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【社説】2005年07月14日(木曜日)付
英テロ犯 「隣人」とわかった衝撃
50人を超える死者を出したロンドンの同時爆破テロから1週間。捜査当局は4人の容疑者を突き止めた。自爆テロだった可能性が強く、全員が爆死したと見られている。
生い立ちやテロ組織との関連などは明らかになっていないが、驚くのはいずれも英国で生まれ育った若者たちと報じられていることだ。うち3人はパキスタン系だという。
英国には旧植民地から多くの人々が移り住んだ。そのうちイスラム人口は160万人ともいわれる。パキスタンからの移民も大きな集団で、容疑者たちは英国中部の街で暮らしていたという。
国内のイスラム教徒たちの衝撃は計り知れないものがある。事件後、いち早くイスラム教徒の団体がテロ非難の声明を出したのも、イスラムとテロを混同しないよう訴えるのが目的だった。
それなのに、自分たちの中にテロリストがひそんでいた疑いが濃くなった。
イスラム以外の英国民にも深刻な打撃だろう。移民をめぐってさまざまな差別やあつれきがあったのは事実だ。それでも、多様な価値観や宗教を受け入れる寛容な社会を築き、そのことを誇りにしてきた。それが揺らいでしまった。
自国民によるテロをどうやって防ぐのか。テロとの戦いに新たな難題が加わったことになる。遠くイラクやパレスチナの出来事だった自爆テロがにわかに身近な脅威として迫ってきた。
9・11テロの後、米国は反テロ愛国法、英国は反テロ法を制定した。テロ活動の疑いのある外国人を審理なしで身柄拘束、もしくは自宅に軟禁できるとする治安優先の法律だ。テロは外国人がもたらす、という想定に立っていた。
外国人の人権を損なうという批判もあった。しかし、アルカイダなどの国際テロ組織が海外で訓練したテロリストを各地に送り込んで犯行に及んできたのも事実だ。そのことが治安立法への批判を封じ込めてきた。
今回のテロは、こうした前提を根底から突き崩す。各国で、さらに強硬な治安対策を求める声が出てくることも予想される。イスラム教徒の人権を守りつつ、どう効果的なテロ対策を進めるか、難しい問題に直面することになる。
ロンドン事件の犯人像は、新しいテロ集団の台頭を示すとの指摘もある。
中東やアフガニスタンでの紛争を経験したビンラディン容疑者らの世代と違って、彼らは自由で開かれた先進国で育った。なのに、何が若者たちを自爆テロへと駆り立てるのか。
中東の現状やイラク戦争と無縁ではあるまい。「米英が強大な武力でイラクに攻め入り、人びとを苦しめる。パレスチナではイスラエルの横暴が続く」。そんな「虐げられるイスラム」のイメージが彼らの頭の中で膨らんでいったのかもしれない。
このままでは、テロを封じ込めることが難しくなるばかりだ。
http://www.asahi.com/paper/editorial20050714.html#syasetu1