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http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0505/16/news053.html
懸念材料の多い米国のRFIDパスポート構想。米政府は、批判を受けて再考を始めたようだが、そもそもこの計画を支えているのは、きわめて“アメリカらしくない”思想だ。
米国務省が米国パスポートにRFIDタグを埋め込むという無分別な計画の見直しを始めたという情報は、歓迎すべきニュースだ。しかし、あらゆる兆候から考えて、国務省はこの構想を完全放棄したわけではなく、セキュリティの専門家と、市民の自由を主張する人たちの懸念を和らげる方法を模索しているにすぎない。
しかし、ハイテク旅券の形で、事実上の国民IDカードを導入しようとするこの計画への正しい対処の道は、1つしかない。封じ込めることだ。
国務省は昨年から、新規発行パスポートに2006年までにRFIDチップを埋め込む意向を示している。その目的は、パスポートの偽造や改ざんを困難にし、同時に旅行者の税関でのチェックをスピードアップすることにある。だが、この計画はプライバシーとセキュリティの重大なリスクを無視しており、同省が乗り越えなければならない技術的障害も少なくない。
チップ搭載パスポートに反対すべき最も大きな理由は、その有用性に現実的な疑問がある点だろう。米政府の計画どおりなら、チップには、指紋などの生体データが格納されるだろうことに加え、基本的に、従来のパスポートに記載されているのと同じ個人データが載ることになる。
データの総量はほとんど変わらないため、問題は、こうした情報の改ざんが米国の国境警備上、真の脅威かどうかという点に絞られる。昨年、国務省の外交保安部はおよそ3000件のパスポート詐欺容疑を取り調べ、最終的に615件が逮捕に至っている。
同省が年間700万部あまりのパスポートを発行していることを考えれば、詐欺の発生率は、出回っている旅券の数に比べて取るに足らないレベルであることが分かる。
こうした問題に関しては2001年9月11日の同時多発テロが米国の基準だというなら、あの事件で米国の偽造パスポートを使ったハイジャックテロリストは皆無だったことを思い出すべきだ。テロリストのうち2人は、盗んだサウジアラビアのパスポートを使っていたが、これは、国務省の今回の提案で防げるようなものではない。
それはそれとして、高まるかどうか疑わしい安全性のために私たちが支払わされることになりそうな代価が高すぎる。当初、最長10センチの距離から特殊なスキャナーでRFIDデータを読み取るプログラムとして始まったものが、今では、30フィート(約9メートル)近い距離からでもデータを読み取れるシステムであることが分かってきた。
加えて、米国の進んだ暗号化技術が他国の税関当局に知れるのを避けるため、データを暗号化しないという国務省の当初の主張もあって、個人情報が盗まれ悪用されるお膳立ては整っている。
先月、米国自由人権協会(ACLU)がこの議論に加わり、RFIDデータの可読距離を判断できるように、RFIDパスポート試作品のテストデータを公開せよと国務省に求めた。
「われわれが回答を求めている重要な問いの1つは、RFIDチップがどのくらいの距離から読み取れるかということだ」とACLUの「技術と自由プロジェクト」ディレクター、バリー・スタインハート氏は言う。「昨年の報道によると、政府のテストでは、30フィートの距離からでも読み取り可能だったという。政府はこれを否定しているが、実際のテスト結果を公表していないため、何を信じればいいかの判断が難しい。米国民には知る権利があり、われわれは、この技術の性能を見定めるつもりだ」
私はこれまでの生涯で、ACLUの意見に完全に同意したことは一度もなかったが、この件に関しては、協会の主張は理性の声だ。
先月、ID窃盗の可能性についてのこうした苦情やRFIDシステムのセキュリティに対する懸念から、プログラムを再考することになったという米政府高官の発言が報じられた。だが国務省は、効果のほどは疑問のままだとしても、懸念の解消は可能だと踏んで、パスポートへのチップ埋め込みの意思を変えていないようだ。
しかし、RFIDパスポートの議論を真に特徴付けているものは、新しく不快な形での国民IDカードという、本質的にアメリカらしくないコンセプトだ――これは、全国民が自分の個人情報を携行し、自分が誰でどこに行くのかを知りたい人に、無断で情報を読み取られ、解析・利用されてしまうようなアイデアだ。
スタインハート氏はさらなる調査を求めるに当たって、RFIDパスポートは「個人情報窃盗や、海外を旅行する米国人を選び出したいテロリスト、あるいは政府または民間企業による日常的な個人追跡などの脅威にわれわれをさらす可能性がある」と指摘、さらに次のように言い添えている。「それらにふさわしい、十分な説明をして、国民的議論として取り上げられるべきだ」
原文へのリンクhttp://www.eweek.com/article2/0,1759,1812731,00.asp