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“ロンドン警視庁流”情報公開
ロンドン中心部で五十人以上の通勤、通学客らが死亡した同時テロは、ロンドン警視庁が自爆テロの実行犯グループを特定する急展開を見せた。しかし、事件から一週間近くたっても犠牲者名の公表は遅れたままだ。ジャーナリズム発祥の国の、今事件にみる情報公開度とは。 (松井学・ロンドン、大村歩)
英国の各紙は連日のように行方不明者の写真、氏名、ヒューマンストーリーを掲載し、公式の死亡者発表が数人にとどまっているロンドン警視庁の対応と格差が目立っている。AP通信は十三日、当局と遺族側からの公表合わせて十一人の犠牲者の名前を伝えている。
「家族たちは身元確認の遅れに心痛を募らせている」。高級紙ガーディアンは十二日付の一面トップで、警察の身元確認の遅れを指摘する記事を掲載した。
同紙の編集幹部マット・ウェルズ氏は「待たされている家族のことを思えば、『どうなっているんだ』と思うのは当たり前。われわれもいち早く読者に真実を伝えたい。どんな職業、年齢の人が犠牲になり、家族はどう受け止めているかを書くことは必要だ」と指摘する。
英各紙はテロ発生直後から「全力で警察、消防当局を支援しよう」(デイリー・エクスプレス紙)、「(当局にとって)爆破の犠牲者の身元確認を確認する厳しい務めが始まった」(タイムズ紙)など、当局の仕事ぶりをたたえる記事を載せ続けた。王室や政府を含め、批判の対象にする英メディアだが、テロ発生後はいずれも当局を攻撃する書き方をしてこなかった。
■身元確認できずあせる家族ら
しかし、事件から日がたつにつれ、行方不明者の家族からは「テレビでは私の妻が死んだと言っているのに、警察は妻の身元を確認せず、だれも何も教えてくれない」「もし、あなたの親せきが行方不明になったら明日見つけようと思うだろうか、今すぐ見つけようと考えるのは当たり前じゃないか」(ガーディアン紙)などと訴える声が出始めた。
家族らの不満の背景には百九十一人が犠牲者になった昨年三月のスペイン・マドリードでの列車爆破テロ事件がある。発生から二十四時間以内に「死亡は百九十人を超える」ことがわかり、ほとんどの遺体の身元が確認されたうえ、その多くが三日以内に埋葬された。ロンドンでは、白いテントを張った仮設の遺体安置所に確認されない遺体が残されたままだ。
■犯人捜査を重視?
これに対して、ロンドン警視庁の広報担当者は「家族の強い意向で、身元確認したものの氏名を公表していないケースが現時点で二人ある。だが、原則として公表する考えに変わりはない」と基本姿勢を示した上で作業の遅れをこう釈明する。
「家族には作業経過を伝えているし、家族の協力がなければ最終確認もできない。スペインの事件とは違って地下鉄構内の作業なので時間がかかり、実行犯の遺体や証拠品が残されている可能性があったので慎重になった。指紋や歯型、DNAで鑑定を進めているが、例えば切断された指や手足の中には犠牲者の体だけでなく、病院に運ばれたけが人の一部も含まれる。犠牲者数全体を把握するのも簡単ではない」
■遅れる『犠牲者公表』
実際に遺体の収容作業は困難を極めた。一部が崩れかけた地下鉄構内は気温六〇度に達する。警察官らは、息が続かないため二、三時間ごとに交代してチーム作業を進めている。
爆破された三路線の地下鉄が走るキングズクロス駅前にできた献花場を訪れた若いカップルは「行方不明者の家族は耐えられない気持ちだろう。でも犯行の全容を明らかにするためには、警察が時間をかけても頑張ってほしい」「一カ月、二カ月かかっても私たちは我慢するわ」と話した。
英各紙も「市民は我慢強い」と分析する。しかし、行方不明者の家族だけが取り残され、一段とあせりが強まっている。
英国に限らず、捜査上の理由や遺族側の要請で事件、事故の被害者を非公表とするケースは各国で増えている。
昨年十二月のスマトラ沖地震津波で、スウェーデンは、政府が一切の情報を公表しなかった。
一九九四年に起きたフェリー沈没事故で約八百人が死亡し、死亡者宅を狙った空き巣事件が発生した。スマトラ災害での氏名非公表は、こうした二次被害を防ぐための措置だった。しかし、国内の通信社が氏名の公表を求めて提訴。同国最高裁が通信社の訴えを認めたため、二月、死者・行方不明者約六百人の氏名、住所が一斉に公開された。
日本政府も海外で起きた事件、事故に関しては「非公表」組だ。
■氏名発表により進む安否確認
スマトラの災害を取材した本紙バンコク支局の平田浩二記者は「現地大使館からはまったく安否情報を得られなかった。遺族が現地を訪れるのを取材するなどしかなかった」と振り返る。外務省は「個人の死を確認するのは家族。死者の特定や個人名の公表は外務省の職権ではない」(海外邦人安全課)という立場だ。
報道被害救済弁護士ネットワークの梓沢和幸弁護士は「自爆の可能性もある今回のテロの場合、警察当局からみれば、犠牲になった乗客全体が捜査対象になる。死者の氏名不公表は捜査上のやむを得ない戦略。報道側がやみくもに報道の自由を訴えても論理的に難しい」とみる。
立教大の服部孝章教授(メディア法)は「プライバシーや二次被害などを理由に犠牲者の氏名を公表しない傾向は最近、洋の東西にかかわらず主流となりつつある」と指摘する。
服部教授によれば、英国では、事件、事故で犠牲者が出た場合に最初に誰が遺族に伝えるかという「第一次通報責任」について議論があり、すでにその責任範囲が決まっている。一方で、日本にはこうした議論がなくマスコミが一次情報を報道し、遺族はマスコミを通じて不幸を知ることもある。
一方で、学習院大の紙谷雅子教授(英米法)は「警察などが『報道被害があると大変でしょうから』と氏名を公表しないのは間違っている。報道機関にも氏名は分かっているけれども出さないといった見識が求められる」と注文する。
ジャーナリストの大谷昭宏氏はこう強調する。
■メディアには真実報道の義務
「公的機関は市民の代わりに調べるのであって、情報を独占できる理由はない。尼崎JR脱線事故でも、JR西日本や警察が全面的に氏名を非公表にしていたら、同社の体質が浮かび上がっただろうか」
前出のガーディアン紙のウェルズ氏はこう思いを明かす。
「行方不明者の氏名を新聞で公開することによって情報が集まり、安否確認が進むかもしれない。政府が公表を抑えても、独自取材で身元を割り出して物語を載せることもある。メディアには読者に真実を伝える義務がある」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050714/mng_____tokuho__000.shtml