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早稲田大学新聞
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/1471/
■論壇 JR福知山線列車転覆事故
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/1471/05/0507jiko_jihyou.html
■『現代』柳田邦男
柳田邦男「JR尼崎事故破局までの『瞬間の真実』」(『現代』7月号)は、事故車両に乗り合わせた生存者の体験談を精力的に集めている。当日の様子を現実に忠実に再現しつつ、事故の分析を行なっており、強い説得力をもっている。
柳田は、本稿で事故列車を運転していた23才の高見隆二郎青年の「当日の心理状態」に光をあてている。事故が起こったカーブまでの直線コースを120キロの最高速度で走行し名神高速道路の高架の手前で減速しはじめ300Rの急カーブに70キロで入るというのが運転士間の暗黙の心得であるという。
しかし、当日の高見青年は高架を120キロで通過し、カーブの起点手前で標識の〃指示通り〃に減速を開始し、108キロでカーブに進入することとなった。高見青年は暗黙の心得を忘れて何を考えていたのか。柳田は、高見青年が運転士になった翌月に100メートルのオーバーランへの懲罰として受けた「日勤教育」の非合理性に着目する。
高見青年は事故当日に宝塚駅で赤信号無視でATSを作動させている。「オーバーランだけで13日間の『日勤教育』を、運転士になって間もない時期に受けさせられた経験をもつ23歳の運転士の頭の中では、《またミスをした。今度は長期の『日勤教育』か》という恐怖心が、頭の中を駆けめぐっていただろう」と推論し、「『日勤教育』という名目で、そういう科学的安全対策に逆行する旧態依然たる威圧的厳罰主義を採用しているJR西日本は、相当にゆがんだ企業と言わなければならない」断じる。
■『世界』JR西運転士
JR西日本現役運転士匿名座談会「現場は何を求められてきたか」(『世界』7月号)は、会社当局の労務管理の悪辣さが浮き彫りにされる。
「『ヒヤリハット』(ヒヤリとしたりハッとしたケース)の場合は運行にも安全にも影響は出ませんが、それも日勤教育の対象」になる。「ヒヤリハット」を見つけるのは「安全のため」ではなく「社員をチェックするため」である。
「手袋のボタンが外れているとか、声を出して確認するとき、声が後ろまで聞こえなかった」とか「指さし確認で手を下ろすタイミングが遅い」といった微に入り細を穿ったチェックが、本人の気づかない間に「裏面添乗」によってなされている。
労働者に恐怖心を植え付けることが眼目の労務管理の下では、「ヒヤリハット」や「インシデント」(偶発的な事故)の集約や分析は不可能なのだ。
所属組合による待遇の差別も公然とまかり通っている。四〇代のベテランが「見習い運転士を教える指導操縦者」から外され「運転士経験3年ぐらいの、二六、七歳の運転士に指導させている」。技術・技能のベテランから若手への伝承の構造が、会社当局の労務管理によって壊されてしまっているのだ。
■『論座』高村薫
『論座』7月号の、作家・高村薫の聞き書き「私たちは『被害者』を消費していないか」は、この事故はJR西日本という「一企業の問題にとどまらず、私たちの生きている社会全体の問題なのではないか」という巨視的な問いかけが、鋭い警世の響きを持って迫ってくる。筆者は、今回の事故のような「常識」を覆す事件に直面したときに「私たちが理性的に反応することはなかなか難しい」ことを確認しつつ、一時の「情緒の爆発ですませてしまう」ことを「思考停止」と断じ、情緒を煽るマスコミと煽られる「私たち」を強くいさめる。そしてこの「思考停止」の代わりに必ず現われ、不安ばかりを煽る「直感」的な言論への警戒を促すのである。「直感」とは例えば「一国の首相が、戦死者をどう悼むかは他国の干渉するところではないなどと平気で答弁してはばからない。戦争には必ず相手国があり、自国の感情だけで完結する問題ではないという、当たり前の論理が成り立たない」ような「根拠の無い信念」のことだという。そしてこの直感が幅を利かせている現在の「直感社会」=日本社会の奥底に光を当てつつ、グローバル化やナショナリズムの圧力にさらされているこの社会を変えるためには、1人 1人が「一歩立ち止ま」り、「悲しみ、怒り、そして考える」ことであり、そのことだけが「人を物事に真剣に対峙させ」、「物事は動き出す」と、深い祈りのような感情を湛えつつ凛として主張する。
■『週刊金曜日』広田研二
総合誌ではないが、JR西日本会社の職場環境に光をあて、異彩を放つ特集を組んだのが『週刊金曜日』5月27日号。広田研二のルポ「労組が労組を支配する」は、「日勤教育」の目的が「JR西労」などの会社当局と対立する労働組合に加盟する組合員を「意識改革と称して、組合を変えさせることにある」と告発する。圧倒的多数派の組合が当局と癒着し、「もの言えぬ職場」が作られているという、事故の背景に迫っている。先に紹介した高村氏の論考でも、「過密ダイヤや『日勤教育』などの処罰規定に問題があったのなら、労組は経営側に改善要求を行い、改善されない場合はスト権を行使すればよいのになぜしなかったのか」との論及がある。今回の事故をめぐっては、労組のあり方が論壇の大きな争点になった。
■『週刊朝日』田原総一朗
このような中で、『週刊朝日』5月27日号では早大教授の肩書を持つ田原総一朗が、事故を告発する労組員の意見を「経営側とと特別に激しく対立する労組幹部」による意見に過ぎないとして、JR西当局を擁護する論を「直感」的に書きなぐるという薄っぺらさを晒している。
田原ら少数の論を除けば、各誌とも史上最悪の列車事故を前にして、日本社会の底知れぬ暗部見据えつつ、教訓を導き出そうという意欲的な論考が多く、論壇は久々にヒューマニスティックな活況を呈したと言えよう。この事故が論壇の良きターニングポイントになればと願ってやまない。