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冷戦後の『戦争ビジネス』 『軍事請負会社』のすそ野
戦闘からゴミ処理まで 地域紛争激化で急成長
イラクで拉致されたとみられる斎藤昭彦さん(44)は、米軍基地向け物資輸送の警備を行っていたという。所属はキプロスに本社のある民間軍事会社(PMC)だ。元軍人、軍事技術者などの専門家、一般労働者を使い、軍を補完、支援し、戦闘から基地のごみ処理まで請け負うPMCとは−。
イラクには、斎藤さんが属するハート・セキュリティー社のような警備会社以外に、さまざまなPMCが活動しており、そこで働く外国人が武装勢力の攻撃対象となっている。
今月初めには、オーストラリア人の技師ダグラス・ウッド氏(63)を拉致したとする武装勢力「イラクの聖戦士評議会」が、中東の衛星テレビ局アルジャジーラにビデオテープを送り、豪軍部隊のイラクからの撤退を要求した。同氏は過去一年半ほど、イラクで建設事業を行っていたが、ビデオで「米軍のために多くの仕事をしてきた」と述べた。
四月にはバグダッドの米軍ビクトリー基地の運転手兼警備員のフィリピン人男性が、基地周辺の街中で射殺された。フィリピンからは、最多となる六千人の一般労働者がイラクの米軍基地などで働いている。
■イラクでは270人以上死亡
米労働省のまとめによると、イラクでは二〇〇三−四年、少なくとも下請け業者二百七十三人が死亡しており、約三分の二は運転手など。非警備の下請け業務を行うPMCが多数存在することをうかがわせる。
その最大手は米ハリバートン社の子会社ケロッグ・ブラウン・アンド・ルート(KBR)社。米国の報道では、同社は下請け会社などを通じ、イラク−クウェート地域に二万四千人を配置し、補給線を設け、常時七百台以上のトラックを輸送に当たらせている。〇三年四月以降、米軍の食事四千万食や食事施設六十四カ所を提供、大量の洗濯物やごみの処理、郵便物運搬なども行っている。
同社は米国政府や米軍との間で計百八十億ドルもの業務委託契約を結んでいるとされ、有事となれば十五日以内に米軍二万五千人のための兵站(へいたん)支援を確保するとの契約をしているという。
ハリバートン社をめぐっては、二〇〇〇年までの五年間、チェイニー米副大統領が最高経営責任者(CEO)で、政権中枢との癒着が指摘される。水増し請求などでも批判され、昨年には米連邦捜査局(FBI)が捜査着手との報道も。
桜美林大の加藤朗教授(国際政治)は「現代の軍隊では兵站が九割以上の重要度を担う。後方支援をKBRなどへアウトソーシング(外部委託)していくことは軍隊のありようを変えていく」と指摘する。
後方支援といっても範囲は広い。例えば、デジタル技術を駆使した最新の兵器は、特殊な訓練を受けた技術者しか扱えないため、技術者を軍部隊が帯同する形で使い方の指導やメンテナンスを行う。最終的に、軍人ではないが、発射ボタンを押して戦闘に参加することにもなり得るわけだ。
PMCの活動が顕著になってきたのは冷戦終結後のことだ。先進国が軍備を縮小、余剰になった元兵士が労働力市場に流れ込んできたことが背景にある。米陸軍の現役部隊は、冷戦時代の百五十万人から現在五十万人にまで減少している。
拓殖大学客員教授の江畑謙介氏(軍事研究)は「国家対国家の戦争に代わって民族紛争、宗教戦争、資源をめぐる戦争が頻発するようになるなど、戦争の形態が変わった。社会に適応できない元軍人は、ここにビジネスチャンスを見いだした」と指摘する。
湾岸戦争終結後の一九九一年、チェイニー米国防長官(当時)は民間委託で何ができるかを調査させ、それを実行に移したのがボスニア紛争だった。
米国はどの国も支援しなかったが、米軍の訓練・コンサルタント業務を受注しているミリタリー・プロフェッショナル・リソーシズ・インコーポレーテッド(MPRI)社がクロアチア軍の近代化に協力、独立戦争を側面から支えた。
「表立ってできない軍事作戦をPMCを通じて行えば、国家として責任を問われないし、PMC側も『特定の国から命じられたわけではない』と言い逃れることができる」(江畑氏)という“便利さ”は、資金洗浄(マネーロンダリング)にも似た面をもつ。
国際未来科学研究所の浜田和幸代表は「イラク戦争での米軍の死者は千六百人を超える。特殊部隊などに所属し技能のある者は、同じ危険を冒すなら給料の高いPMCに移る。一見困った事態だが、米政府にもメリットがある。軍人が戦死したら世論や議会の風当たりが強いが、金目当て、自己責任で危険な仕事をする人間を使えば、そうした批判を避けられる」と話す。
世界を股(また)にかけて活動する多国籍PMCは五十−六十社。米国の国際調査ジャーナリズム協会の記事によると、九〇年の市場規模は全世界で五百五十億ドルだったが、二〇一〇年に二千億ドルにまで膨れあがる見通しだという。
「顧客は地域紛争の当事国政府だけではなく、そこで活動する先進国の企業や非政府組織(NGO)、国連機関もPMCなしには活動できない現実がある」と東京財団リサーチフェローの菅原出氏。
PMCというと「傭兵(ようへい)」を思い浮かべるが、実態にそぐわないようだ。九〇年代半ば、アンゴラ紛争やシオラレオネ紛争ではPMCに雇われた人が最前線に立つこともあった。しかし、菅原氏によると「ビジネスとしてはリスクが高すぎるため、軍事戦闘企業は縮小傾向だ」と話す。
これに代わって主流になっているのが兵站、輸送、情報収集などの支援、紛争地での医療や警備などを担う軍事支援企業だ。
もっとも、軍事支援企業でも、雇われている多くの人は軍出身者だ。「兵士の要望を理解しており、輸送の場合、治安が不安定な地域で車を運転する技術や危険を回避する能力が求められる」(菅原氏)からだ。
米軍の再編(トランスフォーメーション)をはじめ各国で軍近代化が進められている。「効率化を図るため、戦闘に投入される中核以外の部門は、今後さらに外部委託が進むだろう」と菅原氏はみる。
しかし、重大な問題が潜んでいる。江畑氏は「PMCに雇われている人については、国際法上の規定がないため、万一相手の部隊に拘束された場合、非戦闘員の人道的待遇を定めたジュネーブ条約の適用を受けられない」と話す。斎藤さんのように、米軍関連業務をしていた日本人の場合、救出・保護の義務を負うのが日本なのか、米国なのかも明らかではない。
江畑氏は「PMCの人員の扱いを定めた国際条約を制定したうえで、世界各国がそれに応じた国内法を整備しなければ」と言う。
だが、問題はさらに複雑だ。前出の浜田氏は、隠れた形で軍事請負に参画する企業は多いと指摘する。
「米軍の指揮命令系統にはマイクロソフト社が情報技術(IT)を提供している。同社はイラク戦争後、開戦時の陸軍少将ロバート・ディーズ氏を防衛戦略部という新設部署のトップに据え、軍人を多数ヘッドハンティングし、イラクに電子政府をつくるといっている。KBRとは違い目立たないが、広い意味でPMCといえるのではないか」
【民間軍事会社の分類と主な業務】
◎軍事戦闘会社=戦略や作戦の立案に関する助言を行うとともに、実際の戦闘に部隊や兵士や指揮官を携わらせる。
◎警備(安全保障)会社=軍事知識や経験を生かし、政府、軍隊、国際機関、企業や関係者の警備、危機管理などを担当する。
◎軍事コンサルティング会社=実際の戦闘にはかかわらず、戦略や作戦の分析、軍組織運営などに関する助言や訓練を実施する。
◎軍事支援会社=実際の戦闘にはかかわらず、軍隊の補給、輸送、情報収集などに関する助言や業務を行う。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050512/mng_____tokuho__000.shtml