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「月刊現代」2005.10月号
小泉「エセ信長」政治に終焉を
4年半の「欺瞞の改革」を総点検
経済 景気回復も雇用改善もウソだらけ
(経済アナリスト)森永卓郎
…(略)…
「賃金上昇」は勝ち組だけ
では「成長」の前提となる「改革」のほうはどの程度進んできたのか。
小泉改革の”成果”を示す、経済指標はいくつもある。1つは「雇用者報酬」だ。サラリーマンに払われた報酬額である(前年比)。
01年 ▲1・2%
02年 ▲2・3%
03年 ▲1・0%
04年 ▲0・1%
1年として増えた年はないのである。
たしかに、ここ最近、新聞やテレビは、「賃金も上がり始め、ボーナスも3年連続でプラスになりそうだ」などと伝えている。しかし賃金が上がっているのは、実はあくまでも大企業につとめる「勝ち組」の人に限った話なのだ。中小企業の社員や派遣や契約など「負け組」の実態は反映されていないのである。
昨年、厚生労働省が発表した03年の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」で見ると、勝ち組に入れなかった人々の厳しい生活実態が垣間見える。
これを見ると、99年の時点で27・5%だった非正社員の比率が、03年には34・6%に増えている。
正社員だった人がリストラされたり、あるいは勤務先が銀行の不良債権処理の対象になったりしたとき、多くの人たちは失業保険の受給期間内に粘って粘って新たな就職先を探そうとする。ところがこのご時世、正社員としての再就職先を見つけるのは非常に難しい。そうこうしているうちに失業保険の打ち切りが迫ってくる。そうなった時点で、多くの人たちは、食べるために「嘱託でも派遣でもパートでもアルバイトでもなんでもいいから」ということで働き口を見つけることになる。
完全失業者数は、小泉政権発足前には319万人だった。それが一時は360万人にまで悪化し、現在は308万人になっている。この数字を見ると、発足時に比べ改善しているように見える。だが失業していた人たちが正社員として就職先を見つけたケースは少ない。ほとんどは非正社員として職を見つけていったのである。
先ほどの「就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、非正社員の37・2%は税込みの月給が10万円に満たない。40・8%は10万〜20万円未満である。8割もの人たちが月給20万円にも届いていない。これが小泉改革のもたらした現実の姿なのだ。
確かに国全体のレベルで集計すれば、改善している部分はある。ところがその成果のほとんどすべては強者が毟(むし)り取っているのだ。一般庶民の取り分はほとんど残らないというのがいまの日本経済の構造なのである。
役人に甘い小泉政治
さらにもう一つ、小泉内閣の本質を指摘しておかなければならない。この政権は改革と称して弱者を切り捨て、民間に厳しく当たっている。ところが官には実に甘い政権なのだ。
行財政改革の一環として、小泉政権は公務員の削減を公約に掲げてきた。現在までの実績をみると、公務員の数は確かに減った。だがここにはひとつのトリックがあるのだ。
公務員を手っ取り早く減らす手法は、独立行政法人を作り、公務員をそこの職員として転籍させることだ。こうすれば見かけ上の公務員の数は減る。ところがその職員たちの給与はすべて政府の財政支出で賄っているのだから、公務員数が減っても、財政負担は変わらないのである。
しかも独立行政法人となれば、人事院勧告で給与を縛られることもない。独立行政法人になった途端、好きなようにお手盛り給与の恩恵に与(あずか)れるようになるのだ。さらにお決まりのように、そこに高級官僚が天下っていく構図になっている。これでは政府が負担する「人件費」が減るはずはない。
公共事業費ととらえてもいい「公的固定資本形成」は、小泉政権になって減少している。
01年 ▲6・8%
02年 ▲6・3%
03年 ▲9・3%
04年 ▲14・5%
という具合である(前年比)。
一方、人件費も含めて政府が消費したカネの合計である「政府最終消費支出」を見てみると、
01年 2・5%
02年 0・6%
03年 O・5%
04年 1・7%
と増えているのである(前年比)。
これは一見、公務員を減らしたように装いながら、実は独立行政法人などにどんどん外注費として積み上げていることの表れだ。小さな政府を志向しているように思われているが、実は小泉政権は大きな政府を作っているのだ。
小泉内閣は、公共事業を減らし、建設業者に対してはガンガン締めまくっている。ところが身内である役人に対しては、数を減らすどころか逆に増やすという大甘ぶりで、つまるところ、金持ちと役人、勝ち組企業の住みやすい社会に日本を変えてしまったのである。そのしわ寄せが一般庶民に押し付けられている。それが、これらの数字の意味するところなのである。
…(略)…
以前テレビで政府の経済政策を批判するため、小泉政権への不満を拾おうと、飯田橋のハローワークでインタビューをしたことがある。そこで失業中の求職者たちに、「いまの政策ってどう思いますか?」と尋ねたところ、返ってきた答えに私は驚いてしまった。ほとんどの人が「改革のために痛みは必要なんですよね」と口にするのだ。
思わず叫びたくなった。「一番痛めつけられているのはあなたたちでしょう!」
IT長老のホリエモンに霞ヶ関の高級官僚たち──郵政民常化に反対する候補者のもとに小泉首相が送り込んだ”刺客”の顔ぶれをじっくりと見てほしい。いったいこの政権が誰の利益を代表しようとしているのか、よくわかるはずだ。
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