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@『統治失敗』で外注バブル 警備ビジネス10兆円市場(5/11東京新聞特報)
イラクで武装勢力に拘束されたとみられる日本人、斎藤昭彦さん(44)は、キプロスに本社を置く警備会社社員として活動中だった。いまだ激しい戦闘が続くイラクでは、警備会社は要人や外国企業、軍事基地などの警護を行う“傭兵(ようへい)”だ。斎藤さんも元自衛官で、フランス外人部隊に長年在籍していた。「民間兵士」ともいわれる傭兵の実態は−。
「『陸海空のあらゆる安全保障』を担い、顧客は政府機関からNGOまで多種多様。世界八十カ国、百五十の顧客と契約している」
斎藤さんが所属している英国の民間警備会社大手ハート・グループのホームページに記された活動内容は幅広い。
イラク南部では主要にベクテル、パーソンズなど外資の建設大手が顧客で、民間警備会社としては最大だ。現地雇用のイラク人千五百人のほか、斎藤さんら外国人社員を派遣していたが、二〇〇四年四月には、首都南方クートで同社の五人が襲われ、南アフリカ出身の一人が死亡するなど、危険な仕事であることは明らかだ。
斎藤さんは以前、陸上自衛隊に二年間勤務した。その間、対テロ・ゲリラ戦部隊にも人材を出すエリート集団第一空挺(くうてい)団にも所属。その後、フランス外人部隊に約二十年間所属した。
アフリカ・コンゴ動乱に傭兵として参加したこともある軍事ジャーナリストの柘植(つげ)久慶氏は、「外人部隊に二十年もいるのは珍しいケース。斎藤さんはマルセイユの部隊で、新入隊員の面接なども行っていた。外国人部隊の中でも知られた存在だった」と有名人だったことを明かす。その上で英国の警備会社に入った点についてこう話す。「昔から、ロンドンには傭兵のマーケットがあった。今回の事件を聞き、やはり、と思った」
「イラクには、戦争請負会社、民間警備会社を通じて、傭兵が二万人入っているといわれている」と話すのは、フランスの傭兵部隊を取材した経験もある軍事評論家の神浦元彰氏だ。「一般的に傭兵には、米国や英国、南アフリカ共和国の人たちが多い。傭兵になるにはキャリアが重要で、日本の自衛隊に二年いたくらいではダメ。特殊部隊の経験が大きくものをいう。米軍のグリーンベレーや英軍の特殊空挺部隊(SAS)などの経験者、南アで解体された特殊部隊の白人などが、口コミで入る」
■仏外人部隊に日本人が80人
命がけの仕事だけに、報酬は高い。神浦氏は「斎藤さんの日給は六万円といわれているが、傭兵の給料は一日十万円が相場。将校だと月五百万から一千万円とされる」という。英ガーディアン紙によると、最も危険な場所で日給十万円、通常は七万円ほどという。ただ、その精神的プレッシャーからか、バグダッドのホテルなどでは、武器を携行しながら酔って蛮行を働く例も少なくないという。
日本人傭兵はどのくらいいるのか。柘植氏は、現在のイラクについてのデータは持っていないが、「湾岸戦争時には、フランス外人部隊八千人のうち、1%に当たる八十人が日本人だった」と話す。神浦氏は「フランス傭兵を取材した時には、六人くらい日本人がいたが、自衛隊出身者は一人だった。現在、イラクにはほかにも日本人はいるかもしれないが、民間警備会社は、明かさない」と話す。
傭兵の役割はさまざまだ。柘植氏は「コンゴ動乱の時など昔は、まさに戦闘に参加したが、最近は米、英軍の軍事作戦の下請けとして、後方支援に軸足をおいている」。神浦氏は「戦闘に従事する本当の意味での傭兵と、施設や要人の警備、物資の輸送警備をする人がいる。そうした人を含めると、いわゆる傭兵はもっと多くなる」と話す。
国際ジャーナリストの田中宇氏は、昨年三月に当時の連合国暫定当局(CPA)の請負業者「ブラックウオーター」社の米国人四人が殺害され、橋につるされた事件を例に、「表向きは警備でも、実際には危険な地域で活動にあたっているケースもある」と指摘する。
こうした傭兵に活動の場を与えているのが、民間警備会社だ。斎藤さんが属しているハート・グループは一九九七年七月、SAS士官のリチャード・ベセル氏が設立した。ほかの警備会社も英国のSASに起源がある。SASは四一年に対ドイツ戦のため、創設された。その創始者デビッド・スティアリング氏が六七年に設立した「ウオッチ・ガード・インターナショナル」社が一連の傭兵警備会社のはしりとされる。同社は当時、主に湾岸首長国の軍の訓練に当たっていた。七五年にもSAS士官の三人が大手「コントロール・リスク」社を設立する。
八〇年代に入り、米レーガン、英サッチャー両政権が掲げた民営化政策では軍も例外ではなく「軍隊の民営化」が加速。米国では八五年、LOGCAP(兵站(へいたん)民間補強計画)が導入され、チェイニー副大統領が最高経営責任者(CEO)を務めていたハリバートン社の子会社「ケロッグ・ブラウン・アンド・ルート(KBR)」社が急成長する。
■マラッカ海峡海賊退治も
ある米民間機関は「(米国の)28%の武力が既に民間に委ねられており、民間軍事会社抜きに戦争はできない」と推定する。ちなみにこのKBR社と米ブーズ・アンド・ハミルトン社の二社だけで、イラクに限っても国防総省発注業務の九割を受注している。
九〇年代には冷戦崩壊と南アでのアパルトヘイト(人種隔離)政策の禁止で、旧ソ連兵や南アの白人兵士があふれた。米中枢同時テロ後のアフガン、イラク戦争で市場は空前のバブルに沸いているという。
神浦氏も「米国の特殊部隊の隊員は民間軍事会社の引き抜きにあっているし、最近ではマラッカ海峡の海賊退治にも傭兵がかり出されている」と明かす。米NGO「公共清廉センター」によると、こうした警備会社は全世界に九十−百十社、市場規模は十兆円と考えられている。
イラクで多数の傭兵が活動する背景を田中氏は「今回は、米軍の兵力が四割も足りないことが、傭兵が入っている要因。ベトナム戦争末期と同じで、危険地帯が多く、警備が必要なためだ。戦争の外注化は、もとは軍備など軍産複合事業を指したが、今回は統治に失敗した結果で、イラク戦争が生んだ新しい形態ではないか」と指摘する。
神浦氏は「民間警備会社が急成長したのはここ四、五年。必要な時に必要なだけ高度な軍事訓練を積んだ者を雇った方が安いという経済的な問題があるからだ」と話す。一方で、傭兵重視の隠れた理由には、軍紀や情報公開に束縛されないため「違法」な任務を担わせられる点がある。現に旧アブグレイブ刑務所でのイラク人尋問では、米国の警備会社がかかわっている。
さらに神浦、田中両氏が危ぐするのは「傭兵の法的な立場」だ。「傭兵はジュネーブ条約で保護された兵士ではなく補償はない」「民間警備会社の傭兵が人を殺害した場合など傭兵の行為は、法的にどうなのか」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050511/mng_____tokuho__000.shtml