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脅威増すサマワの陸自
イラク南部・サマワで23日、移動中の陸上自衛隊車列が路肩爆弾とみられる攻撃を受けた。幸い隊員に被害はなかったが、自衛隊への直接的な攻撃に、緊張が高まった。イラクでは移行政府がやっと発足、米軍も武装勢力の大規模な掃討作戦を実施しているが、治安回復への光は見えない。今回の攻撃は、あらためて自衛隊が置かれている厳しい状況を浮き彫りにした。
■爆薬量増加遠隔操作も
「仕掛け爆弾は、砲弾の信管部分を開き、そこに爆薬を仕掛けてあり、瞬間的に爆発し、破片を飛び散らせ、その威力は強い。自爆テロなどでは、砲弾を二十個くらい積む。米軍戦車を吹き飛ばす威力がある」
いわゆる簡易爆発物(IED)の攻撃力について、軍事ジャーナリストの神浦元彰氏はこう話す。
サマワで起こった陸自車列への路肩爆弾攻撃は、そこまでの威力はなく幸い死傷者は出なかった。だが、車両への直接的な攻撃は、最も懸念されていた。
共同通信などによると、米ニューヨーク・タイムズ紙は、簡易爆弾の技術が高度化していると伝えている。
最近では、爆風を一定方向に向けて破壊力を強めたり、爆薬の量も増加傾向にある、という。
神浦氏は「従来なら爆発物からワイヤを引いて、百−二百メートル離れた所から、スイッチを入れて爆発させるが、携帯電話やリモコンを使って起爆させ、性能を上げている」と指摘する。
■防御装置も役に立たず
同紙はさらに、米軍が起爆を妨害するのを防ぐため、赤外線レーザーを使って起爆させる高度な技術も出てきている、とも伝えている。
米通信社ナイトリッダーによると、実際米軍車両は妨害装置を装備したにもかかわらず、攻撃に遭っている。昨年一月からの五カ月間の簡易爆弾による米軍の死者は八十五人だったが、今年同期は百二十人と四割増えた。昨年の死者数に占める簡易爆弾による死者は約26%だったのに対し、今年は既に半数近い。米軍の「一番の殺し屋」になったという。
陸自の宿営地には、度々迫撃砲弾が撃ち込まれるなどした。対策に厚い防護壁に守られた新型宿舎を建設していたが、宿営地外で標的となったのは初めてだ。武装勢力はほかにも自爆攻撃や待ち伏せによる銃撃、ロケット砲を駆使しての航空機攻撃などあらゆる手段を使っており、自衛隊宿営地にその矛先がいつ向いてもおかしくない。
米軍は武装勢力の掃討に躍起だ。首都バグダッドでは先月二十九日以来、米軍一万人、新生イラク軍四万人が合同、最大規模の「稲妻作戦」が展開されている。「米軍の出口戦略に重要」(米軍マイヤーズ統合参謀本部議長)と位置づけられたこの作戦は、徹底した家宅捜索と拘束で、抵抗勢力の爆弾工場、武器庫などを摘発するのが狙いだ。
だが、既に「無差別逮捕」による住民側の強い反発も伝えられている。イスラム教スンニ派住民の多いバグダッドだが、同時にシーア派の中でも移行政府と緊張関係を持つサドル師グループのシンパも少なくない。同グループはかねて、スンニ派のイスラム聖職者協会と反米で共同行動をとることを明言している。
サドル師系でサマワ在住の聖職者は先月二十七日「市民を怒らせたくないなら、占領軍(自衛隊)は街の中まで入るな」とけん制。その二日前に陸自車両が投石を受けた。その後も日の丸に「×」印が書かれたり、日本を非難する落書きが見つかるなど、住民は親日一辺倒とはいえない。
路肩爆弾は、スンニ派武装勢力が用いてきた手口といわれる。「イラクではスンニ派が追いつめられており、スンニ派の武装勢力が、米国を中心とした体制に揺さぶりをかけるためにやったとみるのが一般的な見方だろうか」と話すのは軍事ジャーナリストの鍛冶俊樹氏だ。「対日感情がさらに悪化しているとも思えないが、イラク国内には、自衛隊を撤退に追い込むことを狙っている勢力があるのは事実」と話す。
一方、神浦氏は「被害を受けた陸自の高機動車の損傷状態を見ると、小石が飛んだ程度で、攻撃が抑制されている。少量の爆薬の爆発物を地上に置いたのだろう。本格的な爆発物なら確実に被害が出ていた」とした上で、「スンニ派の手口とは全く違うし、サマワは反米闘争をしている勢力は排除されている。日本は復興援助で金をばらまいており、『分配を』という警告だろう。その意味で、新たな危険が出てきたといえる」と分析する。
だが、今年二月中旬から五月末までイラク現地を取材した「アジアプレス」所属のフリージャーナリスト坂本卓氏は「路肩の簡易爆弾について武装勢力に取材したところ、事前に車両の通過を調査して計画。その上で待ち伏せるなど、周到な準備が必要と聞いた」と解説する。
こうした情報をつなぐと、今回の攻撃は、抵抗勢力が首都での米軍主導の掃討作戦に対する反撃の一環として、同盟関係にある自衛隊をサマワで狙ったというシナリオも否定できない。
坂本氏は「日本へのイメージは復興のために来てくれたという感想がある一方で、米軍の協力者という考えも根強い。少なくとも国民の大半は、米軍による占領を早く終わらせたいと考えている」という。
イラクでは、五月だけで市民七百二十人が戦闘や爆発に巻き込まれて犠牲になり、米兵七十人が死亡するなど治安悪化が著しい。
■米軍の情報収集も限界
五月上旬、シリア国境に近いカイム市を舞台にした米軍の「マタドール作戦」では「(ゲリラは)高度に装備や訓練が施され、住民も組織されている」(米軍高官)ことが判明する一方、標的とした外国人反米勢力は見つからず、米軍の情報収集、分析能力の限界があらためて露呈された。
今回のサマワでの事件について、政治評論家の森田実氏は「ついに来たか、という感じがする」と語る。
「もはや安全でないのだから、自衛隊は即時撤退させるのが筋」と森田氏は説くが、日本の世論の関心がイラクから遠ざかってしまった感はぬぐえない。自衛隊派遣の是非論は既成事実にふたをされた形だ。
森田氏はこの点に「報道陣がなぜ入らないのか。政界レベルでは民主党も含めて、大政翼賛体制ができあがってしまい、大本営発表しか届かない」と憤慨する。
坂本氏は「逆説的に言えば自衛隊がいる分、かすかにも報じられる。もし、いなかったら、これほどまでにも報じられていないだろう」と苦笑する。「イラク情勢という背景がほとんど語られないのは異常事態だ」
米国では、抵抗勢力の活動を「最後のあがき」としてきた「大本営発表」が崩れつつある。米ギャラップ社が十三日に発表した世論調査では、イラクからの米軍の全面撤退を望む声が31%、部分撤退が28%と撤退を望む声が、過去最高の約六割に上った。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050625/mng_____tokuho__000.shtml