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2005年9月14日 9:45am PT
副大統領を罵倒した『カトリーナ』被害者、一躍人気者に
Jenn Shreve
ミシシッピ州ガルフポートの医師、ベン・マーブル氏はこの2週間のあいだに、自分の家を失い、懐中電灯の明かりの中で妻の出産に立ち会い、米CNNの生中継の中でディック・チェイニー米副大統領に向かって「くたばりやがれ」(go fuck yourself)と罵倒して、一躍時の人となった。
「正直に言って、そのときはいい気分だった。本当にすっきりした。セックスをしたりするのにはかなわないが、とにかく気持ちよかった」と、マーブル氏は8日(米国時間)に起きた出来事について語る。
しかしその直後、マーブル氏は、「シークレット・サービス(米財務省秘密検察局)の男たちの表情が、今にも私を組み伏せるつもりか何かのように、パニックでひきつっている」のに気付いた。その状況をすべてビデオカメラで撮影していた友人のジェイさんを残し、マーブル氏は足早にその場を離れた。マーブル氏は、軽く叩いて賛意を示してきた男に「よい一日を」と告げ、家に向かった。その後、制服姿の男2人に引き止められ、質問され、解放された。
しかし、まだ終りではなかった。この事件は、視聴者の目を遮断することで有名な当局にしては珍しいことに、CNNで生中継されただけでなく、多数のウェブサイトやブログでも繰り返し流され、さらにはコメディー・ニュース番組『ザ・デイリー・ショー』でも放送された。
進歩主義的なウェブサイト『オープンエンドニューズ・コム』の発行人兼編集者、ロブ・コール氏は、一部の人にとってマーブル氏は英雄になり得ると語る。
「シンディー・シーハン氏[イラク戦争で戦死した兵士の母で、米軍のイラク撤退を訴えている]は一部にとって、民衆を啓蒙する人物になっている。勇気を示し、イニシアチブを発揮し、事態を変え得る行動をとる誰かを、人々は求めている。そして、ベン・マーブル氏がそれをやったのだ」とコール氏は語る。
コール氏個人としては、マーブル氏が、不適切な発言で有名になった状況をうまく生かして、反ブッシュと反戦のメッセージを推し進めることを期待している。
緊急治療室の医師で、インディーズのロック・ミュージシャンでもあり、若者向け音楽雑誌『スピン』のページから抜け出てきたようなルックスのマーブル氏は、自分の行為を英雄的だとは思っていないと話す。
「たくさんの人がそう言ってくれるが、私はただ、ひどく興奮してかんしゃくを起こしただけなのだ」とマーブル氏。
それでもマーブル氏は、にわかに有名人になったこの機会を利用することに関しては、しり込みしていたわけではない。
マーブル氏は、自宅や近所の被災現場の写真を公開するために開設したウェブサイト『ハリケーン・カトリーナ・サックト』で、早速『くたばりやがれ、ミスター・チェイニー』のページを作り、トップページからリンクを張った。そのページからさらに、『ザ・デイリー・ショー』の動画、『GO F*** YOURSELF Mr. CHENEY』の文字をあしらった製品を扱う米カフェプレス・コム社の通販ページ、米イーベイ社のオークションサイトに出品した2点の商品へ、それぞれリンクを張っている。出品したうちの1つでは、30分のオリジナル動画をダウンロードする権利を20ドルで販売している。
2つ目のオークションでは、マーブル氏が事件当時着ていた『I PITY THE FOOL!』(俺は馬鹿を憐れむ!)と書かれたTシャツを出品しており、イーベイ社が何度も削除したにもかかわらず、一時は入札額が2000ドルを超えたこともあった。
マーブル氏は、イーベイ社に何回も削除されたオークションの商品説明文について、「最初は『FU**』と書いていた」と語る。「イーベイ社側はあからさますぎるとか何とか言ってきたから、今度は『F***』に変えた。彼らはそれさえも削除した。もうどうしたものだか」
それでも、マーブル氏は文句を言っているのではない。自身のバンド『ユーン』や『ドクター・オー』(dR. O)のプロモーションを通じて、インターネットに関する知識を身に着けているマーブル氏は、「イーベイ社が削除すれば、より多くの人が興味を持つだろうと分かっていた」と語る。
奇妙な偶然だが、マーブル氏の妻のリサさんも、CNNのハリケーン報道で紹介された。リサさんは、繰り返し陣痛を経験しながらハリケーンをしのぎ、避難所への移動をなんとか乗り切ったのだから、勇敢な女性という評価も的はずれではない。
「私たちはガルフポート記念病院に移動しなければならなかった。そこでは、懐中電灯の明かりで何人もの出産を助けていたが、妻もまた1人の助産婦に助けられ、硬膜外麻酔などもなしで出産した。妻にとっては、かなり荒っぽいやり方だった。まるで悪魔払いみたいな光景だった」と、マーブル氏は振り返る。
マーブル氏は、これまでに動画ダウンロードを20件販売したほか、ジャクソン・ソロー氏をはじめとするジャーナリストたちからの支援も得た。ソロー氏は、オープンエンドニューズ・コムに寄稿し、マーブル氏のチェイニー副大統領に対する発言を賞賛する人は、彼を助けるべきだと提案している。
オンライン決済サービス『ペイパル』のマーブル氏の口座には、13日までに900ドルが寄付された。マーブル氏はラジオ・インタビューを数多くこなし、ポルノ誌『ハスラー』にも掲載され、ビル・マー氏やハワード・スターン氏がホストを務めるテレビ番組からも出演の依頼を受けた。
マーブル氏は、これまで勤務先の病院でハリケーンに関連した疾患を数多く治療してきたが、自分のケースは慈善を受けるような性質のものではないと強調する。とはいえ、マーブル氏から歴史の断片を買いたいと考えるファンたちを拒むわけでもない。
「今回の出来事に興味を持ち、いい事だと思い、私が失ったものを再建するのを支援したいというのであれば、遠慮なく購入してもらいたい」と、マーブル氏は語った。
[日本語版:向井朋子/高森郁哉]