★阿修羅♪ > 戦争73 > 262.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
軍隊を持たない国
<下> パナマ
日本のほかに憲法で軍隊の不保持を定めた二カ国を訪ねる旅で、コスタリカに続いてパナマに入った。平和憲法を誇りに思う人が多いコスタリカと異なり、パナマで話を聞いた関東出身者らの間では、あまり軍隊がないことは知られていないようだった。
「パナマに軍隊がいない? あまり気にしたこともありませんでした」。パナマスポーツ庁に派遣され、青少年のスポーツ振興に当たる青年海外協力隊員の宮海彦さん(24)=東京都世田谷区=は、記者の質問にキョトンとした。やはり協力隊員で助産師として活躍する杉木宏美さん(33)=静岡市=も「それが当たり前だからでしょうか」と首をかしげる。地元では軍や憲法は話題にもならないという。
運河をめぐる利権が複雑に絡むパナマで、軍隊の不保持を決める憲法の条文ができたのは一九九四年。この前後、反米主義を掲げた軍事独裁者ノリエガ将軍の打倒を掲げ、米国が八九年に軍事侵攻に踏みきったのを受けてパナマ国防軍は解体。九九年十二月、パナマ運河を返還した米国が全軍を撤退させ、パナマから軍隊はいなくなった。
社会学者でパナマ社会教育調査研究所のラウル・ルイス所長(58)は「パナマ運河には弱点が約百カ所ある。それを守ろうとすれば膨大な予算が必要。それなら、全く軍を持たずに中立を保つのが最も安全と考えたわけです」と説明した。ルイス所長は「それは国民の総意です」とも話す。
パナマにも危機がないわけではない。不動産業を営むフリオ・ガルシアさん(77)は「石油生産で潤い、社会主義国キューバと仲のいいベネズエラや隣国コロンビアの国境紛争を考えればちょっと怖い。テロが起こっても不思議はない」と漏らした。
■1万3400人の国家保安隊
だから、軍のないパナマにも国家警察隊、海上警察隊、航空警察隊、大統領警護隊の計一万三千四百人からなる軽武装の国家保安隊が存在する。コスタリカと同様に、米州機構(OAS)という周辺国との集団安全保障もある。
さらに、パナマ運河返還の際に交わされた運河協定で、米軍は有事の際はいつでも介入できることになっている。しかし、ルイス所長は「協定や条約がなくても、米軍は来るときは来る」と指摘した。
憲法で軍隊不保持を規定しているといっても、微妙なバランスの上にある現実を受け入れたことによる“平和”に、邦人の反応もさまざまだ。
大統領府科学技術革新庁で、計測やエネルギー発電技術を指導するJICA(国際協力機構)シニア海外ボランティア久留正敏さん(63)=横浜市=は「軍備は時代の流れに逆行する。日本が求められているのは国際貢献。軍事ではなく国際協力こそ最高の武器だと思う」。JICA専門家でパナマ運河流域保全計画を進める高野憲一さん(45)=東京都江東区=も「日本は軍隊なしでやってきたのに、今さら必要な理由はない」と話した。
一方、パナマ大学トクメン農場(パナマシティ)で牛の生産性向上を目指すやはりJICA専門家の斉藤英毅さん(43)=東京都世田谷区=は「軍隊を持つこと自体が戦争ではない。平和と真っ向から対立することでもない。生き物は免疫という防衛手段を持っている。赤ちゃんを無菌室に入れ、何年もたってからいきなり出すと絶対死ぬ。病気も争いも含めて鍛えられている」と話していた。
パナマが現実という“菌”に適応しているのに対し、コスタリカは平和憲法を積極的に掲げることを最大の防衛手段とするしたたかさを身につけているような気がした。
<メモ>パナマ共和国
1903年、コロンビア共和国から独立。面積は北海道より一回り小さい7万5517平方キロ。人口は約312万人。大半がカトリック教徒。公用語はスペイン語。海運、漁業、金融、観光、バナナ栽培が主な産業。
パナマ憲法第305条 パナマ共和国は軍隊を保持しない。非常時には、国土を守るための特殊警察を一時的に組織することは可能である。(1994年10月改正、要旨)
文と写真・吉岡逸夫
http://www.tokyo-np.co.jp/00/thatu/20050811/mng_____thatu___000.shtml