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JMM [Japan Mail Media]  政治家・国会議員になることの経済合理性は?
http://www.asyura2.com/0505/senkyo12/msg/836.html
投稿者 愚民党 日時 2005 年 8 月 29 日 18:07:45: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2005年8月29日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.338 Monday Edition
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▼INDEX▼

■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第338回】

  ■ 回答者(掲載順):

   □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
   □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
   □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
   □中島精也  :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
   □北野一   :三菱証券 エクィティリサーチ部チーフストラテジスト
   □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
   □津田栄   :経済評論家
   □土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部助教授

 ■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』


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 ■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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 Q:624への回答ありがとうございました。今、海外のリゾートで休養していま
すが、モデムの調子が悪くまったくネットにつなげません。この原稿は、近所のホテ
ルのビジネスセンターで書き、送信しています。

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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第338回目】
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====質問:村上龍============================================================

Q:625
 おもに自民党から、続々と新人議員候補が名乗りを上げているようです。ある個人
が、政治家・国会議員となることに、何らかの経済合理性があるのでしょうか。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
______________________________________

 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 昔、政治評論家の先生と、地方講演で一緒の機会がありました。そのとき先生は、
政治家になる人たちには、主に3種類のタイプ人種がいると話してくれました。さす
がに、長年、政治家を観察しているだけあって、とても興味深く、また説得力があり
ました。そのときの3タイプを説明します。

(1)使命感型
 このタイプは、自分の力で、あるいは、自分が中心となって、現在の社会を変革す
ることが使命と考える人たちです。いかなる時代でも、完全無欠の社会など考えられ
ません。必ず、どこかに問題点や、変革すべきポイントがあるはずです。そうした問
題点を目の当たりにすると、社会をよくするために、何とかして変革しようという意
欲が出てくるのでしょう。このタイプには、意外と、企業経営者などが多いようです。
このタイプの人たちは、政治家になって、自分ひとりの力の限界や、社会が如何に、
既得権益の塊で出来上がっているかを知ることになるそうです。それを嫌って、政治
家を目指すのを止めるか、自らが既得権益に埋もれていくか、いずれかだと指摘して
いたのを覚えています。

(2)自己顕示型
「とにかく目立ちたい」という人には、選挙に立候補することは、最も効率的な行動
かもしれません。公然と、街頭に立って演説をすることができ、テレビに出て政見放
送を行うことが出来るのです。これは、このタイプの人たちにとって、大きな福音で
あることは間違いありません。このタイプの人は、往々にして、自分の政治的な見識
や、独自の考え方のない人が多いようです。また、このカテゴリーには、既に有名な
人が、その知名度を利用して、政治家になるケースも含みます。評論家先生は、「民
主主義の重要な方法論である多数決は、知名度ばかりで、内容のない政治家を作り上
げる」と言っていました。最も、内容が無ければ、一度は当選しても、二度目の選挙
で淘汰されるような気もします。

(3)収益追求型
 このタイプは、たとえ選挙で落選したとしても、社会的認知度を上げることによっ
て、それに見合ったメリットは取れると判断する人たちです。もし、選挙に当選して、
本物の政治家になることが出来れば、経済的メリットを上乗せできると計算するので
しょう。世の中は、知名度の高い有名人であると、それだけで食べるのは困らないと
いう側面があります。例えば、講演を受けたり、知名度を欲しがる組織に属すること
は、十分に考えられることです。そうすることによって、一定の能力があれば、経済
的メリット=収入を増やすことも可能だと思います。

 実際には、これらの3タイプが見事に分類できるわけではありません。多くの場合
には、これらタイプの組み合わせということになるのだと思います。ただし、経済的
インセンティブを求めすぎる人は、政治家になるのは難しいと思います。政治家にな
るためには、余程の知名度があったり、有力政治家の名跡を継ぐなどの条件がある場
合を除いて、かなりの経済的な負担が掛かるようです。

「政治家になるには、どれだけの“お金”が掛かるのか」。以前、友人の政治家氏に
尋ねたことがあります。そのとき、彼は、具体的な金額等を口にしませんでしたが、
とても、一人では準備できないような額だと言っていました。選挙費用とは、どうも、
莫大な金額のようです。今回、選挙に立候補を勧誘された人と話をする機会がありま
した。その人は、「政治の世界はよく分からない。お金も無いから政治家にはなりた
くない」と言っていました。

 たぶん、落選したときのリスクを考えると、それをペイオフするメリットを感じな
かったのでしょう。純粋に経済的な観点から見れば、政治家になることは、それほど
の合理性があるとは考え難いというのが正直な印象です。しかし、それでも、政治家
を目指す人々がいるということは、我々には分からない、経済的メリットが潜んでい
るのかもしれません。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 山崎元  :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

「経済合理性」という概念は、広く解釈すると人間の行うことは何でもほぼトートロ
ジカルに(同語反復的に)経済合理的だとされるような曖昧な概念ですし、狭く解釈
するとしばしば金銭的な損得だけに限られて今度は面白味の無い概念になります。

 先ず、狭い意味での経済合理性の観点では、「議員という商売は儲かるのか」とい
う問いを考えると、これは上手に(政治家として良いかどうかは別としてビジネスと
して上手に)やらないと儲からないということでしょう。

 数年前に国から支給される秘書給与を、主に政治活動にとは思いますが、議員個人
の支出に流用して問題になったことがありましたが、これは、議員としての収入が政
治活動に掛かるコストに対して潤沢であれば、起こりえなかったことでしょう。政治
家という商売は「真面目にやると持ち出しになる」のだろうと推測できます。

 実際、人にもよるのでしょうが、選挙には億円単位の費用が掛かると聞きますし、
この費用の相当部分の面倒を見る関係から「派閥」というものが成り立っていると聞
くこともあります。普通にやるとすれば、別の収入源か資産が無ければ続けられない
のでしょうし、資産を食い潰している状態は狭義の経済合理性には合致しません。

 しかし、たとえば議員が急に死去或いは引退した場合に、彼の(今のところ日本で
は政治家は男性が多い)奥さんや子供などが、明らかに政治家としては素人なのに立
候補するような現象を見ると、議員という職業が、本人及び周囲の利害関係者にとっ
て、経済合理的なものであるのかも知れないと推測出来ます。

 たとえば、議員が地元の企業の利益と雇用につながる公共事業などを引っ張ってく
ることができる「影響力」を持つのだとすると、ある地区における国会議員というポ
ジションは、地元の企業や有力者を含めた経済共同体の一つのファンクションになる
ので、このポジションを維持するために、支持者(≒利害関係者)たちは、議員セン
セイに万一のことがあった場合には選挙に勝てそうな代役(多くは議員の血縁者)を
立てるのでしょう。利害関係者は、必ずしも地元ではなく、医師会など何らかの業界
や特定郵便局長というようなこともありますし、宗教団体(税制で優遇された割のい
いサービス・金融業です)であることもあるようです。

 議員が狭義の経済合理性に合致するのは、利益誘導に対して有効に影響力を発揮で
きる場合だ、ということなのでしょう。これが望ましくないことだというコンセンサ
スが形成出来た場合には、候補者が選挙に使うことの出来る資金をごく僅かに(たと
えば3百万円くらいに)制限するのがある程度有効な方策でしょう。政策を判断する
には、街頭演説と簡単なビラ、それにTVの政見放送くらいで十分です。政党の政策
(マニフェスト)を重視するにせよ、候補者の人柄・能力を重視するにせよ、立候補
をローコストにしつつお金の力を封じることが好ましいのではないでしょうか。もち
ろん、議員の不正に対してもっと厳しい罰を設定することも必要でしょう。

 尚、報道によると、今回の選挙では、議員になること、あるいは議員に立候補する
ことが、企業や商品の宣伝になるので得だというような、「立候補の広告モデル」と
でも称すべき立候補者が出る可能性があるようですが、これは立候補中や当選した場
合の言動をよほど真面目にやらないと、本人の所有・所属する企業にとっても、候補
者を応援した政党にとっても、かえって逆効果になる公算が大きいと思います。彼が
政治を商売に利用しようとするなら、彼に反対する有権者は、彼の会社の商品やサー
ビスの不買運動をやってもいいと思います。

 次に、広義の経済合理性(形式的には議員になることに「効用」があると考える)
まで考えると、議員や大臣になることは、先ず、当人の名誉欲を大いに満足させるこ
とがあるようです。かつてより、オーナー企業の経営者など、潤沢な資金の所有者が、
政治的な名誉を求めたケースは多々あります。本人の物欲や生理的欲求を大きく上回
るお金があるなら、これを名誉欲の為に使うことには、少しも賛意を覚えませんが、
ある種の合理性は感じられます。

 尚、今回の選挙で、いわゆる「刺客」となった女性候補者達に対して、彼女達が名
誉と権力を求めていかにも厚かましくてかつ軽薄だというような批判があるようです
が、これは、古手の男性の政治家も基本的には似たようなものなのであって、敢えて
彼女達を批判するのは適当でないと思います。それにしても、男女・新旧を問わず、
立候補者の資質を見ると、政治的・実務的な能力と人間的な魅力に乏しいことにあら
ためて愕然としますが、これは民主主義のコストの一部と考えるべきなのでしょう。
特定の価値観に合致した候補者だけが立候補できるわけではないという意味で、私も
含めて国民一人一人から見て、質の悪い候補も立候補できているという現実は、民主
主義が機能しているということの証拠でもあります。

 ところで、立候補する当事者にとっても、熱心な支持者にとっても、選挙というイ
ベントは、いわば脳内快楽物質が多量に分泌される、快感もあるし同時に癖にもなる
ものだと聞いたことがあります。この快楽を味わうことは、相当に広義に捉えると経
済合理的な行為ですが、しばしば狭義の経済合理性とは対立します。一般に、「社長
が女に狂う程度なら会社は潰れないが、男に狂うと会社が傾く」と言われています。
この場合の「男」とは主に政治家のことを指します(他には相撲取りのタニマチな
ど)。ほどほどにして欲しいと思うことは多々ありますが、こうした刺激も立候補の
経済合理性の一部ではあります。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト


 自民党はマニフェストと、第4次公認候補予定者を発表しましたが、その際に、ラ
イブドアの堀江貴文社長を公認として擁立するかどうかが話題になりました。最近、
日本株の買い姿勢を強めている外国人投資家も、堀江社長が立候補するかどうか注目
していました。堀江社長が自民党から当選すれば、日本の政治や経済の構造改革が進
展するとの飛躍した期待もあったようです。ライブドアの株価は最近上昇しています
が、堀江社長が当選すれば宣伝効果が増して、ポータルとしてのライブドアの地位が
上がるとの期待があるようです。しかし、国会議員としての職務と、ライブドアの経
営者としての職務がどれくらい両立可能なのか不透明な面がありますので、堀江社長
の立候補を囃しての株価上昇には疑問が呈されます。

 民主党は、ライブドアの堀江貴文社長のみならず、楽天の三木谷浩史社長に立候補
を要請したと報じられています。楽天はプロ野球参入の宣伝効果が寄与して業績が好
調です。三木谷社長は宣伝目的で、国会議員になる意思はないようです。

 米国でも石油事業で財をなしたブッシュ大統領、ブルームバーグを創業したニュー
ヨーク市長をはじめ、事業家が政治家になる事例が多くあります。その場合、事業を
ほぼ完成させて、事業は他の経営者に任せて(または売却して)、政治に専念するケ
ースが多いようです。経営者と政治家を兼ねれば、経営が疎かになる可能性がありま
すので、株主が許さないでしょう。成功して財をなした経営者は志が大きい人が多い
ですから、次は政治家になって世の中を変えたいと思うのは自然なことでしょう。今
回、郵政民営化法案に反対して、元財務官僚の長崎公太郎氏が刺客として送られるこ
とになった堀内光雄前自民党総務会長は、富士急行のオーナーで現在も会長ですが、
実質的な経営は長男で社長の光一郎氏に任せているようです。

 同じく刺客として静岡7区からの立候補が内定した片山さつき氏も財務省出身です
が、今回の選挙は、自民党から立候補する官僚が多いように感じられます(最終的な
立候補者リストを見ないと断定的なことは言えませんが)。小泉首相や安部幹事長代
理が三世議員であるように、自民党は世襲議員比率が高まっているため(前回2年前
の衆院選では自民党候補の3人に1人が世襲議員でした)、近年は民主党から立候補
する官僚が増える傾向がありましたが、今回は刺客騒動があるため、官僚の自民党へ
の回帰現象が起きているのかもしれません。かつて政治家より官僚の方が力を持って
いる時代もありましたが、現在は政治家優位になっていますので、官僚が政治家に
なって、自ら考える政策を実施したいと思うのは自然でしょう。

 選挙に勝つには看板、地盤、鞄(資金)が必要といわれます。今回、郵政民営化法
案に悩んだ末、自殺した永岡洋治元議員も農水省出身でしたが、選挙に必ずしも強く
なく、法案に反対・賛成の両派からの締め付けに悩んだ末の行動だったと報じられて
います。

 この点において、看板、地盤、鞄をもつ世襲議員は当選しやすくなっています。橋
本龍太郎元首相は今回引退しますが、夫人が立候補を固辞したため、次男で三菱総研
勤務の岳氏の立候補が決まったといいます。朝日新聞は「何でもありなのか」という
自民党の候補者選びに批判的な社説を掲載し、「政治家とは一体何なのか、改めて考
える機会にしたい」と結論づけましたが、この点は同感です。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 中島精也  :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト

 今回の選挙には私的な勉強会グループの仲間が2人も出馬することになり、友人の
応援のため色々と知人にお願いなどしていますので、個人的にもいつになく選挙が身
近に感じられる今日この頃です。そこで今回の質問には友人の候補者が出馬に到った
経緯などを念頭におきつつ回答してみたいと思います。

 まず、個人が政治家・国会議員になることに経済合理性があるかという質問ですが、
経済的とは費用と便益を比較する概念であり、それが合理的であるということは、国
会議員になるためにに支払わなければいけない費用に対して、それに見合うだけの十
分な便益が得られるということを意味します。但し、実際に国会議員になることが経
済合理的なのか否か、なかなか難しい問いです。

 まず、国会議員になることで得られる便益ですが、お金持ちになるために国会議員
になる人はまずいないと思いますので、お金儲けは便益から除外したいと思います。
お金儲けは他の分野でやるべきでしょう。そうしますと、便益は国会議員として国を
変えることのできる権力の一部を手にして国政に携わること、自分の意志で国の仕組
みを変えていくこと、それによって得られる満足度ではないかと思います。

 個人は国家の仕組みの中で日々の生活を行なっていますが、誰しも社会に対する不
満は持っていますし、できれば自分の理想とするような社会、国家であって欲しいと
願っています。ただ、国の様々な制度を変えるには、法治国家ですから法律を改正す
るなり、新法を作ることが必要です。僕の友人も構造改革に貢献すべく出馬を決心し
たと言っていますが、企画立案はするけれども法律を成立させる権限のない官僚の限
界を感じて政界に打って出たのだろうと推察します。

 問題は費用の面です。まず、残念ですが選挙に勝つには膨大な選挙資金が必要です。
次に選挙中はもちろん、無事に国会議員に当選したとしても、選挙区の支持者に対す
るサービスは尋常ではありません。小選挙区で少しは変わってきているようですが、
毎週末に東京と地元選挙区を往復する国会議員の姿を見ていると、どうしてここまで
身をすり減らしてやるのかな、と思うときがあります。この点は将来的には選挙制度
の改革で是正されるものと期待していますが、当面は政治家は自分を殺してサービス
に努めなけばいけないのが実情のようです。

 このように費用は膨大な大きさだと思いますが、これに加えて選挙ですから落選の
リスクがあります。通常の経済行為であれば、費用をかければ、満足できないかもし
れませんが、ある程度の便益は得られるものです。ところが政治家・国会議員になろ
うとする行為は、落選すれば便益はゼロですから、当人にとって物心両面から大赤字
の決算となります。よって、上記の費用プラス落選のリスクと国会議員に当選して得
られる便益を比較しつつ、個々人は出馬を決めているのだと思います。

 政治家になることによって得られる便益の大きさは個人差がありますから、便益が
国会議員になるための費用とリスクを上回るかどうか一概に言えません。ですから、
国会議員になることが経済合理的であるとも、合理的でないとも言いきれません。志
の高い個人であれば便益が大きいので国会議員になることは経済合理的であると言え
るかもしれませんが、さりとて当選しなければ始まりませんので、そこがなんとも難
しいところかと思います。

               伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也

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 ■ 北野一  :三菱証券 エクィティリサーチ部チーフストラテジスト

 もし、年1回のバーゲンセールに群がる消費者の行動に経済合理性があるならば、
今回、自民党から選挙に出る方の行動には同じ程度の経済合理性はあると思います。
今回の選挙、自民党公認という「偉大なブランド」の大バーゲンセールだと思います。
きちんと調べたわけではありませんが、一気に37人もの「枠」が空くなんていうこ
とは、空前絶後ではないでしょうか。

 自民党公認と似たような「財」という意味では、相撲の年寄り株とか、大学教授の
ポストなどが思いつきます。もともと数に限りがあり、かつ所有者の死亡でもなけれ
ば、所有権の移転が起こらないというものです。こうした稀少財が一気に売り出され
るのですから、これをチャンスだと思わない方がおかしいでしょう。下手をすると、
選挙に勝って国会議員になるよりも、自民党の公認を得る方が難しいかもしれません。

 既に、自民党と民主党では、政策面で大きな差がなくなりつつあります。こうした
なか、官僚出身者などが、これまで民主党から選挙に出ていたのは、「より小さな政
府を実現したいから」というよりも、現実的には民主党の公認を取る方が容易だった
からでしょう。ただ、相対的に敷居の低かった民主党でも、既に全選挙区に候補者を
立てることが出来るほどに党勢を拡大してきました。いまや、二大政党から公認を得
ることは、かなり「狭き門」になりつつあるのだと思います。

 さらに、中選挙区から小選挙区への移行期というのは、新規参入のチャンスであっ
たわけですが、小選挙区が定着するにつれ、常識的には新規参入の可能性は小さく
なっていくと考えるべきでしょう。そう考えるなら、今回は、年1回のバーゲンセー
ルというよりも、閉店感謝セールのようなものであり、今買わねば、永遠に買えない
という心理状態になっても不思議ではありません。その意味での合理性はあると思い
ます。

 ただ、バーゲンセールというのは、そこで割安に良い品物を買ったという「実利」
もさることながら、バーゲンセールに参加したという自己満足もあるように思います
ので、当事者は、その辺りを、クールに考える必要もあると思います。

         三菱証券 エクィティリサーチ部チーフストラテジスト:北野一

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 個人レベルだけを考えると、金を儲ける手段としては、新規立候補は割に合わない
ことは確かでしょう。個人の私生活を破壊することに加えて、金がかかりすぎます。
当落のリスクは、ほとんどギャンブルで、当選すれば良いですが、落選すると借金の
山を抱えることになるのですから。

 儲けるための金ではなさそうですが、現実に政治家の周りで半端ではない額の金が
動いているのは確かなので、これはどういう性質の金なのかという疑問が湧きます。
政治家を巡る金は、清濁のレベルは様々でしょうが、基本的には献金としての性格を
持っているように思われます。献金は、キャッシュでの返済・利子・配当は期待しま
せん。当選の暁に権力が分配される過程での利権の配分、あるいは社会正義の実現と
いった形の見返りが期待されているのです。

 立候補者本人も、金勘定としてのリスクが如何に大きくとも、当選後の権力の配分
にかかわる喜びを満足させることが出来、ある程度の収入と社会的威信、おまけに手
厚い議員年金がついてくるとあれば、そう悪い人生選択とはいえないかもしれません。
この決定は、生活の経済的維持が関心事ではないという意味で、経済的意思決定では
ないのだと思います。

 政治権力による理想・正義の実現が最大の関心事であるような人間にたいして、つ
い構えてしまい、その動機の裏側に経済的・物質的な理由付けを見つけて、安心した
い気になるものです。たとえば、ブッシュ大統領の戦争政策の背景には石油の利権が
あるとすれば、簡単で分かりやすい説明が手に入ることになりますが、現実のほんの
一端しか説明できないと思います。

 経済的合理性の基礎となる欲望は「衣食住を満たし、富を蓄積する欲望」ですが、
政治の基礎となるのは「理想や正義を権力を通じて実現する欲望」です。どちらも互
いに切り離せないものだと思いますが、人間により本質的なのは後者の方ではないか
と思います。新人候補の選択は、経済合理性以前に後者の問題です。新人候補は、た
だ単純に権力を振るいたいのだと思います。当選したら、「利権を選挙区に持ってく
る」、あるいは「政策を実行して支持者に喜んでもらう」など、言い方はどうにでも
なりますが、その権力行使プロセス自体が彼らにとって、純粋な喜びなのです。

 私の父はすでに引退していますが、前は評論家・大学教授をしていました。結構名
が売れていて、政治家とも付き合いがありましたので、自分が政治家になることに心
が動いた時期があったように思います。しかし、このときは母親に徹底的に反対され
たようです。選挙活動など思いもよらなかったでしょうし、なによりも生活が不安定
になることに我慢がならなかったのだと思います。おかげで、私たち兄弟は、その後
なんの生活の心配をすることもなく、高等教育を受けることができました。しかし、
父のようなタイプの人間にとって、母に従って経済合理的に生きることがほんとに良
かったかどうかは、時々疑問に思います。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 津田栄  :経済評論家

 ここ数年、国会議員、地方の議員、首長の方々と会うことが多くなりました。彼ら
を見ていると、純粋に経済的な利益という観点から、政治家・国会議員にメリットが
あると思って、なっている方はほとんどいないと感じました。彼らの多くは、日本の
持つ問題、地域の抱える問題を何とか解決したいという信念を抱いて、政治を目指し
てきた人たちです。

 その点で、政治家・国会議員になることに経済合理性があるとしたら、自分が持つ
理想に向けて政策決定過程に関与し、実現したという満足感にあるといえましょう。
そして、その結果として、国民のために働いたということで歴史上名前を刻むことが
できれば、これ以上の満足感はなく、どんなコスト・犠牲を払ってもかえがたいもの
といえましょう(これはあくまでも理想の姿であって、現実はもっと泥臭く、政治家
や国会議員になって、「先生」と呼ばれて偉くなった気分は捨てがたく、権力を握っ
て名前を歴史上に何らかの形で残したいという権力欲や名誉心で動く人たちも多いと
思います)。

 とはいっても、そんな理想だけで政治家や国会議員になれるものではありません。
やはり、理想実現のためには、まず政治家・国会議員になることが必要です。(もし、
なれなければ、ただの人、いやそれ以下にさえ見られます。周りは、落選した候補者
を胡散臭く見たり、信用せず避けたりして、冷遇するからです。)しかし、政治家や
国会議員になるために、選挙の費用が相当にかかります。それ以前に、自分の主張を
知ってもらうための政治活動の費用もかかっています。その費用は、ポスター、チラ
シから選挙カー、事務所の設置まで数千万円から億の単位と、半端なものではありま
せん(しかも、自分は当然ですが、プライバシーを含めて、協力してもらう家族の犠
牲は、生半可なものではありません)。また、政治家や国会議員を続けようとすると、
もらう給料ではとても間に合いません。議員年金も10年続けなければもらえないの
ですから、当選するための費用と10年間払う掛け金に対して、もらえないリスクは
大きいといえます。

 そこで、その費用を捻出しようとすると、現実的な選択をせざるをえません。支援
してもらうグループや団体との良好な関係を持つことです。そして、献金をお願いす
ることです。その結果、時として、既得権益者の意見を聞かざるを得ません。とはい
っても、自分の理想に沿っているのであれば問題ありませんが、一方で、自分の考え
を曲げてまで支援団体と妥協することもあります。その場合のコストは、これまでの
支援者や友人を失い、信用に傷がつくという形で現れることになります。

 それでも、自分の理想を実現するために、ある程度自分が傷つくことを覚悟しなが
ら、政治家や国会議員を目指すのは、単に投票するだけではなく、選挙に立候補して
政治に直接関与することから得られる、精神的な満足度が大きな比重を占めているか
らだといえます。

 ただ、そういう人ばかりではありません。今でも、何らかの既得権益の維持のため
にある団体が中心になって政治家や国会議員に押し上げられ、否応なく政治家になる
人がいます。世襲議員や二世議員はその部類に入るかもしれません。戦後日本は、経
済成長とともに、拡大する所得の分配に与り、既得権益を確保し、拡大することを中
心に政治が行われてきたといえます。そうしたなかで、政治家や国会議員は、既得権
益者の利害調整と予算配分権限を持つ中央官僚とのやり取りのなかで権益の差配に参
加し、ある一定の利益を得てきたといえます。

 そして、その既得権益者が、権益の維持を図るために後援会として組織化し、支援
してきた国会議員の世襲化を生んできたといえます。それが、戦後政治において、ジ
バン(地盤=地元の応援組織)、カンバン(看板=知名度)、カバン(鞄=選挙資金)
という三バンに象徴される選挙事情となっていたといえます。こうした三バンを上手
く利用できたのが、世襲議員であり、二世議員であり、地域の有力者であるといえま
しょう。

 そうした人たちのなかで、時には理想もなく、惰性でなっている人が与野党を問わ
ずいます。しかも、その人が政党の中心にいるとなると、依然大きな問題があると感
じます。ただ、こうした事情も、小選挙区制の採用で、選挙が政党中心になって、少
しずつ変化してきています。理想の共有を求められ、能力のない人、理想のない人が
政治家や国会議員になりにくくなっています。

 その意味で、この流れがもう少し大きくなれば、政治家や国会議員を目指す意義が
もっと明確になります。国民は、政党中心の政治の中で、候補者を選択する際に、既
得権益者の利益のためではなく、国民の利益のために行動する基準が見えて、そのや
り方の違いから選択しやすくなります。ただ、この場合、候補者個人ではなく、政党
そのものが既得権益者のために動くことになりますので、政策の中身をじっくり検証
しなければなりません。こうした政党中心の政治が近づくと、個人が政治家や国会議
員になって行えることは限られ、それになることの経済合理性は、理想実現の政治へ
の直接関与、その政策決定過程で参加したことへの精神的な充足感ということに集約
されてくるように思います(もちろん、政党のリーダーになれば、政治の中心で理想
実現に動くという名誉心や権力欲が加わるかもしれません)。

 最後に、日本の政治の根本的な問題は、予算や行政執行において実質的に権限を持
つ官僚中心の中央主権的な体制のなかで政治が行われていることです。それは今も変
わっていません。本来、地方分権をもっと早くから行い、地方のことは地方に任せる
ようにして、国が行う部分を国防や外交など対外的なもの、地方の範囲を超えた政策
に限定しておけば、政治はもっとすっきりしてきます。そして、政治において国が扱
うことが地方と違うことから、地方のために国会議員になる必要がなくなり、国の政
策を争う政党政治が確立します。そして、個人が地方や国の政治家を目指す上での経
済合理性は、より一層明確になるのではないでしょうか。そのためにも、実質的に官
僚が仕切る構造を改めることが必要だと思います。

                             経済評論家:津田栄

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 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部助教授

 立候補者にある経済合理性は、純粋に職業としての政治家(マックス・ウェーバー
ではありませんが)との観点があるでしょう。もちろん、政治家になることによる非
金銭的な効用もあるでしょうが、それに加えて結構高額の歳費が在職中もらえるわけ
で、今後の生涯所得の期待値を計算して、立候補した方が多ければ現職を辞してでも
立候補する方を選ぶことが考えられます。単純化して言えば、当選確率と在職年数が
多いと認識すれば、立候補しようとするのではないかと考えます。

 今回、女性の「刺客」と呼ばれる候補者が多く立候補していますが、私の認識では、
小選挙区で落選しても、比例区で名簿順位を高くしてもらえると事前に約束されてい
れば、比例区ではほぼ確実に当選できると認識できるでしょう。それは、立候補の偽
らざる理由の1つになっているのではないでしょうか。思考実験として、同じ程度の
知名度、経歴、能力がある男女がいたとして、同じように自民党から小選挙区での立
候補の勧誘を受けたとしても、女性なら比例区で「女性枠」に入れてもらえるが、男
性なら比例区ではそれほど優遇されない、というただ1点の違いだけでも、躊躇する
男性は多いと考えられます。つまり、この場合にそれだけ男性の方が落選する確率が
高くなるからです。この側面から見ても、上記の要因(それだけで立候補するか否か
を決めているわけではないでしょうが)は、立候補するか否かを決める重要な合理性
となっていると考えます。

 今回、(新人立候補者の人材源となりうる)学者出身の立候補が少なかったのも、
上記の要因が作用していると考えられます。学者は高い給料はもらっていないにして
も大学がつぶれない限り失業しませんから、当選確率がそれなりに高くないと、立候
補する経済的動機が強くならないでしょう。落下傘候補としてほぼ当選確実といえる
状況で立候補を進められれば、学者出身者も立候補した人がいたのではないかと思い
ます(学者の何人かは現時点でも立候補する方向のようですが)。官僚や民間企業の
出身者が多いのは、将来の職場に対する不確実性が、(明らかに大学より)相対的に
高いことも一因といえるでしょう。

 それとともに、特に経済学者では、政治的任用等で政治家にならなくても、重要な
政策決定過程に関与できる機会が、近年圧倒的に増えたことも影響していると思いま
す。これまで、主だって法学部の学者(法学者、行政学者、政治学者等)が審議会等
を通じて影響力を独占していた学界と政治の関係でしたが、経済が高度化して経済問
題について専門的知識が必要とされ、従来の日本の法学の論理では解決できない課題
が政治で取り上げられるようになるにつれ、経済学者は政治家・官僚からしばしばお
座敷がかかるようになってきました。そうなれば、わざわざ現職を辞して(私立大学
では大学さえ許せば国会議員と兼職可能なのですけども……実際は大学が許さないで
しょう)まで立候補しようとはせず、現職にとどまって政策決定過程に関与しようと
するのではないかと思います。

                    慶應義塾大学経済学部助教授:土居丈朗

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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:625への回答ありがとうございました。2週間ほどの夏休みから戻りました。

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Q:626
 参議院で郵政民営化関連法案が否決され解散・総選挙が決まったあと、日本の株式
市場はおおむね「堅調」だったようです。なぜでしょうか。

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                                   村上龍

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                   発行部数:128,653部(8月1日現在)

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【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
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