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町工場で聞く景気『踊り場脱却』
衆院解散の翌日、政府・日本銀行は「景気の踊り場脱却」を宣言、内閣府などの数字によると、実は「岩戸景気」を抜き、現在は、景気拡張期間が戦後三位タイなのだそうだ。だが、日本の「貧困率」は十年前に比べて倍増し、さらに、衆院選の争点でも、郵政改革より年金など社会保障改革や、景気回復を望む声が多い。いったいだれの「景気」が回復したの? (浅井正智、宮崎美紀子)
町工場が集まる東京都大田区大森。日本のモノ作りの原点であるこの町に、「踊り場脱却」の実感は届いているのか。
「政府が示すデータは、いろんな業種が入っているけど、うちのような店舗内装は良くない。取引先で景気が良くなっている業種もない。労働効率を上げるとか、企業努力で何とか横ばいでやってる。底を這(は)っているような状態だ」。有名ブランド店の内装も手がける「大明工芸」の土井清社長(63)の語る「実感」は、国の発表とは随分違う。
原油高騰で輸送費が値上がりし、接着剤などの石油製品だけでなく、輸入木材も値上がりした。「価格に転嫁できる大手企業は利益率がいいが、末端のモノ作り屋は売値に転嫁できないですよ」
二〇〇二年一月を「谷」とする現在の景気拡大期は先月で四十三カ月目に入り、一九五八年から六一年の「岩戸景気」を抜き、戦後三位タイの長さとなることが確実となったという。
「景気回復? 大手さんだけで、われわれ零細には実感なんてないよ」。合成樹脂機械加工「ヤマト」の岩渕清道社長(68)もこう語る。
■「国の政策には頼っていない」
バブル崩壊前は大手メーカーのプラスチック製部品などを大量に請け負い、多い時は、メーカー一社で月千五百万の売り上げがあった。が、今は五、六十万円。社員へのボーナスはもう何年も出せない。
「ただ、仕事量は横ばいだが、内容は良くなっている」(同社長)。というのも、景気悪化を機に、主力をごく小さく加工が難しい部品に移した。技術が必要で時間もかかるが、請け負える工場が少なく値下げ競争をせずに済む。新規の取引先も増えてきたという。
「国の政策には頼っていません。どんどん会社の姿や仕事を変えてきて、それがうまくいった。付加価値がないと生き残れない」
■自助努力 痛み耐えたが…
閉鎖した町工場がマンションや駐車場に変わった大森近辺だが、残った工場は自助努力で不況を生き抜いている。鉄骨資材工事会社「神原製作所」の神原一晃社長(65)も「最近は、あまり閉めるところも、人を切るところも聞かないが、結局は、政府に期待せず、自分で頑張るしかない」と話した。
では、庶民の台所事情と直結する小売業の実感はどうだろう。
品川区の京急立会川駅に近い商店街「桜新道共栄会」は、商店と、商店跡に立ったビルが混在する。
「お茶の萬寿園」の経営者の妻(55)は開口一番、「どこが景気が良いって言うのよ! どんどん店が閉まっているのに」。そして、こう続けた。「売り上げが悪くても経費はかかる。店を閉めると、働く場所がなくなる。だから、このあたりで夫婦でやっている店は、ほとんど、どちらか片方がアルバイトに出て店を維持しているのよ」
数軒隣の和菓子店「狭山」の片岡加代子さん(64)は「大企業の経営が良くなったのは、リストラしたからでしょ。一握りよ、お金持ちは。下は最悪。大企業の景気が回復しても、われわれのところまで回ってこない。小泉首相は『一緒に痛みを』って言うけど、痛みばっかりじゃないの」と憤る。
失業率も改善したとされるが、ハローワーク大森を訪れた品川区の男性(52)は「末端にいると感じませんよ。都内で景気がいいのは中央だけで、こういう工業地帯は求人する会社もない」と淡々と語る。失業して半年。求人票を見て面接に行っても、待遇や条件が実際は違うことが多い。健康診断を自費で受けさせられたり、昔は貸与が当たり前だった作業服を自費購入させる会社も。
政府の景気対策は「お金を持っているところを中心にした対策」で、「オレみたいな末端の失業者は粛清されてしかるべき、てことじゃないの? 世の中に必要がない人はいない、ていうけど、それはうそ」と、自嘲(じちょう)気味に語った。
■先進国3位の“高貧困率国”
「踊り場脱却」宣言に真っ向から疑問を突きつける数字がある。経済協力開発機構(OECD)が加盟国の貧困状況に関して比較調査した結果だ。
国民の平均所得の半分以下しか所得がない家計を「貧困者」とみなし、国民全体の何%になるかを示すデータで、20・3%のメキシコを筆頭に米国17・0%、トルコ15・9%、アイルランド15・4%と続く。この次が15・3%の日本だ。世界で五位、中進国のメキシコ、トルコを除けば、日本は先進国三位の“高貧困率国”という地位にいることになる。
「格差拡大が想像以上に進んでいる現状にショックを受けた。一億総中流はもう消えた」と京都大学の橘木俊詔教授(労働経済学)は話す。この数字は約十年前の二倍前後で、事態の深刻さを如実に示している。
さらに、こうした実態を確認する数字として、橘木教授は生活保護制度の受給者数をあげた。受給を世帯で見ると、十年ほど前は六十万世帯だったが、現在は百万世帯を超えたという。
■「景気回復は勝ち組だけ」
なぜこうした事態に陥ったのか。橘木教授は(1)十数年来の不況で失業率が高くなった(2)労働者の中で、フリーターや派遣社員など賃金が低い非正規社員の数が急増した(3)高齢者間の貧富の格差が広がった−と指摘する。特に非正規社員の増加は、年金や失業保険など社会保障の対象にならない労働者を大量に生んだ。「不況に陥った企業は、非正規社員を雇うことで社会保障費の負担を免れることができ、労働コストを削減するうえで好都合だった」という現実がある。
完全失業率は史上最悪の5・5%(二〇〇二年八月と〇三年一月)から今年七月には4・4%まで下がった。政府は「構造改革の成果」と自賛するが、「働く人が増えたといってもその多くが低所得の非正規社員で、就業者全体の三分の一がこうした人たち」(橘木教授)であり、それが貧困率を押し上げている。
では一体だれのための景気回復なのか。
経済評論家の荻原博子氏は「大企業、高額所得者だけのもの。大多数のサラリーマンの給与は伸びておらず、逆に社会保障費や税金の負担増のために景気回復を実感できない」と話す。その上で、「五十歳をすぎてリストラされた人が、月十五万円程度の劣悪な条件でも、生きていくためには働かざるを得なくなっている。選ばなければ仕事は山ほどある。しかし、問題は満足して働いているかどうかだ。この行き着く先は、一握りの金持ちだけがますます富む勝ち組国家でしょう」と批判した。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050902/mng_____tokuho__000.shtml
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