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時事随想
あえて小泉首相を評価する
私は彼の「自衛隊のイラク派遣」や「靖国神社参拝」については反対である。他方で「民間ができることは民間に」という政策理念に固執する姿勢は、基本的に支持したい。ただ、以下で述べたいのは彼の個別の政策の善し悪しではなく、彼の政策を通じてのリーダーシップの有り様についてである。これには高く評価されるべき点がある。
「民営化」の理念は、今では当たり前であるかのようだ。だが、政治や行政の現場でこれを具体的に実施していこうとすると、何十年にも渡って既得権益を築き上げてきた、おもに自民党に属する政治家や特に官僚と呼ばれる国家公務員の抵抗は今でも非常に根強いものがある。
この国の政党は自民党はもちろん、すべての野党が政治理念の違いはあれ、できるだけ税金を使うという点では一致してきた。バブル経済崩壊後その問題が国民の前に露呈し、それゆえ前述した政策理念を前面に打ち出したことは、国民全般には受けがよかったが、個別の業界との関係を重視せざるをえない自民党の国会議員には受けが悪かったといえる。
このようにむしろ身近な所から、かなりの抵抗者が出てくることを予測させる政策理念を掲げ、それを実行に移してきたことは高く評価すべきである。いくら最高責任者とはいえ、組織内部に強力な抵抗者を抱えつつ、改革を行うのは尋常でない覚悟がいるからである。
小泉首相の「郵政民営化」は長年の持論であり、彼の政治公約の中心でもある。このことがわかっていながら、自民党は彼を総裁に選び、公明党とともに首相に選んだのである。最大の問題は、首相の最も重要だとする公約を当の自民党議員により潰されることになれば、政権維持さえできればよいという長年の自民党の姿勢が何も変わっていないことになる点だ。これでは、自民党から誰が首相になっても、国民と国益にとって重要な公約になればなるほど、法案として成立しない可能性が高まる。なぜか。次の簡単な首相在任期間の歴史をみてほしい。
佐藤首相の長期政権(七年八カ月)の後(1972〜)に首相になったのは、小泉首相の前まで(〜2001)で全部で十六人。四年十一カ月が一人、二年から三年未満が五人、一年から二年未満が七人、一年未満が三人(内二人は自民党の下野時代)である。首相以外の大臣の在任期間は途中で内閣改造があることが多く、一部の大臣を除きさらに短い。 自民党の各派閥はいかにして自派閥の議員を各大臣に送り込むかにエネルギーを使い、政治改革はもちろん行政改革にも長期的視野で取り組もうとする姿勢にはほとんど欠けていた。それゆえ、政治家がどんどん腐り、惰性的な行政が続き、官僚が腐っていった。
彼が自らリーダーシップを発揮するために「一内閣一大臣」という当たり前で最低限度の条件をあえていわないといけないほど、自民党の意思決定の仕組みは腐っていたのだ。この歪んだ歴史的構造は、首相や各大臣の最も重要な官僚へのコントロールをまったく弱めさせている。
彼にとってまったく本意ではなかったと思うが、この国の再生には、まさに彼がいった「自民党をぶっ壊す」しか方法がないのかもしれない。
(弘前学院大学・助教授 西東 克介)
http://www.mutusinpou.co.jp/news/05080809.html
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