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通信の秘密、守れるか サイバー取り締まり法案、今国会で審議中
新しい差し押さえ制度のしくみ
インターネット上での捜査機関の権限を広げる「サイバー取り締まり法案」が、今国会で審議されている。捜査する側にとっては強力な武器となるが、通信の秘密などを保障した憲法に触れる恐れやネット事業者の負担増につながる懸念が指摘されている。(谷津憲郎、山口進)
●令状なし、ログ保全
この法律ができると、どんな事態が予想されるのか。シミュレーションしてみた。
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ある大手通販会社で十数万件にのぼる顧客情報の流出事件が起きた。捜査当局が調べた結果、管理部門の男性社員が関与した疑いが強まった。
当局は、裁判所の令状を得て差し押さえ手続きに入る前に、男性のメールの通信履歴(ログ)を保全するよう、会社とネット接続業者のプロバイダーに要請した。男性は会社と個人用の二つのアドレスを持っていたからだ。
ログには、この男性が誰と、いつ、メールでやりとりをしたかなどの記録が示されている。さらに、この男性だけでなく、同じ仕事を担当している同僚数十人についても同様の要請をした。
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法案が成立すると、捜査機関が令状なしに、メール送受信記録などの通信ログを90日間消去しないようプロバイダーなどに要請できるようになる。サーバーを設置する企業や市民団体などにも協力義務が発生する。
富士通法務部の松沢栄一担当部長は「そもそもログは通信の秘密として保護されるべき情報。令状が出される前に、プロバイダー側が保管するのが適切かという問題がある」と指摘する。
また、「迅速な捜査と、プロバイダー側が現在の捜査対応実務で迷うことの多い法律上の問題を解決するという要請を満たす」と一定の評価をしつつ、「保全対象が広がりすぎれば、プロバイダー側への過大な負担になり、コストとなって利用料金に転嫁されることになる」と懸念する。
●PCから情報無制限?
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当局は数カ月後、男性のパソコンの差し押さえ令状を取った。この令状だけで(1)社内のコンピューターネットワークであるLANでつながっている会社のサーバー(2)個人用メールを契約していた大手プロバイダーのサーバー(3)社員が使っていたオンライン上で情報管理する「ストレージサービス」のサーバー――などのサービス提供用コンピューターからデータをコピーして差し押さえた。
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もう一つ問題になっているのが、パソコン1台の差し押さえ令状で、そのパソコンからアクセスできるすべてのサーバーなどのデータの差し押さえが可能になることだ。
立命館大学法科大学院の指宿信教授(サイバー法)は「憲法は『捜索する場所と押収する物を明示する令状がなければ、捜索・押収を受けない』と定める。物理的に全く別の場所のサーバーにアクセスしてデータを差し押さえられるという法案の規定は、憲法に抵触する恐れがある」と話す。
情報処理学会は04年、「電気通信回線で接続されているあらゆる記録媒体が対象となりかねないことが懸念される」との意見書を公表している。
この問題について法務省は「令状に認められる範囲を明示しなければならず、憲法違反の恐れはない」と説明している。
「サイバー犯罪は先進諸国が同じ基準で取り締まり、抜け穴を作らないことが大事」という山口厚・東大法科大学院教授(刑法)は「差し押さえの範囲の問題などは法制審議会でも議論になったが、裁判官が範囲を限定して許可する令状主義は変わっていないなどと説明があった。私も法案に決定的な問題があるとは感じていない」と話す。
ただ、現在でも、令状には「その他本件に関連すると思われる一切の証拠」などと具体的な範囲を明示しない包括的な条項がつくことも多く、今回の法案でも同様の問題が生じるおそれがある。
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◆キーワード
<サイバー取り締まり法案> 「ハイテク犯罪に対処するため」として、短時間で消えやすい通信ログをプロバイダー側が消去しないよう捜査機関が要請できる制度や、捜査機関がデータの差し押さえをしやすくする制度などを新設(刑事訴訟法)。これらの制度は普通の犯罪にも使える。コンピューターウイルスの作成罪なども新設した(刑法)。法案は、サイバー犯罪条約批准のために必要になった。条約は42カ国が署名したが、批准は11カ国。G8諸国で批准した国はまだない。
http://www.asahi.com/paper/national.html