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特報
2005.09.15
自民公認だけで圧倒
“独裁者”生む?小選挙区制の研究
自民党が、全議席の六割超を獲得して総選挙は終わった。小泉支持の新人議員「小泉チルドレン」を多く当選させ、郵政民営化に反対した参院議員を「賛成」に転向させた。「小泉旋風」が自民を圧勝に導いたが、得票率以上に議席を確保できてしまう小選挙区制度も後押しした。首相を選ぶ政権選択選挙が「独裁者」を選ぶことになりはしないか。同制度の“威力”とは−。
「今回はいけそうな気がする」。八月十七日に初めて大阪7区(吹田市、摂津市)に入った自民党の新人で元杉並区議の渡嘉敷奈緒美氏(43)は、落下傘候補を待ちかまえ歓迎してくれた地元県議、市議らのこんな声を聞いた。すぐに選挙態勢が整った。
大阪7区の選挙結果は、小泉旋風のすさまじさを物語る。事実上の自・民一騎打ちを制したのは、渡嘉敷氏だった。渡嘉敷氏は公示直前に公募で公認を得た。地盤はまったくなかったが、投票まで一カ月足らずの運動で約九万八千票を獲得。民主党前職で五回連続当選を目指した藤村修氏(55)=比例で復活当選=を約一万四千票差で下した。
渡嘉敷氏は「郵政解散」に追い風が吹くと直感した。「今までの政治はなぜ解散・総選挙を行うのか、回りくどいことを言うばかりで、よく分からなかった。小泉さんが初めて、国民にイエスかノーかを問いかけ、国民は改革に参加していると感じられるようになった」
選挙戦では小泉首相の主張に倣い「郵政民営化を足がかりに改革を進めたい。投票に行って改革に参加してほしい」と声をからした。郵政民営化以外の問題については、意識的に避けた。投票の三日前から、聴衆の反応に手応えを感じ始めた。小学生までが演説に足を止めた。渡嘉敷氏自身、「ここまで風が吹くとは思わなかった」と驚く。
実は渡嘉敷氏は、衆院選に先立つ七月の都議選に杉並選挙区から無所属で立候補していた。定数6を十三人で争う激戦区だったが、約六千票の十一位で惨敗。六位の約一万七千票に遠く及ばなかった。渡嘉敷氏は「二大政党制がクローズアップされ、自民か民主、どちらかの政党でなければいけないという感じだった」と振り返る。都議選で都民の支持は得られなかった候補者が、総選挙では「自民公認」という金看板で当選を手中にしたといえる。
「自民党の名簿が足りず、議席が社民に回ってくる可能性があると聞いた時には、そんなことがあるのかと驚いた」。率直に話すのは比例代表東京ブロックで、自民党の獲得議席数が立候補者を上回り、空白になった一議席が回ってきた社民党の保坂展人氏(49)だ。
自民圧勝の皮肉な余波だが、その原因となった小泉旋風に関しては「小泉さんのイエスかノーかというやり方や、『既得権打破』とか『命をかけて』というやり方が、メディア操作のうまさと相まって、自民がバルーンのように膨らむ原動力となった」。
同時に「小選挙区制度の議席配分は、極端に言えば得票51%が100%になり、49%が0%になる仕組み。この制度への疑問の声が上がってもいいと思う」と、制度の持つ怖さと疑問を口にした。
今選挙で自民党は、得票率を大きく上回って議席を確保した。小選挙区では、自民党の得票数は三千二百五十一万八千三百八十九票で、民主党の一・三倍にすぎない。得票率で47%だ。ところが議席占有率でみると自民党は73%になった=グラフ。小選挙区は各選挙区で最大得票数の候補しか当選できないため、ある党に風が吹くと、同党候補に当選者が偏りやすい。しかも政権選択の色合いが強く、首相となる党首のイメージが大きく影響する。
日本大学の岩渕美克教授(政治学)は「小選挙区制度を採用する際、得票率が議席に反映されない死に票が問題となっており、得票率より議席が大きくなるのは分かっていたことだ。制度選択の時点で、二大政党や政権が安定するという政党政治を志向していた」と指摘した上で、「ただ、自民と民主で、得票率で一・三倍の違いが議席では四倍の違いになるほど、極端に小選挙区制の特徴が出ることは想定しなかったかもしれない」と分析する。
東京大学の松原隆一郎教授(社会経済学)は、同制度を「二大政党制を目指すといっても、制度だけ整えてもそうはならない。民主党は、自民党と違うイデオロギーを打ち出せていない。そうなると、どちらの党首がおもしろいことを言うか、という選挙になってしまう」と指摘する。
先の保坂氏は「今ある政党が既得権益を持ち続け、新しい政党や無所属などのチャレンジャーを排斥する制度だ」という。
さらに「党首の一言で風が吹き、本音では利権を考えている人も『改革』と言うだけで当選する。小泉さんにとっては戦いやすい制度かもしれない。今後、自民、民主とも、党議拘束が強まるなど、寄らば大樹が強まり、議員個人の活動がしにくくなるのではないか」と批判する。
小泉流の圧勝で、衆院勢力は与党で三分の二を超え、法案成立は野党や参院を気にしなくてもよくなった。抵抗勢力が壊滅的になり、郵政民営化に反対した参院自民の造反議員は「賛成」に転向した。
小泉改革を支持した新人議員八十三人には「教育機関」を設置し、実質「小泉派」となる動きも指摘されている。元「噂(うわさ)の真相」編集長の岡留安則氏は「『小泉チルドレン』に形を変えた派閥になるだろう。小泉さんに絶対忠誠のグループになる。ちょっと怖いくらいだ」と話す。
これに国民からも懸念の声が上がりだした。十四日付日本経済新聞の世論調査では、圧勝の結果に「多すぎる」が64%になった。小選挙区で自民に投票した人でも「妥当」は57%にとどまり、「多すぎる」が37%になった。同日付読売新聞でも、首相が数を背景に強引な手法をとる不安を「感じる」人は63%を占めた。
これら世論調査で一転して、自民圧勝に警戒感が強まっていることについて、岩渕氏は「勝ちすぎという有権者の直感は当たっている」と分析。郵政民営化以外の問題でも圧勝を背景に「都合のいい時だけ、世論が味方しているとのやり方をするのではないか」と危惧(きぐ)する。その上で「健全な民主主義を運営するなら、この制度の中で、大量の死に票が出ていることを踏まえて政権を運営しないと、多数決の横暴になりかねない」と注文をつける。
松原氏は「衆院議員は官僚支配をさせないために、その上にいる。だが今選挙で、議員がただの数になってしまった。小泉チルドレンは小泉さんには反対できないし、議論もなくなる。官僚支配が強まるだろう」と予測する。
岡留氏はこう話す。「小泉さんがどういう人かみるために、とことんやらせてみればいい。それに国民、マスコミ、野党がどう反応するのか見てみたい。白紙委任のお任せ政治をこのまま続けるのか、有権者が成熟するのか、その試金石になる」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050915/mng_____tokuho__000.shtml
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