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□追放される貧困者たち/ナオミ・クライン [反戦翻訳団]
http://blog.livedoor.jp/awtbrigade/archives/50062272.html
2005年09月25日
【追放される貧困者たち】ナオミ・クライン (2005/9/22)
原文:Purging the Poor
http://www.thenation.com/doc/20051010/klein
翻訳:earthspider
バトン・ルージュ地域のリバー・センターにある2000床の仮設シェルターの外で、サイエントロジー教会のバンドがビル・ウィザーズの古典、"Use Me"を演奏していた。すがすがしいくらいに、本音があらわれている選曲だ。
「もしこいつに慣れてきたら "If it feels this good getting used,"」歌い手が叫ぶ。
「すりきれるまでオレを使っちまってくれ "just keep on using me until you use me up."」(※訳者注:歌詞訳に自信なし)
ナイラーは10歳。歌詞と同じような心持ちで、マッサージ用の机に顔をうずめている。「サイエントロジー・ボランティア聖職者」とある黄色いTシャツを着たすてきな女性が、なぜ自分の背中をさすってくれるのかはぜんぜんわからない。でも、「とても気持ちいいの」と彼女は私に言う。そんなこと気にしないわ、と。ナイラーに、マッサージをしてもらうのははじめてかと聞いてみる。「援助です!」ボランティア聖職者がぴしゃりと、私のサイエントロジー用語を訂正する。ナイラーは首を横に振る。自宅に木が倒れてきて、ニューオーリンズを避難してきてからというもの、彼女はこのテントを何度も訪れており、援助中毒とでもいうべきものにかかってしまっている。「神経がまいっちゃってるの」と、マッサージされながら気持ちよさげに彼女は言う。「そういう、感じなの」
彼女が着ている援助物資のピンクのTシャツには、年に似合わない文句が書いてある(「島の男の子たちが熱く、熱く、熱くなる秘密の場所はここ」)。ナイラーは私に、なにが心配事なのかを話す。
「ニューオーリンズは、元通りにならないんじゃないかと思うの」
「なぜ?」私は聞きかえす。都市再建にかかわる政治について、13歳にもならないおさげの少女と議論していることに驚きながら。
「壊れた家の直し方を知ってるひとたちが、みんな行っちゃったから」
あなたの言ったことは的を得ているかも、とナイラーに伝える勇気が私にはない。彼女の近所に住んでいたアフリカ系米国人労働者たちの多くは、都市再建のために戻ってくることを歓迎されないかもしれないのだ。一時間前、私はニューオーリンズにおける企業ロビイストの第一人者である、マーク・ドレンネンに取材していた。グレーター・ニューオーリンズ社の社長にして最高経営責任者であるドレンネンは、悠々とした風情だった。シェブロンからリバティ・バンク、コカコーラに至るまで、彼が代弁するあらゆる企業に対し、政府が税免除、補助金に規制緩和といった措置を気前よく示してきたからだ。ロビイストの仕事は事実上、もはや無用となったわけだ。
今回の嵐がもたらした好機について熱弁をふるいつづけるなかで、ドレンネンがニューオーリンズに住むアフリカ系米国人のことを「少数派のコミュニティ」と言及したことに、私は衝撃を受けた。人口の67パーセントを占める彼らは、実際明らかな多数派であり、ドレンネンのような白人こそたった27パーセントにすぎない。単なる失言であろうが、私が思わずかいま見た気がしたのは、白人エリートが想像している新しく改善された都市の理想的人口比率だ。ナイラーや、家を建て直すやり方を知っている彼女の隣人たちの居場所は、そこにはほとんどないだろう。「正直言って、私は彼らがどんな形で戻って来れるか知らないし、誰もわからないのではないかと思う」ニューオーリンズの失業者について、ドレンネンはそのように語った。
すでに、ニューオーリンズは劇的な人口比率の変化を見せており、避難者たちのあるものはその激しさを「民族浄化」と表現している。レイ・ネーギン市長が二度目の避難命令を出す前、浸水していない地域に戻っていったのは大半が白人だった。一方、帰る家を失った人々は圧倒的に黒人が多かった。断言するが、これは陰謀説などではなく、単純な地形上の問題である。ニューオーリンズの富裕層は、高い場所に家を買うからだ。ゆえに、もっとも浸水しなかった地域は、もっとも白人が多い地域でもあるのだ(フレンチ・クォーターは90パーセントが白人である。ガーデン地区は89パーセント。オードボンは86パーセントである。隣接するジェファーソン・パリッシュも帰宅が認められた地域であるが、65パーセントが白人だ)。浸水しなかった地域の中には、アルジェーのように低所得層のアフリカ系米国人人口が多かった場所もある。しかし数十億という復興予算にもかかわらず、住民たちが遠く離れたシェルターから故郷に戻るための交通費は割り当てられていない。それゆえ、たとえ再居住が許可されたとしても、多くの人々は家に帰ることができないおそれがある。
低地に建てられた家に住み、居住支援計画のもとで生活していた数十万人の人々は、洪水でその双方を破壊されてしまった。だがドレンネンは、もともとはじめからうまくいっていなかった地域が多かったのだと批判する。今やこの街は「21世紀流の思考法」を試す好機に恵まれているのだという。ゲットーを再建するよりも、ニューオーリンズは「混合所得」居住計画のもとに再建されるべきであり、富めるものと貧しいもの、黒人と白人が隣同士で住むようになるべきだ、というのだ。
ドレンネンが言わなかったことがある。実は、こういった都市統合計画はかなりの大規模で、明日にでも実行できるのだ。ニューオーリンズのもっとも貧しい、家なき避難民である約7万人は、帰宅した家持ちの白人の近所に引っ越してくることができるのだ。それも、何ら新しく建設することなしに。ドレンネンが住んでいる、ロウアー・ガーデン地区を例にとってみよう。2000年の調査によれば、この地区は17.4パーセントという驚くべき空家率である。調査の時点で702戸が空家であった。住宅市場は改善しておらず、またこの地区はほとんど浸水しなかったため、これらの空家はまだそこにあり、誰も住んでいないと考えられる。他の浸水しなかった地域についても、だいたい同様のことがいえる。家主が安い家賃で貸すよりは、空家のままにしておくことを好むため、フレンチ・クォーターは何年にもわたり半分無人の地区になっており、空家率は37パーセントにのぼる。
市全体での空家の数は、衝撃的である。わずかな被害しか受けておらず、市長が再居住を認めようとしている地域には、少なくとも1万1600戸の空きアパートと空家が存在する。ジェファーソン・パリッシュを含めれば、その数は2万3270戸にも達する。1戸につき3人が住むとすれば、おおよそ7万人の家が見つかるというわけだ。20万人と推定される市のホームレス人口からすれば、住宅危機のかなりの解決になるはずだ。そしてこれは、可能なのだ。シェイラ・ジャクソン・リーは15万人のカトリーナ避難民を受け入れているヒューストン地区選出の民主党下院議員であり、空きアパートを低家賃あるいは無料の住宅にする方法はある、と語る。ある法令を布告すれば、市当局は第8項証書を発行することができ、それによって避難民は仕事が見つかるまで家賃補助を受けることができる。ジャクソン・リー議員は連邦予算からそのような家賃補助を出すよう定める法案を提出する予定だという。「実際に住居を用意できる機会があるのなら」と、議員はいう。「それを追求するべきです」
長年にわたり、ニューオーリンズでコミュニティ活動に取り組んできたマルコム・スバーは、数千の居住可能な家が空家のまま放置されていることに衝撃を受けている。「市内に空家があるなら」と、彼はいう。「労働者層と貧困層の人々がそこに住めるようにすべきです」スバーによると、空家の占有にはいま必要な緊急避難所を人々に提供することだけにとどまらない意味があるという。貧困層の人々が街に戻ってくれば、第9区を湿地に変えるかどうか、慈善病院をどう再建するか、などの都市の未来についての重大問題が、高台に住む財力のある人々だけで決められてしまうのを防ぐことができる。「自分の街の復興に、私たちは全面的に参加する権利を持っています」スバーはいう。「そしてそれは、私たちが街の中に戻らなければできないのです」しかし、彼も認めるところでは、これはたたかいになるだろうということだ。オードボンやガーデン地区に古くから住む家族たちは、「混合所得」居住計画には形ばかりの賛成を示すかもしれない。「でも、高台に住む保守派たちは、もし第8項に基づいて隣に人が引っ越してきたら、ヒステリーを起こすだろうね。これは確実に面白いと思います」
同様に興味深いのは、ブッシュ政権の対応であろう。家なき住民たちのニューオーリンズ帰郷のため、これまでに提案された唯一の計画は、ブッシュによる奇妙な都市ホームステッド法である。フレンチ・クォーターでの演説において、ブッシュはその地域に存在する約1700の空きアパートについて何ら触れなかった。一方で彼が提案したのは、連邦政府所有の土地を避難民に分配し、家を建てられるようにするために、くじ引きを開催するというものだった。だが、新しい家が建てられるまでには(少なくとも)数ヶ月はかかるだろうし、貧しい住民の多くは補助を受けたとしても、新築住宅のローンを支払うことができないだろう。そればかりか、そもそもこの施策は需要をわずかに満たすことしかできない。当局はニューオーリンズにはたった1000人分の土地しかないと試算しているのだ。
真実はこうだ。借家住まいの人々を住宅ローン払いの人々に変えようというホワイトハウスの決断は、ルイジアナ州の住宅危機を解決するためのものなどではない。過激な私有化が進められた「所有権社会」を建設しようという、イデオロギー的妄想にふけっているにすぎないのだ。この妄想はすでに被災地域全体を覆いつくしている。赤十字社とウォルマートが救援物資を送り、ベクテル、フルーア、ハリバートン、ショーといったごろつきどもが復興事業の契約を握る。彼らはこの3年間というもの、数十億という金を受け取りながら、イラクの主要な公共サービスを戦前の段階に復興させることすらできていないのだ。「復興」という単語は、バグダッドであろうがニューオーリンズであろうが、「莫大な財の公共から私企業への無制限の移動」の略語と化している。「経費上乗せ」の政府との直接契約であろうと、国家が新たな分野を企業に競売で払い下げる形であろうと。
ヘリテッジ財団のワシントン本部で9月13日に行われた会議において、こういった構想が独特かつ堂々と主張された。出席したのは、インディアナ州選出のマイク・ペンス議員率いる100名以上の保守派からなる、共和党下院議員研究委員会のメンバーたちだ。「自由市場主義擁護の立場から、ハリケーン・カトリーナとガソリン高騰問題に対する提案」として、32項目が挙げられた。学校バウチャー制度、環境規制の撤廃、「北極圏国立野生動物保護区での石油試掘」などが含まれている。明らかに、こういった施策が骨抜きにされた公共部門がもたらした被害に対しては救援策となる、というこじつけがなされている。しかしそれも、最初の3項目を読むまでのこと。「被災地域でのデービス・ベーコン普通賃金法の自動停止」「影響地域を均一課税の自由企業地域に」「全体地域を経済競争地域に(包括的税制優遇と規制撤廃)」
全ては法制化を待つばかり。すでに大統領命令として布告されているものもある。
ヘリテッジ会議でこの項目を作った人々は、ルイジアナ州各地のシェルターで現在活動している500人のサイエントロジーのボランティア聖職者とどこか似かよったところがある。「文字通り、ハリケーンを追ってきたのです」教会監督者のデイビッド・ホールトはそう私に語った。なぜ、とたずねたところ、彼は「何かをなすべきだ」と書かれた黄色い横断幕を指さした。何について、とたずねたところ、彼は「あらゆること」と言ったのだった。
そう、ネオコンの狂信者も彼らと変わりはないのだ。彼らの「カトリーナ救援」施策とは、あらゆる問題についての解決策としていつも持ち出されるものと変わりない。だが、よき災害ほど彼らを奮い立たせるものはない。ブッシュがいうように、一掃された土地は「好機地帯」であり、兵員を増やし、信念を強化し、諸法規を最初から書き直すことさえできる絶好の機会なのである。しかし、むろん、いくらかのマッサージも必要だというわけだ・・・いや、援助、というのだった。