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□総選挙あす投票 忘れてはいけないこと [朝日新聞・社説]
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
総選挙あす投票 忘れてはいけないこと
小泉首相は総選挙で争点を郵政民営化一本に絞って押し通した。その作戦と気迫が受けたのだろう。情勢調査によると、自民党が優勢なまま、投票日を迎えることになりそうだ。
政権交代を訴える民主党の岡田代表は年金改革や子育て支援を掲げて切り返したが、いまのところ劣勢は否めない。
郵政改革はもちろん、年金改革も子育て支援も重要なことである。しかし、それだけなら、ほかの大切なことが置き忘れられてしまう。
●目の前に危機がある
選挙の熱気や興奮が終われば、待ったなしで待ちかまえているのは、日本の危機的な状況である。
日本の人口は06年をピークに減り始める。「団塊の世代」の定年は07年から始まる。私たちの社会は人口が減るなかで高齢者が増えるという時代を迎える。
それなのに、国と地方の借金は合わせて770兆円もある。気の遠くなる数字だ。いままで国や自治体から受けていたサービスや給付を我慢しなければならなくなる。それどころか、税金や保険料をもっと払わされるだろう。
郵政公社の民営化に表れた「官から民へ」という小泉首相の方向感覚は正しい。しかし、すべての問題が市場経済化で解決できるわけではない。
目を外に転じれば、イラクの泥沼に加えて、北朝鮮の核問題に国際社会が手を焼く中、小泉首相の靖国神社参拝などで中国や韓国との関係はぎくしゃくしたままである。
深刻な危機をどうやって克服するのか。どんな社会をつくっていくのか。本来は、そうしたことをきちんと見据えて、日本のありようを選択するのが総選挙であるはずだ。
そう考えたときに、選挙戦ではあまり語られなかったが、忘れてはいけない課題がいくつもあることに気づく。
たとえば、国民にいっそうの負担が求められる問題である。特に税金や年金の行方とともに気になるのが医療費だ。高齢化が進むにつれ、医療費もふえる。04年度の32兆円が2025年度には69兆円になると試算されている。これをどうやってまかなっていくのか。
自民党は「医療制度改革の断行」を掲げる。民主党も「安心し納得できる医療を実現するための改革」という。知りたいのは、その具体的な中身だが、いずれもはっきりしない。
結局は、医療のむだを削りつつ、患者や国民が負担増を引き受けるしかない。それを政党が言わないまま選挙戦が終わるなら残念だ。
●全国一律か地方に委ねるか
少子化もさることながら、生まれた子どものことが気がかりだ。学校では学力が下がり、不登校が減らない。学校を出ても職に就かない若者がふえる。
自民党は「教育基本法の改正」を掲げ、「郷土や国を愛する心」や「伝統文化の尊重」を加えることをねらう。理念を見直すことで、改革を全国一律に進めようというのだ。
民主党は教職員の人事や予算、教育内容にかかわる権限を市町村や学校に移すことを主張する。
全国一律型の教育を進めるのか。多少の混乱は覚悟してでも、地域に教育を委ねるのか。ここは二つの党で大きな違いがある。
国と地方の関係をどうするか。小泉首相も「三位一体改革」では、分権を掲げている。政府の補助金を減らし、その分、税源を自治体に渡す。交付金を見直す。それが改革の内容だ。
だが、具体論になると心もとない。選挙後すぐに決着を迫られるのは、自治体に3兆円の税源を移せるかどうかである。自民、公明両党の重点政策には、そのために、どんな補助金を廃止するかの説明はない。民主党は補助金18兆円の廃止と5兆5千億円の税源移譲などを唱える。分権への意欲は買えるが、具体的な道筋は描けていない。
●素通りの憲法論議
国際環境の中で目を離せないのは、小泉首相が自衛隊を派遣したイラクで、テロがやまないことだ。民主党は12月の期限切れまでに自衛隊を撤退させると主張するが、首相ははっきり語らない。
どんなときに自衛隊を海外に出すのか。出せないのはどういうときなのか。いまの憲法ではどこまで許されているのか。憲法の改正論議をするのに、いい機会だった。
しかし、そうした論議は盛り上がらなかった。自民党は11月に憲法草案をまとめる予定だが、選挙戦ではふれようとしない。一方の民主党もまだ「憲法提言を国民に示す」とぼんやりしている。共産党と社民党の護憲の叫びだけが響く。奇妙な構図だ。
自民、民主両党が選挙で憲法改正の具体案を示さないということは、次の選挙までは改正に手をつけないということなのか。選挙後に突然改正作業を始めては、有権者をだましたことになる。
選挙戦でかすんではいるが、有権者がそれぞれ大切だと思う問題は、もっともっとあるだろう。
どの党に未来を託すべきか。あと1日、じっくりと考えたい。
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