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ブログ時評
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小泉郵政解散へ賛成論と反対論まとめ
今回の衆院解散について、ブログで書かれている膨大な賛否両論から読むに価するものを拾って記録しておくことにした。ブログ隆盛期にぶつかった大衆の関心を呼ぶ特大事件として、ただ盛り上がったとするには惜しいからだ。代表的なものを選んだが、同様趣旨の議論がいくつもあったことを付記したい。その賛否両論に入る前に、政治学で英国留学中に書かれている「郵政民営化:小泉政治が日本の政治文化に与えた影響」(かみぽこぽこ。)で提示されている見方は重要なので読んでいただきたい。あろうことかホリエモンまで引っ張り出した“刺客”騒ぎで見えにくくなったが、小泉首相と反対派の殴り合いは政治闘争であり、感情論でやり口が汚いと言っても仕方がない。両者をイーブンに見てあげる位置に立って始めたい。
「英国では総選挙で審判を受けて首相になった者は、選挙での公約をそのままトップダウンで実行する」「与党内に反対者が現れるような状況になったら首相は『人事権』を徹底的に使って反対を抑える」「強力な『人事権』は民主的に選出された首相に与えられた権利であって、それを自由に行使するのが民主主義的にも当然という考えが英国では普通だと思う。つまり、私は小泉首相が、自らの政治手法を『民主的であり全く問題はない(あるいは何が問題なのかわからない)』と考えているんじゃないかと思うのだ」「小泉首相と反対派は、激しく罵倒し合っていたけれども、『民主主義とはどうあるべきか』について、乱暴な言葉使いながら理論闘争をしていたという見方もできる。これをもう少し大きく捉えると、これまで『ボトムアップでコンセンサスを得ながら物事が決まっていくのが民主主義』と考えられていた日本で初めて、『国民の信認を得た政府がトップダウンで物事を決めていくのが民主主義』という考えが出てきた、ということだと思う」
◆賛成論◆
敢えて言わせてもらうと今回の郵政民営化法案は、民営化の将来像が十分に描けていない生煮え案だと考えている。賛成論の方にも、それは認識されている。「衆議院解散の意味」(ロンドン投資銀行日記)は「実際問題としては、今回議案に上がっていた郵政民営化法案はどちらかというと三事業の区分を明確にするというレベルのものであって本格的な民営化からは程遠かった」としつつ「今回の一連の郵政民営化のポイントは、ちょっとでも郵政民営化の改革を進める気がある、つまりは日本の金融部門そして引いては企業と金融の健全な関係の確立と日本経済の再生を進める気がある政治家が誰で、利権と票集めにしか頭が回っていない無責任な政治家が誰かを見極める踏み絵になったと個人的には見ている」と主張する。確かに「踏み絵」の機会を作ったことに多くの方が賛意を表明している。
背景にあるのは、失われた十年、いや十数年、分かっていながら進まない本質的な改革に、絶望的な思いすら広がってきたことだ。「政治家として嘘や夢物語を語らない、現実的な苦渋を伴う政策を主張し実行するというのは、残念ながら選挙では受けが悪い。もしこれで小泉首相が負けることがあれば、常に私が危惧している、日本は何も改革ができずこのままじわじわ弱体化し続け、それでも基礎体力があるから当分の間危機には達さず、大国の終焉を今後20年間見続けることになるということが実際になってしまうかもしれない」
首相に問いかけられているのは国民だ、と「なぜ、郵政公社を民営化するべきなのか?」(趣味のWebデザイン)は呼びかける。「今回の選挙で問われているものがあるとすれば、それは国民の意識です(毎度のことですが)。郵政を民営化して、私の明日の生活にどんな利益があるのか? 田舎でサービスが低下するんじゃないのか? そんなことばかり考えている国民は、どうぞ民営化反対論者に与したらいい。人類ってのはそうして滅んでいくんですよ」「私は、この郵政民営化よりももっと大事なことがあると言う人がたくさんいるのも知っています。しかし、この郵政事業を民営化できないでどんな大改革ができるんですか。と、首相はいいました。選挙に勝たねばならないから、首相は国民の悪口はいっていない。けれども、この発言の内実は、まさに国民に対してぶつけられているのです。郵政民営化の先にある真の大改革とは何か。それは年金支払額のアップと給付額のダウン、医療補助の削減と保険料の上昇、大増税と行政サービスの大幅な低下です。戦後の混乱期を乗り越え、高度経済成長を達成してからの30年間、問題を先送りしてきたのは誰なのか。それは国民自身です」
この首相メッセージがどう届いたか。一例をあげる。「衆議院解散(歴史的転換点)」(叡智の禁書図書館)は「8時台の総理の解散にあたっての記者会見を聞いて、ちょっと胸が熱くなってしまった。これは感動ものだと思った。かなり率直に総理が考える政治指針を政治姿勢を国民に語りかけていると思った。勿論、今回の選挙が自民党を決定的に潰す恐れが、現実にあるからなのだろうけど、それでもやはり心に響いた内容だった。日本にとって必要だと自分は政治家として確信しているし、それを党の公約としても言ってきたのだから、それを実施する為に可能な限りのことをする。そしてそれをYESというか、NOというかをまさに国民に課題として投げかけたわけであり、これについては率直に一国民として答えていきたいと感じた」と語る。
そして、「勿論、その内容が正しいかどうかは、別である。決断しても、間違っている場合だってある。しかし、どの政治家を選べばいいかを国民の手に委ねた訳である、私達にとっては素晴らしい機会を手に入れたのだと思う。みんなが各人の判断で選んだ人が、まさに日本の未来を変えていくのだから、これはオリンピックとかとは比較にならない興奮モノである」と、総選挙にわくわくしている。各メディアが調べた内閣支持率が解散から上がり続けているのは、法案の是非を越えて、政治の選択を密室の中で行わず、総選挙という形で国民に委ねたことが、個人の胸に響いたからだろう。
小泉ファンの間では、邪魔者を追い出して、これからこそと期待が高まっている。「郵政ぶっ潰れ解散!面白くなってきた!」(D.D.のたわごと)は言う。「郵政民営化自体は今一番に考えなければならないほど重要な問題ではないと誰もが思っているはずですが、腐りきった道路公団をナアナアで骨抜き民営化した問題、腐りきった厚生労働省と社会保険庁をナアナアで放置している問題など、とにかくうっぷんと閉塞感がたまりまくってます」「ところが純ちゃんも好きでこれらの改革を骨抜きにしたわけではなく、元凶の多くは純ちゃんの政治基盤である自民党の族議員どもにあるわけです」「今回、たとえ郵政民営化に反対したという別件逮捕的な罪状であろうとも、首相であり自民党党首である小泉純一郎の政権方針ならびに選挙公約にはっきりと逆らう連中があぶり出されたわけで、これらを自民党の公認から外すことができたのは大収穫!」
減り続けていた小泉内閣メールマガジンの読者が再び増加に転じたことが示すように、見限りかけていた多くの小泉ファンに希望が見えてきた。おまけに胸のすくリーダーシップだったのだ。「郵政法案否決・衆院解散−小泉純一郎というリーダー」(堀義人blog)も「強引すぎる」などの世間の批判を退け、リーダーとして絶賛する。「調整型リーダーは、今のようなスピードが早く、改革を必要とする時代には必要ないのでは、と思う。今の時代は、明確なビジョンを提示して、常に一貫した姿勢で臨み、シンプルにコンパクトに組織をまとめ、わかりやすい言葉で説明する。そして、決断して、前に進める。抵抗勢力や感情論を持った人々に耳を傾けながらも、ビジョンと理念とで押し切る。それでも抵抗する人は、外に出てもらい、ノンストップで前に進める。そういうリーダーが必要とされている時代だと思う」
◆反対論◆
郵政改革に従わぬ反対派を追い出し、本当に自民党を改革の党にするとの主張は額面通りだろうか――批判する側はそこにまず疑問を持つ。「郵政解散:小泉戦略の弱点は何か?」(ビジネス戦略を考える)は自民党という組織が変わる困難さを指摘する。「目指す自民党組織文化が何か具体的に分らないのは問題です。郵政民営化がすべての改革の入り口であるという論理は分りますが、改革が文化ではありません。必要な改革を果断なく生み出すことができる組織なら文化の一部と呼べるでしょう。それが見えないから、さまざまな批判も飛び出します。郵政民営化一点に絞った争点は、選挙戦略としては大変すぐれたものと思いますが、仮に勝ったからと言って自民党が改革党になるわけではありません。小泉戦略の弱点はそこです」
「小泉純一郎の改革」(よろずもめごと論)も自民党の体質に同様な不信感をあらわにしている。「『自分が再選しなければ改革は止まってしまう』と主張したいのだろうが、しかし小泉が再選すれば元の黙阿弥となるだけである。自民党の総裁として『骨抜き』の改革を続けるしかなくなる。郵政民営化に反対を表明したごく一部の議員を排除すれば済むような小さい問題ではない。自民党がその支持基盤と全て縁を切り、議員を全員入れ替えなければならないくらい大きな問題である。そんなことは不可能だし、そうなればそれはもはや『自民党』とは言えないだろう」
「この選挙は『郵政民営化』の是非などという目先の問題を問うべき選挙ではない。自民党によって『改革』を続けるか、与党を変えて『癒着の構造』を解体するかを選択するべき選挙であろう。小泉首相の最大の功績はその公約どおり『自民党をぶっ壊し』、選択の機会を国民に提供したことである」。代議士に自殺者まで出した心理的葛藤があった点は認めよう。しかし、議員が拠って立つ基盤に変化が無くて上部構造だけ変われるのかである。
このまま総選挙で勝たせたら独裁になるとの懸念が広がっている。「大切な選挙を『郵政民営化』だけで単純に投票するのか」(スローライフ日記)はこう主張する。「しかし、本質的には今回の総選挙はそんな問題ではない。『暴走を止めるのか、一緒に暴走するのか』である。現在は、ぎりぎりの線で独裁政治(行き過ぎた小泉主導=独裁)は抑えられている。理由は様々であるが、今回の造反議員が結果、それを抑えた。しかし、この選挙で小泉が大勝したらその結果を理由として、堰を切ったように独裁の色は強くなり暴走が始まるだろう」「小泉は高い支持率をバックに本来なら良く考えて行うべき政策を即決でやってきた。自衛隊のイラク派遣などはその代表的なものだろう。『大量破壊兵器がある』といい理由で、きちんとした調査もせず自衛隊を派遣した。結局大量破壊兵器などは無かったわけだが、それでも開き直って自衛隊をイラクに置いたまま。『非戦闘地域』も『自衛隊がいるところだから非戦闘地域』挙句の果てには『私にわかるはずが無い』といい加減な答弁をしてそのまま」
上の見方は「僭主政」に比す次の議論に通じる。「小泉総理の解散権行使に対するオブジェクション」(Bewaad Institute@Kasumigaseki)。「これまでも小泉総理は国政選挙・総裁選挙をともに信任投票的に活用し(郵政民営化が嫌だったら代えてくれ、という総裁選での言がその典型でしょう)、自らを選んだ以上はその統治を全面的に受け入れて当然だとしてきました。しかし本来、公約は政策パッケージにならざるを得ず、選挙の勝利はあくまで平均点としてパッケージがよいという以上の意味を有さないはずで、だからこそ公約を実際の政策とする際には別途プロセスを踏む必要があるのが自然です」「古代ギリシアの時代より、このような民衆の信認を背景に、自らに反対することをその立論ではなくその行為をもって民衆に仇なすものと位置づける政治手法は僭主政として警戒されてきました。そうは言ってもボナパルティズムにファシズム、ナチズムと歴史はその失敗を繰り返してきたわけですが、このような手法を用いる政治家は、その主張がどのようなものであれ、それを理由に批判されてしかるべきではないか」。たとえ勝っても、小泉ファンでない人も納得できるやり方をして欲しいものだ。
今回の郵政民営化法案そのものについて疑問を投げる人も多い。「小泉『郵政民営化』の変遷−市場原理主義者に丸投げの失敗」(世に倦む日日)を代表としたい。「自民党の議員たちが合意した『郵政民営化』は、二年前の郵政公社法の制定と施行までであり、彼らからすれば郵政改革は公社化で一段落着いた話なのである。その政策法制上の取り纏めの中心にいたのが片山虎之助であり野田聖子だった。そこには竹中平蔵はいなかった。三事業解体と完全民営化、さらに株式売却まで党内の派閥や議員が認めていたわけではなく、だからこそ郵政部会で大紛糾したのであり、法案として確かな党内合意を取れないまま無理やり総務会にかけ、総務会を多数決で強行突破して衆院採決に持ち込み、今回の自民党分裂の政局にまで至ったのである。造反には理がある。小泉純一郎の失敗は『郵政民営化』を(USTRのエージェントである)市場原理主義者に丸投げしてしまったことだ」。米国による圧力を問題にする議論も盛んで、ほとんど謀略説と呼べるものまであるが、この場で吟味できるものではなかろう。また、民間銀行が融資先に事欠いて資金運用に大量の国債を買う現状があるのに、民営化するだけで資金の流れが変わる保証は無いとの指摘があちこちにあった。
最後に小泉首相の体質について鋭い指摘を紹介したい。「郵政民営化に賛成です。しかし民主党に投票します」(知っていると女性も楽しい「通」学―)「小泉純一郎という首相は、本人も述べているように、『政策よりも政局が好き』な特異な首相です。冒頭に書いた『郵政民営化にかける小泉首相の執念』は、実は郵政民営化 『政策』への執念では無く、この『政局』を勝ち抜くために郵政民営化『政策』をとことん利用するという執念と断じることが出来ます」「八方ふさがりの外交問題から目をそらせ、年金を筆頭に問題山積の経済・福祉問題から目をそらせるには、『郵政民営化問題』は格好のテーマです。首相は内心では、きっと党内造反組に感謝をしていることでしょう」。確かに時をわずかに戻すと、客観情勢は行き詰まりそのものだった。
こうしてブログの世界で生まれた賛否両論をストーリーとして読み通していただくと、小泉純一郎とは何者であり、出来ること、出来そうにないことが自ずと浮かび上がってくるように感じる。
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