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第7回
この原稿は、解散総選挙の結果が出る前に書いています。ただ、「郵政民営化に賛成か否かを問う」と小泉総理が断行した総選挙は、与党の圧勝で終わりそうです。9月4日付の新聞各紙は、調査に基づく議席予想を発表し、自民党が単独過半数に達するだろうと分析しています。
私は言論界の片隅にいる者として、いま自分の実力不足を素直に反省しています。こんなに横暴で危険な選挙が行われているというのに、国民にそのことを十分伝えることができなかったからです。
郵政民営化が大切でないと言うつもりはありません。しかし、最大4年間国政を委ねる政党を選ぶのに、郵政民営化だけを争点に選挙を行ってよいはずがありません。年金や医療、財政再建、景気対策と雇用、そして外交と防衛。いまの日本は、あらゆるところに問題が山積しています。しかもそれらの問題は、もともと郵政民営化よりも国民の大きな関心事でした。なかでも、憲法9条は、国民生活にとって最も重要な問題であるにもかかわらず、選挙期間中にほとんど議論されることがありませんでした。
ところが、自民党と民主党は、この選挙で政権を取れば、ほぼ間違いなく9条改定に手を着け始めます。社民党や共産党はそれに反対しています。憲法をめぐっては、明確な対立軸が存在していたのです。
ところが、その最も基本的な対立をすっかり忘れた形で選挙が行われてしまいそうです。これでは、憲法問題は白紙委任のまま、国民のよく知らないうちに憲法改定に着手されてしまうことになります。そんなひどいことが許されてよいはずがありません。冷静に考えれば、その危険性はすぐに分かるはずなのに、なぜ戦争への道を止められないのでしょうか。
実は、私がずっと追いかけてきた研究テーマは、「人はなぜ非合理な行動をするのか」ということです。経済学の想定する「合理的経済人」というのは存在しません。バブル、デフレ、悪質商法、宗教、戦争など、人はしばしば非合理な行動をとります。しかし、非合理な行動に人々を追い込む仕掛けには、共通性があるのです。
例えば、小泉総理の政治手法とカルト性の強い宗教の手法には、共通点が多くみられます。まず、カルト性の強い宗教がどのような特徴を持っているのかを整理しましょう。
第一は、カリスマの存在です。カルト教団で分権型の組織になっているところは、まず存在しません。大抵の場合、教祖が圧倒的な権力を手にしており、教祖に逆らうことは許されないのです。
第二は、恐怖による支配です。万が一、教祖に背いた者は、その後、回復できないほど厳しい懲罰を受けるのです。
第三は、厳しい修行の強制です。崇高な目的の達成のためには、精神的、肉体的に厳しい修行を行うことを信者は求められます。この修行のなかには、多額の資金を教団に寄付することも含まれます。そんなことをさせると、信者が離れて行くと思われるかもしれません。しかし、それは逆です。人間というのは、ひどい目にあわされ、金を貢げば貢ぐほど、その相手に夢中になって行く性を持っているのです。
第四は、情報の遮断です。外界からの情報にできるだけ触れさせないようにすることで、冷静な判断をさせないようにするのです。
ここで小泉内閣の政治手法を繰り返す必要はないのかもしれませんが、小泉総理はこれまでの自民党の調整型の意志決定システムを破棄して、大統領型の強いリーダーシップを発揮しました。政治面でのカリスマとなったのです。
そして郵政民営化法案に反対した衆議院議員に対しては、公認を与えず、全ての議員に対抗馬を立てて、政治生命を断つ戦略にでました。反逆者に対する厳しい懲罰です。
国民には、改革の痛みに耐えろと、厳しい修行を課しました。財政再建のためには必要と、税や社会保険料の負担を引き上げました。
そして、マスメディアは選挙の本質よりも、「造反議員対刺客の対決」ばかりを取り上げ、本質的な争点からの情報の遮断を行いました。
陶酔的熱狂は、一度発生するとなかなか収まりません。1930年代のときも、それが終わったのは、戦争で大量の人命が失われ、国富が大きく失われた後でした。
残念ながら、私にはいまの日本が満州事変へと暴走していったその時期と重なって見えて仕方がないのです。
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