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【中国】一人っ子世代の衝撃:中国を動かす大きなファクター【中国情報局】
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投稿者 へなちょこ 日時 2006 年 3 月 22 日 02:17:52: Ll6.QZOjNOr.w
 

一人っ子世代の衝撃:中国を動かす大きなファクター
2006/03/21(火) 09:24:00更新

今後のマーケットの主役「一人っ子世代」概論(06年版)−有田直矢

  1979年から始まった「計画生育」、いわゆる一人っ子政策は「1組の夫婦に子供は1人」を原則として、2人目以降になると罰則が適用される制度だ(少数民族などは適応外)。人口急増に歯止めをかけるためとはいえ、その当初から今まで、とくに海外からは人道面で問題視する声が強いが、現在は人口増加が人類共通の問題として認識されるようになってきており、中国の一人っ子政策が妥当なものかどうかはともかく、人口増加抑制策のひとつのケースとしては定着してきた観がある。

  政策として、あるいは人道的・倫理的な問題としてばかりではなく、開始からすでに30年近く経ったこの政策が中国社会に大なり小なり影響を与え始めている。まず、マイナス要素を考えるのであれば、簡単に想像できることとして少子化、その結果としての高齢化や福祉、年金などの問題が、近い将来の中国における最重要の社会的問題としてクローズアップされることは間違いない。

  また、男女の出生比率の不均衡さも問題視されている。どうせ1人しか生めないのならば男の子にすべき、という風潮があり、胎児の性別判定を非合法的なものまで含めて実施、女の子の場合、中絶手術を行うというケースも続出している。とくに農村部では、機械化が遅れているために、肉体労働力として男性が求められることや、「男尊女卑」という伝統観念が根強く残されている。

  2005年時点で中国全体で、世界的に女性比100としたときの男性比の正常値である106を大幅に上回る119.9と報告されている。さらに、五つの省ではこの割合が130にまで達しているともいう。結婚適齢期の女性の急減が少子化をさらに加速させ、社会バランスを著しく失わせる。まだあまり注目されていないが、このことがいわゆるチャイナリスクのひとつの側面を形成することも十分にありうる。

  一方、たとえば、一人っ子であるがゆえに両親や父方母方それぞれの祖父母に溺愛される「小皇帝」という新しい単語が生まれた。それが社会現象として注目され、さらには問題視され始めてきている。それどころではなく、普通の感覚として「小皇帝」が社会に受け入れられ、今後は「小皇帝」という単語さえ死語になる可能性すらある。

  満たされた生活の中で生まれ育ったことにより、肥満児が急増、その肥満解消を目的としたサマースクールがビジネスとして注目されるという報道があったが、一人っ子の中で甘やかされたひとつの結果を示すもので、それ自体、中国の社会変化の急激さ物語っている。


◆一人っ子世代の諸相と既存研究の問題点

  一般的に中国の消費者は貯蓄に非常に熱心だ。現在でも、株式市場の不透明さや不動産投機のリスクの大きさ、保険など金融商品の未発達なども関係しているとはいえ、中国の貯蓄率は46%、金額にして14兆元(約210兆円)に達している。しかし、一人っ子「小皇帝」はそうした従来的な観念に束縛されない、貯蓄軽視、消費に積極的であるという遺伝子を文字通り生まれながらに有しているという側面がある。

  その月の収入をその月のうちに使い切ってしまうという「月光族」という言葉もすでに生まれている。端的にいえば、お金は貯め込むよりも使うことが当たり前、貯蓄意識が希薄で消費(浪費)することに違和感のない世代、それが「一人っ子世代」だ。この意識変革の意義は想像以上に大きい。

  すでに深刻化しているエネルギー問題、環境問題などが新たな視点で見直される必要はあるものの、消費の活性化を中心として、今後の中国の経済や社会に与える影響は計り知れないものがあるといえるだろう。政策開始からすでに30年経ち、純粋な一人っ子でも1億人近くに達しており、最年長も20代後半になってきている。今後5年、10年、15年と見据えれば、間違いなく彼らが中国マーケットの主役になるはずだ。

  このこと自体、すでに指摘している専門家や研究機関は少なくない。たとえば、05年11月にはBNPパリバの中国研究部が、中国は「第三の消費ピークに突入する」として、一人っ子世代の消費能力向上にともなう消費構造の変化を「生活に困るという状況を知らない彼らは、生活における質、特に個性的であることやブランドを重視、これらの特徴を備えた消費層が今後15年、中国の消費における中心となる」と指摘している。

  しかし、ではこの世代が具体的にどのような志向や意識を有し、どのような行動パターンをとりやすいのか、どのような消費性向を示すのか、ブランド志向はどうなのか、さらにいえば、この世代が消費生活の中心になったそのときの中国マーケットはいったいどのような消費意識に支えられたものになるのか、などの視点に立った研究はまだ系統立てて行われたことはない。


◆一人っ子世代をどのように定義するか

  では具体的に一人っ子世代をどのように考えるのか?

  ここで仮に、一人っ子政策の実施にあわせて、1980年以降に生まれた人で、2006年時点で16歳以上の人を対象に、1984年までに生まれた人を、政策がそこまで深く浸透していない段階として「前期一人っ子」世代とし、1985年以降に生まれた人を、政策が比較的浸透してから誕生したという意味合いを持たせて「後期一人っ子」世代としてみる。
  [前期一人っ子世代]
  前期一人っ子世代は、都市部の1人当たり可処分所得が85年水準と比べて2倍となった89年までの間に誕生していたか、物心つくかどうか。89年水準と比べてさらに倍増した93年の時点では、確実に物心がついているか、あるいは中学生程度。

  93年水準と比べてさらに倍増した97年の時点では、小学生以上、最年長で大学入学の時と重なっている。97年水準と比べてさらに倍増した05年時点において、最年少で大学卒業時、最年長で20代後半に差し掛かる。以上のように、物心がついてからでも、最低3回の所得倍増(中国社会全体で)、合計で6倍の所得増を経験している。

  中国社会全体で平均して6倍の所得増であることを考えると、大都市圏の居住者や現在までにインターネットを駆使して、高額消費指向の強い家庭であれば、ちょうど成長期に、それぞれの家庭の所得が10倍以上膨れ上がっていたと考えてもおかしくない。

  改革開放のかなり劇的な変化をその身で体感している世代だともいえる。愛国教育強化で知られる江沢民政権の時期を93−02年とすると、最年長は10歳(93年時点)、最年少は23歳(02年時点)。その影響を限定的ながら受けている世代ともいえる。対日感情的には若干ながらその教育の影響をみることができる。

  08年の北京五輪開催時点で、最年長は29歳、最年少でも24歳。基本的には社会人として活躍し始めるころに相当する。2010年の上海万博時点では、最年長で31歳、最年少でも27歳となっており、消費レベルで考えればかなり高い成熟段階に達している。2020年には最年長で41歳、最年少でも37歳。間違いなく消費市場の主役に成長していることが予想されている。

  [後期一人っ子世代]

  後期一人っ子世代は、85年水準と比べて2倍となった89年の時点で、最年長は5歳。周りの変化を認識できる程度という段階で、その変化を体感できているとは思えない。06年時点で16歳である最年少の階層は91年生まれ。91年水準と比べて所得倍増した94年では、最年少4歳、最年長10歳。

  それからさらに倍増するのは21世紀に突入した01年。最年少は11歳、最年長は17歳。つまり、前期一人っ子世代と比べて、スタート時点ですでに中国全体として所得はかなり高い水準(相対的にという意味で)の時代に生まれ育ったものの、だからこそ急成長を体感していない。

  前期一人っ子世代が急成長のダイナミズムを直接体感したのとは違い、安定成長の中で、「裕福が当たり前」という感覚をより色濃く身に付けている世代だといえる。江沢民政権の時期である93−02年では、最年長は3歳(93年時点)、最年少でも18歳(02年時点)。皆無ではないが、影響はほとんど軽微な世代ともいえる。対日感情的にも相対的に悪感情が発生しづらい。

  08年の北京五輪開催時点で、最年長で24歳、最年少で18歳。社会的な影響という意味ではまだ軽微な状況であることが予想されるが、その後の5−10年における潜在的なパワーを担う世代となっている。2020年では最年長で36歳、最年少でも30歳に到達する。かなり高い消費水準を備えている段階となっているわけだ。


◆一人っ子世代の区分とその特徴

  以上のように、一人っ子政策及びその世代というフレームで主に所得との関係から中国社会を分類、その空気の中で育った世代として考えられる。その意味で、この世代の中で生まれ、育ってきたことを考えれば、実際に兄弟や姉妹がいたとしても、社会全般がそうしたトレンドにあったことは間違いなく、その影響を多かれ少なかれ受けてきたことには違いがない。

  よって、現実に一人っ子かどうかを見極めるというよりは、一人っ子政策が実施されて以降の世代としての、彼らが体感した中国社会の変遷の中で、根本的な価値観を大まかに分類するとすれば、上述のような「前記」「後期」という分け方が、今後しばらく有効な定義になるものと考えられるのである。

  今回定義した「前期一人っ子」「後期一人っ子」という概念は、実態把握や研究進展とともに見直しを図り、より精度の高い定義づけを行っていく方針だ。その定義のもとで、サーチナ総合研究所では今後も一人っ子政策及びその申し子としての「小皇帝」と呼ばれる世代、つまり一人っ子世代の消費実態、今後の消費トレンドにスポットを当てて解析し、最終的には中国社会の将来予測にまで幅を広げていく。

  一人っ子政策によって誕生した一人っ子世代、その中国社会・経済・政治などに対する衝撃、いわば一人っ子世代インパクトというものが中国そのものを動かすことになる。今後の中国を考える上では、このインパクトを深く突き詰めていく視点や姿勢が必須だ。(サーチナ総合研究所所長 有田直矢)

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