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衆議院選挙は11日に投・開票され、自民党が296議席を獲得しました。激動の総選挙をブログの視点から伝えてきた「衆議院選挙2005 ブログ選挙ポータル」。最後に、投票日前の選挙期間中にも今回の「ブログ選挙」を展望した佐々木俊尚氏に、もう一度寄稿していただき、今回の選挙結果にブログやネットは影響を与えたのか、あらためて検証します。
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「ブログは選挙に影響を与えたか」
特別寄稿 by 佐々木俊尚(フリージャーナリスト)
総選挙は、自民党の地滑り的圧勝に終わった。果たしてこの圧勝に、インターネット世論の影響はあったのだろうか。今回の選挙は、ネットの世界では「ブログ選挙」とも呼ばれた。ブログで語られたさまざまな言論や意見は、何らかの世論を生み出したのか。そしてそうしたインターネットの世論は、リアルワールドの選挙結果に何らかの影響を与えたのか――その動向に多くの人が注目したのである。
結論から言えば、インターネット世論のリアル世論への影響力は、目に見えるかたちでは現れてこなかった。
■自民支持した無党派層
もちろん、「浮動票」「無党派層」と言われる有権者たちがこぞって自民党に票を投じ、それが同党の圧勝という結果になったのは明らかだ。投票率は小選挙区で67%を突破し、前回2003年の衆院選と比べて7ポイント以上アップした。その小泉改革路線は、必ずしも都市部の支持を集めたというだけではなかった。投票率は全国津々浦々で6〜10ポイントもアップしているのだ。読売新聞の出口調査によれば、これらの無党派層は投票者全体の19%を占めていて、うち自民党に票を入れた人が32%、民主党が38%だったという。「なんだ、民主党の方が多いじゃないか」と思う人もいるだろう。しかし前回2003年の衆院選では、無党派層のうち自民党に入れたのは21%、民主党は56%だったのである。今回の選挙で自民党は11ポイントも上昇し、民主党は逆に18ポイントも下落したのだ。
数字に現れてきているこれらの傾向をわかりやすく単純化してしまえば、こういうことだだろう――これまで何となく「反自民」で来て、選挙であまり積極的には投票していなかった人が、今回は小泉改革を熱烈に支持し、民主党から気持ちを離反させただけでなく、さらには積極的に投票所にまで足を運んで、自民党に票を投じた。
■検証できないネット世論の影響
こうした典型的な無党派層が主にどのぐらいの年齢で、どの程度の年収を持ち、どのあたりに住んでいるのかという分析は、マスメディアの報道を見る限りでは、まだはっきりとは行われていない。「無党派層の多くの部分は20代から30代の若者ではないか」という識者の指摘は少なくないが、それを証明するデータはない。
同様に、こうした無党派層が投票する際、インターネット上のさまざまな意見に影響を受けたのかどうかについても、それを明確に証明するすべはない。確かにネット上では「小泉改革を支持すべきだ」「郵政民営化反対派を落選させろ」といった意見が目立ったし、選挙結果もそれらの意見の通りになったのだが、しかしそれをもってして「ネットの世論が投票に影響を与えた」と断言するのはあまりにも拙速すぎる。
結局のところ、ネット世論とリアル世論のからみぐあいが今回の選挙では、あまり明確にはならなかったのである。しかしまあ冷静に考えてみれば、いくらネット上で総選挙についての意見交換が盛り上がったとしても、それはしょせん「ネットの世界の中のできごと」に過ぎないわけで、リアルとの関係性がはっきりしないのは、最初から予想されたことだったのだ。
■分断されたブロゴスフィア
もちろん、背景事情としてはいくつか指摘できる。日本のブログは相変わらず趣味的な内容や身辺雑記などが主流で、政治的な意見を発信するブログ文化はまだあまり醸成されていない。総務省は今春にブログ利用者の数が335万人に達していたという統計を発表しているが、ブログはそのメディアの特性上、テレビなどのマスメディアとは違ってセグメントがきわめて細かく分けられている。趣味のブログを読んでいる人は、あまり政治的なブログを読まないし、その逆も考えられる。同じブロゴスフィア(ブログ世界)といっても、ブログの内容によってブロガーたちは細かく分断されてしまっている可能性がある。だから政治的な意見を書くブログは存在としては目立つけれども、全体のブログ母集団の中では少数派でしかないのではないか。
しかしもっと大きな要因がある。それはネットの世論とリアルの世論がからみあう「場所」が存在しなかったということだ。
■リアルムーブメント起きず
このgooの総選挙特集で、私は投票日前の9月4日、『日本で「ブログ世論」は生まれるか』という記事を書いた。この中で海外の事例として、韓国とアメリカのケースを挙げた。韓国では2002年の大統領選挙の際、オーマイニュースを核にして「ノサモ」と呼ばれる盧武鉉応援団が出現し、選挙運動をネット上で展開して大きな注目を集めた。またアメリカでは2004年の大統領選で、民主党候補にノミネートされていたハワード・ディーンが、ブログやSNSを軸としてボランティアの組織化を行った。
この2つの事例を見てみると、共通する要素があることに気づかされる。どちらのケースも、候補者(もしくはその支援者)が積極的にインターネットにコミットし、その結果としてネットユーザーやブロガーたちを巻き込んでいき、その結果としてリアルワールドにも影響力を及ぼす広範囲なムーブメントを起こすことになったのだ。
ところが今回の日本の総選挙では、そうした状況は生まれようもなかった。
■壁となった公職選挙法
なぜか。公職選挙法によって、候補者の側が意図的にインターネットにコミットすることを避けてしまったからだ。公選法は146条で選挙期間中の文書図画の頒布・掲示を禁じており、総務省は「公選法はインターネットを想定していないが、公示後のブログやウェブの更新は146条に抵触する」という判断を示している。この結果、ご存じのように、ほとんどの候補者は公示後はブログやウェブサイトの更新をやめてしまった。ブログの更新という低いレベルの行為でさえ、この状況である。アメリカや韓国のような、ネットでの選挙活動などいまの法律下ではあり得ない。公選法を改正しない限り、候補者が積極的にネットの世界に入り、その中で人々と対話していくことは不可能なのである。
もちろん、そうした動きがまったくゼロだったわけではない。公示前、ブログを作って意見発信を行った候補者は少なくなかったし、自民党はブロガーを対象にした懇談会を開催し、意見交換を行っている。しかし付け焼き刃の政治家の「ネット化」では、しょせんはダイナミズムを生み出すほどの動きにはならなかった。これらの動きは、「世の中にブログというものが存在する」という認識を永田町にもたらした程度の影響しか与えなかったのである。
■ネット世論が後押しした「加藤の乱」
過去を振り返ってみれば、たぶん政治家の中でもっともインターネットの世界に積極的にコミットし、そのパワーを採り入れようと試みたのは、加藤紘一元官房長官だろう。加藤氏は2000年、野党の森内閣不信任案に賛成票を投じようと「加藤の乱」を起こした。加藤の乱は結果的には自民党主流派の切り崩しにあって、あえなく潰走してしまう。しかしこの時期に加藤氏が開いていたホームページには、3週間で100万件を越える爆発的なアクセスがあり、「加藤さん、がんばって」「森に負けるな」といった激励が大量に書き込まれたのである。1日に3000通以上のメールが届いた日もあったというから驚かされる。そして加藤氏はこうしたネットの世論に押され、森内閣に勝負を挑み、しかし最終的には永田町の論理に阻まれて敗れ去った。
この時のマスコミの論調には「実態のないネットの意見に呑み込まれて、世論が自分を支持していると勘違いしてしまった」と加藤氏を批判する声が少なくなかった。だがいまになって振り返ってみれば、この加藤の乱で衝突したのは<ネットの世論>と<永田町の論理>であって、<ネットの世論>と<リアルな世論>の衝突ではなかったのではないだろうか。そもそもマスメディアで発言した有識者たちは、どうして<リアルな世論>が<ネットの世論>と乖離していると考えてしまったのだろう?
■世論はどこにある?
ネットユーザーは、自分たちの世論が<リアルな世論>とかけ離れているとは考えていない。自分たちの<ネットの世論>が圧倒的なマスであり、リアルな世論とイコールであると考えている。リアルな世論と乖離しているのは、<マスメディアの誘導する世論>や<永田町の論理>の方ではないか――というのが、ネットで意見を発信している多くの人たちの考えではないだろうか。このあたりのさまざまな<世論><論理>の衝突がここ数年ひんぱんに起きており、それが「世論って本当はどこにあるんだ?」という議論にもなっている。
日経ビジネス誌は投開票直前に作られた号で、ネット世論と選挙との関係について、こんなふうに書いている。
ネット世論が実際の選挙結果にどの程度影響を及ぼすかは、未知数だ。2004年の参議院選挙でもネット世論は盛り上がった。だがその内容は実際の投票結果と乖離していた。「2ちゃんねるなどに頻繁に意見を書き込む人々は、もともと反民主党の傾向が強い。今回の選挙は新聞やテレビが早くから自民優勢を予見したため、彼らにとって(民主党たたきの書き込みが)絶好の遊び場となった」と北田(暁大・東大大学院)助教授は分析する。
政治談義が好きな2ちゃんねらーたちは自民党に投票する可能性が高いが、特定の人が複数の名前で書き込んでいるためネット世論は実際より大きく見える。「選挙権を持たない若年層の書き込みも少なくない」(若者の社会文化を研究する国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの鈴木謙介研究員)ため、ネット世論は投票結果に直結しにくいのだ。
結果的には、日経ビジネス誌のこの読みは誤った。小泉支持のネット世論と、リアルな世論がほぼ合致したのである。これが単なる偶然なのか、あるいはネット世論にリアル世論が追いついたということなのか、それともネット世論がリアル世論に影響を与えた結果なのかは、今のところ検証しようがない。しかしもし仮に次の総選挙、あるいは次の参院選で公選法が改正され、インターネットの選挙運動が本格解禁される事態ともなれば、ネットとリアルのからみあいの本質がついに浮かび上がってくる日がやってくるかもしれない。
■ブログに見る新たな可能性
ブログは確かに、一次情報をマスメディアに頼り、さらにはセグメント化され、分断された集団に対してしか意見を発信できないかもしれない。しかしブログによって政治に対する意見が交換されていくことによって、旧来の有識者の論壇の枠組みを超えた、あらたなネット上の「論壇」が形成されていく可能性をはらんでいる。新たなパワーの出現である。
そしてこうした論壇で交わされた意見は、トラックバックやコメントによって凄まじい速度でネット上を波及していく。その増幅器(アンプリファイアー)としての機能は従来のメディアにはないものだ。将来的にネットの世論がリアルな世論と結びつくことになっていけば、このアンプリファイアー機能は破壊的な能力を持つことになるだろう。それがいい方に転ぶのか、それとも悪い方に転ぶのかはまだわからないが――。
(2005年9月14日)
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■ PROFILE
佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年生まれ。毎日新聞社で支局、本社社会部を経験。海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材。1999年10月アスキーに移籍。月刊アスキー編集部などを経て2003年2月に退社。現在フリージャーナリストとして、週刊誌や月刊誌などで活動中。
佐々木俊尚の「ITジャーナル」
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