかない」と、エル・アルト市住民連合〔Fejuve〕の先住民委員長であるアベル・ママニは語った。「私たちが勝利したとしても、選挙は解決策にはならない。私たちが保証しなければならないことは、憲法訂正議会であり、そこから米国が望むものではなく、社会的公正に基礎を置いた民主主義を築いていくことです。」偉大な政治壁画家ウォルター・ソロンの息子である、作家のパブロ・ソロンは「ボリビアの物語は、政府の背後にある政府という物語である。米国は金融危機を作り出せるのだが、これは実際には彼らにとって観念的な問題なのである。彼らは新たなチャベスを容認しないと言っているのである」と語った。

しかし、人々は新たなワシントンの売国奴を容認しない。教訓は、4月に大統領宮殿から逃げるルシオ・グティエレスをヘリコプターが救ったエクアドルである。先住民族によるパチャクティク運動との同盟により政権を勝ち取った後、汚職スキャンダルで溺れるまでの間、彼は「エクアドルのチャベス」であった。平凡な中南米人にとって、お上の汚職はもはや許されない。それこそがブラジルでルラの労働党政権が、ほぼ足踏み状態である2つの理由のうちの1つなのである。もう1つの理由は、彼自身の国民よりも、IMF経済政策を優先してきたことにある。アルゼンチンでは、2001年と2002年に社会運動が5人の親ワシントンの大統領を追い払った。海を隔てたウルグアイでは、CIAの最も残忍なテロ作戦の1つと戦った、1970年代のゲリラであるトゥパマロスの社会主義後継者である拡大戦線が昨年人民政府を組織した。

現在全ての中南米諸国において、社会運動は決定的な勢力なのだ――ブッシュの最も忠実なしもべで、恐怖国家であるアルバロ・ウリベ・ベレスのコロンビアですらそうなのである。先月、先住民族運動はコロンビアの32の県全てを行進し、「銃と同等の害悪」の終焉を要求した。すなわち新自由主義である。中南米全土で、ウゴ・チャベスは現代のボリバルである。人々は彼の政治的想像力と彼の勇気を賛美している。唯一彼のみが米国をテロの根源であり、ブッシュをセニョール・ペリグロ(ミスター・デンジャー)と評する度胸を持っている。彼は、彼自身が尊敬するフィデル・カストロとは大分違う。ベネズエラは、裕福でいまだ強力な、束縛されていない反対派が存在する非常に寛大な社会である。左翼のなかには原則として国家に反対し、改革が限界に達したと信じており、権力が共同体から直接生じることを望む者達がいる。彼らは力強くそう言うが、それでもチャベスを支持している。雄弁な若い無政府主義者のマルセルは、2人のキューバ人医師が、彼の彼女に緊急救命治療を行った診療所に案内してくれた。(物々交換合意により、ベネズエラは医者を引き換えにキューバに石油を送っている。)

全ての居住地の入り口には、基本食品から食器用液体洗剤にいたる全てのものが、商業商店よりも40パーセント安い、国営スーパーマーケットがある〔訳注7〕。政府が検閲を実行に移したというもっともらしい非難にも関わらず、多くのメディアは相変わらず猛然と反チャベスのままである。その大部分は、中南米のルパート・マードックである、グスタボ・シスネロスの手中にある。彼は2002年4月にチャベスを退ける失敗した試みを後援した。変化した点は、当時カラカスに行進するよう人々に呼びかけることにより、チャベス救出の重要な一旦を担った、活気に満ちた共同体ラジオ局の急増である。

次のブッシュの攻撃を予測して世界がイランとシリアに注目している一方、ベネズエラ人は彼ら自身が次〔の標的〕と成りうることを知っている。3月17日に、ワシントン・ポスト紙は「ブッシュ家と深い関係にある、元CIA諜報員」のフェリス・ロドリゲス〔訳注8〕がベネズエラ大統領の暗殺計画に関与したと報道した。9月16日に、チャベスは「私はベネズエラ侵略計画についての証拠を握っている。さらに、私たちは証拠書類を持っている。すなわち、侵略当日にどれだけの爆撃機がベネズエラの上空を飛ぶのか...米国はキュラソー島〔訳注9〕で演習を実行している。それはバルボア計画と呼ばれる〔訳注10〕。」その後、漏洩したペンタゴンの内部文書は、ベネズエラを「あらゆる側面の」立案を要する「イラク後の脅威」として断定した。

ジープのあの年老いた若者、ベアトリスと彼女の健康な子供たち、そして「新たな自尊心」を持ったセレドニアはいかにも脅威――代替案の脅威であり、まっとうな世界なのである。一部の人々は、それがもはや可能ではないと嘆く。いや、それは可能であり、私たちの支援を必要としている。

初出はニューステイツマン〔First published in the New Statesman〕 ― www.newstatesman.co.uk


訳注

1:パーシー・ビッシュ・シェリーは、「フランケンシュタイン」で知られるメアリ・シェリーと結婚した英国の詩人。「無秩序の仮面」の原文はウェブ上で読める。

2:ベクテル社についてはこことここを参照。

3:1973年に社会主義政党のアジェンデ政権に対しクーデターを起こし、その後チリを恐怖政治で支配した。Wikipedia記事

4:ドキュメンタリー映画「ザ・コーポレーション」のウェブサイトでは英語表記でオスカー・オリヴラとして紹介されている。

5:コチャバンバ水紛争については投資自由化INDEXとル・モンド・ディプロマティークとWikipediaを参照。ボリビアガス紛争は第一次と第二次がある。

6:選挙の日程は12月18日に延期された(英文参照元)。

7:社会福祉計画のひとつメルカルのこと。詳細は当ブログ記事「メルカル:ベネズエラにおける貧困の減少と国家的食の主権の創出」を参照のこと。

8:あるいはフェリックス・I・ロドリゲス(Felix I. Rodriguez)。彼はチェ・ゲバラ殺害、イラン・コントラ事件にも関与した(当ブログ記事の脚注を参照)。「秘密工作者―チェ・ゲバラを殺した男の告白」という本がある。

9:ベネズエラの北約60Kmに位置しているオランダ領の島。

10:2001年に同名のNATOの戦争模擬演習が過去あったようだが、それとの関係は不明(参照元英文)。

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