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「共謀罪」の中身を知ろう!─「東京新聞」核心”黒塗り資料の怪”
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投稿者 天木ファン 日時 2005 年 7 月 06 日 09:01:36: 2nLReFHhGZ7P6
 

“治安立法”へ条約を曲解?

 「成立すれば拡大解釈当然」

 郵政民営化問題で白熱する今国会で、こっそり「現代版・治安維持法」の異名すら持つ法案が審議入りした。昨年八月二十三日付の「こちら特報部」で報じた「共謀罪」がそれだ。罪を犯さなくても、相談しただけで捕まりかねないアブナイ法律だ。政府は国際組織犯罪防止条約の批准のためと同法の新設理由を説くが、条約の趣旨とは異なるただの口実、との指摘も強まっている。 (田原拓治)

 「予想以上に隠され、怪しさを一段と実感した」。龍谷大で刑事法を専攻する大学院生藤井剛さんはそう語る。

 藤井さんは昨年十月、政府が二〇〇三年十月に国連総会での採択に併せ署名、国会が〇三年五月に批准を承認した国際組織犯罪防止条約の交渉記録の開示を求めた。

 先月十日に届いたA4判二千枚の文書は墨塗りだらけだった。非開示理由は「他国または国際機関との交渉上、不利益を被るおそれがあり」と紋切り型だ。

 藤井さんが文書の開示を求めたのは、共謀罪法案を検証するためだった。同条約は批准に国内法整備を求めており、そのために同法案が作られた経緯がある。

 同条約は一九九四年、「越境性」のある国際マフィアによる銃器や麻薬の密輸取り締まりを主眼にナポリ閣僚会議で提起された。

 だが、日本政府は当初、実行行為を裁く近代刑法の原則を重視し「共謀または予備の諸行為を犯罪化することは、わが法制度に首尾一貫しない」(九九年三月の政府間特別会合)と条約批准には消極的だった。ところが、折からの米国主導の「反テロ」圧力に押され、積極派へかじを切る。

 同条約の五条には「組織的な犯罪集団の関与する重大な犯罪の実行を(略)相談すること」も、処罰の対象になるとある。共謀罪がつくられるゆえんだ。

■『公になれば制定問題』

 しかし、その大前提となる適用範囲を示した三条には「(条約の)性格上、国際的なものであり、かつ組織的な犯罪集団が関与するもの」と限定されている。

 開示された交渉過程の文書で、特に問題とされるのが、条約の運用を討議した二〇〇〇年七月の第十回政府間特別会合の記録だ。このウィーン発の公電の三ページ目に十八行にわたる墨塗り部分があるのだ。

 この会合では実際の運用をめぐり、越境性などを厳格に犯罪の構成要件とすべきとする第三世界(G77)や中国と、立証の難しさから緩やかな規定を求める米国、フランスが対立した。

 結果は先進諸国が寄り切り、三四条二項で「締約国の国内法に(略)国際的な性質(略)と関係なく定める」と記された。これで越境性を厳密に証明しなくても摘発できるようになったが、法務省は「国際性などを要件としないで犯罪化する義務がかかっている」と解釈している。

■国際条約狙いは越境犯罪なのに

 ただ、条文の解釈ノート(公式の注釈)には、この緩やかな適用が「条約の適用範囲(三条)を変更したものでなく」とある。藤井さんは墨塗り部分について「わが国の法制度にこの条文はなじまないなど、日本の交渉担当者の苦慮が記録されていたのではないか。公になれば、なぜ共謀罪をつくるのかが問題になるので隠したのでは」と推測する。

 共謀罪に詳しい海渡雄一弁護士は「この部分が肝心だ。条約はどこから読んでも越境犯罪対策なのに、日本政府は三四条二項を意図的に曲解し、治安立法(共謀罪)をつくる契機に利用した」と指摘する。

 実際、この法律ができれば、越境犯罪とは無関係な労働組合や非政府組織(NGO)の「座り込み」決議などが、組織的威力業務妨害の共謀罪、特定の政治家を名指しにした「落選運動」なども公職選挙法の共謀罪に問われかねない、と法曹関係者らは指摘する。

 法務省もこうした懸念に配慮し、ホームページ上で「組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の共謀行為に限り処罰する」「単に漠然とした相談や居酒屋で意気投合した程度では、本罪は成立しません」と火消しに躍起になっている。

 しかし、山下幸夫弁護士は「立法者(法務省)の意見は一資料にすぎない。実際の運用で解釈が変わることは司法の場では常識」と前置きし、こう批判する。

 「もし、対象が暴力団だけなら条文にそう書けばいい。しかし、実際には書かない。凶器準備集合罪にしても立法時は、暴力団対策と説明された。しかし、実際には反政府運動に適用された。共謀共同正犯にしても拡大解釈が著しい。同じ共謀である以上、法が拡大解釈されない保証はない」

 戦前の治安維持法では「国体変革」などを狙う団体が適用対象だったが、横浜事件では出版記念会合が「共産党(非合法)の秘密会議」と断定され、言論人ら六十人以上が逮捕され、四人が獄死した。住居侵入罪が適用された昨年の立川反戦ビラまき事件でも、警察官が「宅配ピザの宣伝と反戦ビラは違う」と恣意(しい)的な運用を明らかにしている。

■「街中に盗聴器が・・・」

 「こうした法律が一度できてしまえば、当局は共謀を立件するため、今度は九九年の盗聴法の際に推進論者が主張した口頭会話の盗聴などを合法化するよう動くだろう。さらに自首の免罪や減刑の項目が設けられており、スパイ活動や密告などの風潮が強まりかねない」(山下弁護士)

 とりわけ、一線の労働運動活動家の危惧(きぐ)は強い。個人加盟の東京中部地域労働者組合執行委員の佐々木通武氏は「団交要求や座り込みを戦術会議で話しただけで、逮捕監禁とか威力業務妨害の共謀罪に問われかねないとすれば、一緒に力を合わせるという組合の根幹が揺らぐ。組合は開かれた組織だが、密告の恐れから腹を割った話すらできなくなる」と懸念する。

 同法案は〇三年三月(廃案)と〇四年二月(継続審議)に出されたが、いずれも審議入りしなかった。だが、今回は八月十三日まで会期延長され、今週中にも本格審議が始まりそうだ。

 衆院法務委員会は自民、公明、民主各党議員で構成されている。民主党内には廃案、修正両派が混在しているが、法案に反対する日本弁護士連合会の中村順英副会長は「どこか一部を修正して、どうこうなる法案ではない」と言い切る。

 共謀罪が提案された一括法案では、サイバー犯罪法案も盛り込まれた。これはパソコン一台の差し押さえ令状で、LANのような回線でアクセスできるすべてのパソコンデータの差し押さえが可能になる法律だ。

■「北朝鮮の事笑えるのか」

 この数年間、治安立法の新設が加速している状況だが、こうした問題を追跡してきたジャーナリストの斎藤貴男氏は「近い将来、街中に盗聴器が仕掛けられる時代が来る。共謀罪を推進する自民党の人たちは北朝鮮をよく笑えるな、と不思議に思う」と苦笑する。

 「最近は人々が喜んで監視される風潮すら感じる。自分を見失い、国家にすがりたいという時代の気分。共謀罪もそんな土壌から仕掛けられている」

(メモ)共謀罪 2000年に施行された組織的犯罪処罰法の「改正」。法定刑が4年以上の懲役となる557の犯罪を対象に複数の人々が「共謀」した場合、最高で懲役(もしくは禁固)5年の刑罰に問える。刑法60条の「共謀共同正犯」では犯罪の実行が前提となるが、共謀罪では事前の話し合いだけで罪に問われる。実行前の自首による減刑、免除の項目もあり、密告やスパイ奨励の懸念も。強盗予備罪(懲役2年以下)より強盗の共謀罪(懲役5年以下)が重刑となる刑の不均衡も指摘されている。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050706/mng_____tokuho__000.shtml

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