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特集ＷＯＲＬＤ：「衆院選 小泉自民党」に言いたい／下 歴史的な圧勝ですが
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/senkyo/05shuinsen/news/20050914dde012040031000c.html
総選挙圧勝を受けた記者会見でも、総理総裁としての任期は「あと１年」と言い放った小泉純一郎首相。郵政改革以外の重要課題について踏み込んだ考え方は聞けなかった……。そんな政権、そんなリーダーを選んだ有権者にも、識者は提言する。【三角真理、高橋昌紀】
◇哲学を持たなければ−−哲学者・池田晶子氏
小泉さんに言いたいことなんて何もない。だれがなっても大同小異と私には見えちゃうんです。多分、まともな候補者なんていなかったでしょ。有名人や政治と何の関係もない人たち、なぜこういう候補者から選ばなければならないのでしょうか。知性を感じる人なんていない。にもかかわらず、選ばなければならないという民主制のこの選挙制度は、不自由ですよ。「選ぶに値しない」という意思表示ができるシステムを保障してほしい。そうすれば候補者の質も上がってくるでしょう。首相が衝動的な解散を反省することにもつながるでしょう。そもそもこんなばか騒ぎにならないんじゃないかしら。今回の選挙を「小泉劇場だ」なんて面白がっているのは、有権者の政治意識そのものです。さらに知性のない人を選んでおきながら、「世の中よくしてほしい」なんて要求するのは筋が通らない。しょせん政治家は有権者の鏡です。有権者自身が賢くならないといけない。政治や政治家に要求する前に、自分を省みよ、と言いたいです。
やっぱり小泉さんに言いたいことはない。つまり、私が選んだのではないのだから黙って従うということです。そもそも国家や社会というものはつくりごと、つまり観念の中にしか存在しないのです。その国家に面倒みてもらおうとか、よりよい生活を求めるのが勘違いです。私は、よりよい生活が人生の目的だとは思いません。何のために生きるかを考えることこそが大事なことです。国の指導者は、哲学を持たなければ国民を指導できません。何ゆえに共同体ですか。国民も指導者もこの問いに自覚的でありたいものです。
◇次の選挙、分からんよ−−映画監督・井筒和幸氏
小泉さんは「改革、改革」ってごちゃごちゃ言っているが、選挙でも具体的な言葉は一つもなかった。郵政民営化がどうして最優先なの。国の借金を減らすなら、議員年金を変えなければならないんと違いますか。我々は「衆愚」なんです。きちんと説明してもらわなければわからない。議席という座布団がほしくて、マドンナたちが年寄りをドーンと押し出しただけですよ。「改革」という聞こえのいい言葉を隠れ蓑（みの）に、亀井静香さんとか、うっとうしい人を消したかっただけじゃないんですか、小泉さん。
ビジョンも何もなく、見かけだけで勝負している。郵政民営化で、職を失う郵便局員はどうすればいいんですか。考えたことがあるんですか。国民に求める「奉仕の精神」って何ですか。「共謀罪」って何ですか。自民党のネオコンが力を増し、憲法改悪に至るのではと不安です。ハーメルンの笛吹き男と同じ。気持ちのいい言葉にドタドタと付いていったら、最後はドブにドボンですよ。２０代、３０代の若い人たち、もっと考えてくれよ。過程はどうあれ、３分の２の権力を与えてしまったんですよ。
でもね、小泉さん。今回の選挙結果が「国民の総意」とは思ってほしくない。圧勝、圧勝とマスコミは騒ぎますが、自民党と民主党の得票率は５対４ぐらいでしょ（小選挙区で自民党４７・８％、民主党３６・４％）。次の選挙、どうなるかは分からんですよ。「小泉劇場」と呼ばれますが、役者はダイコンもダイコン、野ダイコンですよ。下手な演技にだまされてしまったが、観客の目が肥えていなかっただけです。
◇トリ務められますよ−−落語家・立川談志氏
小泉さん、こんなふざけた話はないよ。非常によろしくない。そもそも、今回の衆院選は解散自体が矛盾している。郵政民営化法案に反対した国会議員は、国民の代表なんですから。これからも自分が気に入らないからって、いちいち「国民投票」にかけて自分の意見を聞く議員に首をすげ替えるんでしょうか。ヒトラーの「マイン・カンプ（わが闘争）」を読みましたが、やり口が似てますね。党の長老の意見を嫌がるところなんて同じ。めちゃくちゃだ。
でも、野党は勝てないんだなあ。国民は小泉さんに直接に問いかけられた気がして、うれしくなったんでしょうね。芸の極意は観客と心を一つにすることで、どんなに面白いことを言ってもそれがないとだめです。その点、小泉さんはカメラの前でも普通の言葉でしゃべっていて気さくな感じがする。あの口調、受けますわね。郵政問題以外のことを言っても勝てたと思いますよ。大衆芸人としても、立派にトリを務められます。
その小泉さんに言いたい。どうぞ、お好きなことをおやんなさいと。憲法改正なり、増税なり、何なりと。最後にはアメリカの５１番目の州になってしまうかもしれない。でも、小泉自民党に投票した国民は文句は言えませんよ。
もともと、日本人はおっちょこちょいな部分があるんだなあ。ちゃんと考えない、やじ馬根性です。個人として付き合うには好ましいけれど、国について考える時までその調子でいいのか。年金、少子化問題では日本人は動かなかった。生活に密着しているとは思っていないんだな。「ラーメンは食べるな、ソバを食え」。そんな法律ができるなら、騒ぐんでしょうが。
「毎日新聞」9/14夕刊
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