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【朝日新聞】
(英同時テロ・現場から:カイロ)「容疑者」擁護の大合唱
カイロ南部にあるナシャル博士の自宅(背後の建物の1、2階)。1階の狭いスペースで父親が鉄加工品をつくり、細々と生計を立てていたという
英国と、エジプトと、連鎖するかのようにテロが相次いだ。テロの脅威を抱え、テロと戦う姿勢は、両国とも変わらない。しかし、双方の政府の思惑や世論のずれもあって、協力態勢は、必ずしも順調に築けてはいない。
●貧しい町育ち エジプト当局、慎重捜査
「母親があのバルコニーで、いつも下着姿で涼んでるんだよ。そんな家からイスラム過激派が生まれるかね?」
タイル工のムハンマドさん(47)が、向かいの2階を指さした。今月7日に起きたロンドンの同時爆破テロで爆薬製造にかかわったと疑われ、エジプト当局に拘束されたマグディ・ナシャル博士(33)の生家である。
カイロ南部バサティン地区。舗装のはがれた路上に砂煙が舞い、ゴミの異臭が漂う下町だ。あふれた下水がよく博士の家に流れ込んだという。少年時代から優秀で、父は我が子の学資工面のためサウジアラビアに出稼ぎに行ったという。
近所の住民らは口々に博士をかばった。「モスクには通ってたが、人並み程度の信心深さだ」「あごひげも長くない」「弟はナイトクラブで楽器を弾いている。過激派のわけがない」――。
擁護の大合唱はご近所にとどまらない。アドリ内相は早々と「彼はアルカイダと無関係」と断言。地元紙にも「博士は無関係」「近く釈放か」との記事が続いた。
ナシャル氏は、自爆したとみられる容疑者らと面識があったことを認めているといわれる。普段のエジプトなら容疑者とみなされ、関係者まで拘束されるだろう。エジプトでは非常事態令が続き、令状なしの拘束、厳しい尋問は常識。23日にシャルムエルシェイクで起きた同時爆破テロでも、25日までに100人近くを拘束した。しかし、博士に対してエジプト当局は妙に慎重だ。
●対過激派、英と因縁
その鍵は、英国との微妙な関係にある。
エジプトから英国に亡命した過激派は多い。エジプト政府は90年代初頭から、そのうち約20人の送還を求めてきたが、英国側は「公正な裁判が期待できない」と取り合わない。エジプトとしては「こちらの要請を無視しておいて、捜査を求めてくるとは何だ」との反発がある。
最初の英同時爆破テロ発生直後の8日付で、政府系のグムフリヤ紙は「エジプトは以前、テロリストをかくまう危険性を英国に伝えた。今、それを思い出していることだろう」と論じた。
9・11米テロでリーダー格だったといわれるモハメド・アタ容疑者、「アルカイダ」ナンバー2のアイマン・ザワヒリ容疑者ら、テロ容疑者にはエジプト人が少なくない。「またエジプト人か」との非難に、政府は過敏になっている。
●人権派は批判
まして博士は、国立研究所の研究員だ。優秀な人材を守れとの論調が政府系紙で展開され、内務省幹部も「捜査は主権の問題だ。英国の引き渡し要求には応じられない」と英当局を牽制(けんせい)した。
エジプトのこうした態度には批判もある。「組織的拷問を続ける治安当局が、誰かの無実の証明に躍起になるなんて、聞いたことがない」とエジプト人権機構のハーフィズ・アブサーダ事務局長(39)はあきれる。「無実というなら、英国に渡して捜査してもらえばいい。できないのは、政治的意図があるからだ。ロンドンにいる過激派を送還してもらえないことへの当てつけだろうが、人権を守らないエジプトには英国だって送還できないのが当然だ」と話した。(カイロ=吉岡一)
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