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McKinsey & Company
2004 / 3 / 6
郵政・特殊法人改革の実効性を問う
マッキンゼー・アンド
シニア
・力ンノペニーアドバイザー川本裕子
マッキンゼー・アンド・力ンパニーアソシエート和田千弘
東京大学文学部社会心理学科卒。オックスフオード大学大学院経済学修士課程修了。旧東京銀行を経て、1988 年にマッキンゼー・アンド・力ンパニー東京支社入社、95 - 99 年パリに勤務、99 年から日本勤務。主な著書に「日本を変える一自立した民をめざして」「銀行収益革命J 等。現在、金融庁顧問(金融タスクフオースメンバー)、金融審議会委員などをつとめる。
銀行・生損保など金融機関を中心に、事業戦略立案、組織・業務プ口セス改革、M & A ・提携戦略、企業買収・合併後のマネジメント、中長期ビジョン策定などに関するコンサルティングに従事。金融研究グループのコアメンバーとして活動。東大法卒。マサチューセッツ工科大学経営大学院経営学修士(MBA )
資金循環を歪める財政投融資情報開示の不透明性にメスを
1 . 財政投融資制度は、無制御な財政負担の増加と金融システムの自立性の両面で日本経済の持続可能性を脅かしている。
2 . 財投改革に対する政府のあいまいな姿勢は、財投機関の不良債権に対する説明や、財投機関債の歪んだ金利形成に表れている。
3 . 財投増殖の背景にある情報開示の窓意性と不透明性にメスを入れない限り、改革は看板の掛け替えに終わってしまう。
今の日本経済では、郵便貯金や年金を原資として、政府系金融機関などの特殊法人に融資されている財政投融資という官の資金循環が膨張しており、ある意味で異常な事態が続いている。財政投融資残高は400 兆円、GDP の8 割の規模であL )、調達側の郵貯の資産額は230 兆円で民間4 大グループの資産の総合計に等しく、簡保の125 兆円の資産規模は生保大手5 社の合計よりも大きい。これを民の資金循環へと戻していくことが喫緊の課題である。
官の資金循環は要は「国営」であり、基本的に経済原理が働かない。すでに旧ソ連で否定され、中国が脱却しつつある社会主義経済モデルがでんと腰を据えている、驚くべき状態と言ってよい。実際、道路関係4 公団の例に顕著であったように、出口側の特殊法人の不効率な事業に対して、経済合理性を無視して優先的に資金が割L )当てられ、資源の分配に大きな歪みが生じた。その結果、道路4 公団だけで40 兆円以上の債務を抱えている。こうした巨額の債務を高速道路収入で返済していけるかどうかが民営化の議論で問われたわけだ。最後にツケを払うのは誰かといえば、それは国民である。
また、政府系金融機関による融資は民間金融機関の自立の基礎となる収益を圧迫している。住宅金融公庫や中小企業向けの政府系金融機関の存在によって、日本の銀行は外国の金融機関が収益柱とする分野でのビジネスが十分できず、それが経営が安定しない一因となっている。
中略
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高度成長期において国家的に資金が不足していたとき、急増する社会インフラを整備するための資金供給を補完した歴史的役割はともかく、財政投融資制度が今の規模で存続することは、無制御な財政負担の増加と金融システムの自立性という2 つの側面で、日本経済の持続可能性を脅かしているのだ。
改革も看板の付け替え
最近、財政投融資計画の規模は10 年弱の間に半減したという政府の主張もある。しかし、特殊法人が政府の暗黙の保証の下に財投機関債を発行して事業を行う部分が加わった(図1 「財政投融資機関の事業規模の推移J 参照)。一方、財政融資資金特別会計が発行する財投債の主な引き受け手は郵貯・年金であることを見れば、「国営銀行」の経済的実態は改善していない。それなのに「半減した」という勝利宣言を出すことは、かえってこの問題に対する政府の問題解決能力や真剣さに対する疑念を増幅しかねない。具体的な改革措置も今のところ、廃止の決まった住宅金融公庫で事業規模の減少が始まっている程度である。ということは、特殊法人改革はまず「廃止」を決めなければ結局、看板を付け替えて組織は温存され、実態は変わらない可能性が高い。
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具体的数字で見ると、道路関係4 公団の国ルートの資金は変わっていないく図1 右図参照)。財政融資が2002 年度実績2 . 8 兆円から04 年度計画で1 兆円に縮小しているが、政府保証債が0 . 3 兆円から2 兆円に伸びておL )規模自体に変化はない。昨年暮れに道路関係4 公団の「民営化J の枠組みが決まったが、今後も借金をして高速道路を造り続けるという枠組みに変化はない。原資が財政融資資金ではなく、民間金融機関からの借り入れに対して、政府保証がつけられることになっただけだ。
財投制度については「出口」面と同時に、「入り口」の改革も必須である。04 年の小泉政権改革の看板である郵政改革は、まさしく、この社会主義的資金循環システムの入り口をどれだけ縮め、兵糧攻めにできるかである。郵便局のネットワークは、郵貯・簡保からの収益でその損を穴埋めしていると言われ、3 事業と地域でニ重の意味でプール制になっている。道路公団問題では、客観的な会計情報がないままに不採算路線を含めた事業の民営化プランを検討せざるをえず、具体策の検討が難航した。郵政の民営化プランも事業と地域ごとの個別郵便局の損益分岐点を確定する作業が本来先にあるべきだ。そのうえで、どうしても採算がとれないために国営として残す部分はどこかを明確化する。そういう作業プ口セスを踏まなければ、どっちつかずな改革になる危険が強い。
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不良債権のデジャビュ
特殊法人は、「利益を追求する民間企業ではできないような事業」を行っている。政策の視点から採算に乗らないことを前提に行うために、損失を出し続け、結果として税金の補填が必要になる。国庫から計画的に補助金が出ていることが明らかな場合は、問題は比較的単純である。国民もこれを補助金として認識して、国民負担を知ることができるからである。
問題なのは、実態が不透明で気付いた時には手遅れという場合だ。その点、財投機関の不良債権についての政府の説明は極めてわかりくい。図2 で示すように、中小企業金融公庫と国民生活金融公庫の不良債権比率は民間銀行と比較してもかなり高い水準である。特に、国民公庫は極めて高い水準であり、民間銀行と異なり、無担保貸付が82 %と高いことから、大きな潜在的損失は明らかである。
図2 :財政投融資機関の不良債権問題〜不良債権の比較〜
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貸出条件緩和債権
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ところが、財務省ホームページは、「税金を投入しているからといって、すぐに財投機関の事業が不良債権化しているというのは適当ではありません」と書いてある。確かに、ある金融機関が信用コストを自力で賄えるとき、一部に貸し倒れは起こっていても、不良債権問題とは言わない。貸し倒れの規模が大きくなり、自力での処理ができなくなったときに不良債権問題として認識される。
財投機関では、税金投入しているわけだから、一般常識で考えれば、コストを自ら賄えていない。自力では経営が成L )立っていないのだ。これが民間金融機関であれば、これ以上損失が広がらないように対応する。ところが、財投機関については、政府はこれを「不良債権問題」と認識していない。当然、是正措置もとられない。その結果、過去の累積損失や今後生じる損失の処理がどうなるのか、最終的負担者である国民は何もわからない。
実は、これはわれわれにとってはデジャビュ(すでに見た)の光景である。十数年前に、民間金融機関の不良債権問題が議論され始めたとき、「不良債権などない。あったしても今後の資産価格の回復と株式の含み益などで十分処理できる」と強弁していた金融関係者が祷挑としてくるのである。そうした対応を続けた結果、日本の銀行は金融機関としていちばん大切な信頼を失った。
あいまいさの典型のーつは財投機関債である。
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財投債は、購入者からはあくまで国債と同等と見なされるが、財投機関債は、政府保証がなく、信用リスクを伴っているというのが建前だ。04 年度においては、財投計画20 . 5 兆円に対して、23 機関で合計4 . 4 兆円の発行が予定され、この発行残高は年々 増加している。
財投機関債の歪んだ実態
財投機関債は過去の財投改革の目玉である。本来、特殊法人に対しては政治プ口セスに近いため、通常の政府による経営チェックには期待しがたい現実を踏まえて、財投機関債を発行することにより、事業・財務内容を「市場の評価にさらす」必要が論じられた。効率性の低い機関を明らかにして淘汰を図り、特殊法人等の改革を実現することが政府の目的として説明された。
この目的については大賛成である。しかしその場合、政府保証がないことが前提であり、特殊法人が自力で市場調達することが重要である。また、経済界や幅広い国民と情報共有するためには、財務会計情報の一般共通言語である企業会計原則に則ったディスクロージャーの質が向上することが当然、期待される。
ところが実態を見ると明らかに、市場では財投機関債は「暗黙の政府保証」が存在していることが前提となった扱いとなっている。政府が当初意図したような「市場の評価にさらされてJ おらず、債権のプライシング等を通じた事業へのプレッシャーが実質的にほとんどない。債務超過を1 . 3 兆円の税金で穴埋めした本少ltl 四国連絡橋公団が、ダブルA の高格付けで財投機関債を04 年1 月に発行したことは記憶に新しい。
資金調達コストは、その企業の収益性・安全性・成長性が評価されて決まり、市場の評価は、時にはマネジメントの退陣やビジネスモデルの変革を迫る。リスク・リターンを正常化するプ口セスが積み重ねられることで、金融市場全体が健全化の道をたどる。ところが、財投機関債は、表面的には否定されている政府保証が市場に認識され、むしろリスク・リターンの歪みを増幅させている。
現実には歪みはさらに複雑化している。財投機関債と国債との間にはある程度の金利差が見られるが、この微妙な差異を、「[何だかよくわからないが不透明で気持ちが悪い」ということに対してのプレミアム」、「ヌエのよう」「中途半端」「モラルハザードの温床」と評する論者は多い。この不透明さは、当該機関に対する政府の支援スタンスや、政治的リスクなどであり、科学的分析は極めて難しい。政府自身が金融市場の歪みを誘発しているともいえる。
市場経済原理の外で特殊法人が設立された経緯を考えれば、財投機関債を発行する際にはその特殊法人の存廃も含めた、徹底した議論が本来必要であったはずである。安定した資金調達が単独では困難なものの、国民にとって必要な機関については、厳格なチ工ックを行うことを前提として政府保証債を活用するのが透明性の観点からは本筋である。より一般的には資金の流れを一般会計に一元化し、最終的には財政融資特男リ会計を廃止するというのが大きな改革の枠組みであるべきだろう。そのうえで財投機関債については、政府保証を明示的に否定し、真に当該機関の効率化に結びつく社債形態へと進化させるべきだろう。
折しも、今年半ばには最終案が固まる新BIS 規制案では、特殊法人のリスクの掛け目が変更される可能性がある。現在の10 %が20 %や50 %となった場合、投資家の行動の変化は避けられない。財投機関債のリスクの中身を透明化して国民の目に明らかにし、新たな枠組みを定めるためのオープンな議論を行う必要性と緊急性は大きい。
「官」が増殖してきた背景には、その情報開示の窓意性、不透明性が根本にある。それらをひとつひとつ解きほぐしていくことなしには、特殊法人の改革はいつまでも意味あるものにならず、結局看板の掛け替えに終わることになる。
McKinsey & Company
『 週刊東洋経済」2004 . 3 . 6 に掲載]
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