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「新たな戦争」の戦闘様相について
http://www.drc-jpn.org/AR-8/okamoto-04j.htm
(財)DRC研究委員
岡 本 智 博
はじめに
現在米国を初めとする先進諸国には、軍事革命―RMA―の嵐が吹き荒れている。イラク戦争において米・英軍は、RMA化された軍隊で戦闘を行い、湾岸戦争に始まったRMAの実態を更に具体化して見せた。筆者は既に2002年DRC年報において、「『軍事革命』の革命たる所以について」と題する論文を発表したが、中国人民解放軍はその論文に着目し、2004年1月7日付の『解放軍報』にその要約を掲載した。その論文発表後の2003年3月にイラク戦争が戦われたことを受け、本稿では、湾岸戦争、コソヴォ紛争、アフガニスタン戦争、そして今次のイラク戦争を通して観察された『新たな戦争の戦闘様相』について、特に技術的側面から観察された事項に徹した分析を試みることとする。
4つの革命的変化
上述の4つの戦争を通して観察される軍事分野における革命的要素は、以下の4項目に集約される。
@ 従来の関係指揮官が集合する作戦会議からネット型作戦会議にしたことによる戦場認識(Situational Awareness)のリアルタイム化と作戦速度(Operational Tempo)の革命的迅速化・・・Revolutionary Rapid Op-Tempo
A 戦闘の4段階―発見・識別、目標指定、要撃、撃破―の完全分離(すなわち
キャリアー・シューター・デジグネーターの完全分離)とこれらのネットに
よる統合化を実現した戦闘遂行、そしてその成果としての戦闘効率の革命的
向上・・・F2T2EA Integrated by Net
B GPS誘導が導入され、精密誘導兵器の更なる精密化によって可能となった、航空戦力の効果的運用・・・GPS Guided Bombing
C これら全てがもたらす作戦ドクトリン・教育・訓練等の革命的変化・・・RMA in Every Fields
以下、各項目について解説してみよう。
(1)ネット化がもたらす革命−作戦速度の革命的迅速化
米国は湾岸戦争において初めてネットを作戦に利用した。すなわち、湾岸戦争において実現した約60機にも及ぶ航空機の空中集合による「パッケージ・アッタック」は、IT技術に起因するネットの存在なくして実現しなかった。航空任務指令(Air Tasking Order)を、ネットを利用して瞬時に100名を越える兵員に対し与えることに成功し、見事に空中集合を実現して、イラクに応戦の暇を与えず至短時間に強大な打撃力をイラクの防空組織に対して与え、所期の目的を達成したのである。このことは、軍隊の基本として10名からなる分隊が指揮命令の基本単位となり、4個分隊が1個小隊を、4個小隊が1個中隊を、4個中隊が1個大隊を形成し、連隊、師団と組織が積み上がっていくという、人類の歴史3000年以上の間全く変化しなかったピラミッド型の指揮命令・作戦運用系統を根底から覆し、フラット型の指揮命令・系統による作戦を実現したことを意味する。勿論このときのネットはまだ不完全で、米海軍にはフロッピーの形で手渡されたという。しかしこれがまさしくNetwork Centric Warfare のはしりであったことは間違いのないところである。そしてまた、米空軍と米海軍が統一された命令で統合的に運用されたという事実も、その後の「統合」の趨勢を明確に示唆する出来事であった。
続くアフガニスタン戦争ならびに今般のイラク戦争においては、ネットを利用して前線の指揮官から統合参謀本部議長に至るまでの司令官等が参加するネットによる作戦会議を必要の都度実施し、衛星から得た偵察結果としての、あるいは爆撃成果 (Bomb Damage Assessment) としての画像や映像、敵情に関する諸々の動向と情報、目標等に関する必要なデータ等を、それぞれの指揮官がパソコンで受信するとともに、逆に前線指揮官が運用する無人偵察機による偵察結果としての前線の敵情、例えば緊急を要する目標や作戦遂行上の重要目標(Time Sensitive Target)、敵部隊等の移動目標(Dynamic Target)等を発見した場合の迅速な行動方針転換を統合参謀本部議長にまで上申する等、各級指揮官が双方向の形式で得られた情報を元にリアルタイムに議論を繰り返し、次の作戦構想を共有して作戦を実施していった。また、前線部隊の指揮官は、パソコンによって現下に行われている部下隊員の行動を掌握するとともに戦闘状況を逐一掌握し、また上級司令部の意図を確認しつつ、自らの部隊が今なにをしなければならないかを構想しながら作戦を展開することが出来た。そしてまた、いわゆるNetwork Centric Warfare では、各級指揮官が作戦会議のために同一場所に集合する時間を費やすことなく、しかも戦場認識(Situational Awareness)を完全に一致させて指揮官の決心(Decision Support)を有効に支援しつつ戦闘を実行していくのであるから、作戦遂行の6段階、すなわち状況判断・決心・計画・命令・実行・戦果と教訓等の確認、そしてまた状況判断というルーティンを、これまでより革命的に迅速化することが出来た訳であるし、指揮の結節の局限、ITによる情報伝達の迅速性も加味されたこともあって、作戦速度(Operational Tempo)を革命的に迅速化することが出来たのである。
このように米国は現在、情報ならびに命令の送受・伝達については、フロッピーを配布するような事態を招くことのないシームレスな、そしてセンサーからシューターにまで直接つなぐネットを構成することに成功している。そしてそのシームレスなネットは、飛行中の戦闘機パイロットに対しても直接命令が届くような域にまで達している。これがすなわち、IRCA−Integrated Real-time Information in the Cockpit / Real-time Information out of the Cockpit// for the Combat Aircraftである。そしてまた、このような作戦会議には、米国の保有するGCCS(Global Command and Control System)が活用されている。
こうした作戦を可能としたNetwork Centric Warfareには、画像偵察衛星、警戒・監視衛星、通信衛星、軍事用放送衛星等々、多様・多岐にわたる衛星群が利用されていることを認識する必要がある。これが正しく、ITインテグレーションがもたらす革命なのである。
さてこうしたGCCSのような、グローバルな固定局方式による戦略単位としてのネットをはじめ、今後のRMAでは、さらに作戦単位、戦術単位、戦闘単位等のレベルごとにネットが構成され、特に戦術単位あるいは戦闘単位では、そのネットは移動局方式で形成されることとなる。そしてこれらのネットは、戦略単位ネットを頂上とし、順次作戦単位ネット、戦術単位ネット、そして多くの戦闘単位ネットが重層的に組み立てられ、立体的な円錐形を構成するピラミッドを形成し、いわゆる「System of Systems」を形作っていくと思われる。勿論、その円錐形ネットシステムの各層も相互にネット化され、決してストーブパイプ型ではないことは言うまでもないが、例えば日本においてそのシステムを形成するとすれば、日本はグローバルな軍事力行使を想定しないので、日本のNCCSネットを米国のGCCSに連接させてもらうことによって戦略単位のネットとし、作戦・戦術単位ネットとして方面単位に陸・海・空自衛隊を統合的に運用するネットを作り上げ、各師団、海上地方隊及び航空基地は、戦闘単位ネットを作り上げるというような形態となろう。このうち戦闘単位ネットワークは移動局タイプとなり、戦闘の推移に追随するものでなければならない。
そしてこれらのネットは、データ・ベースを司るもの、共通の状況認識を得るための情報を司るもの、指揮・統制のための判断を支援するもの、そして戦闘そのものを支援するものと、大きく4つに区分されるネットを縦軸に、戦略レベル、戦術レベル、戦闘レベルの3段階のネットがこれらを縦断する形で準備されるべきであり、当然のこととして、そのサイバースペース基盤は、統合プロトコールあるいは軍事分野に特化されたプログラムによってシームレスな情報授受がなされなければならないし、各級司令部から兵員あるいはコックピットまで双方向の情報アクセスが可能でなければならないし、軍事作戦秘匿のためのクリプトグラフィック(暗号措置化)された、可能であれば軍隊独自のOSを使用したシステムとなっていなければならないし、サイバー攻撃を受けてもこれを阻止しうる保全措置が採られていなければならないであろう。
(2)ネットがもたらす革命―戦闘サイクルの分離とネットによる統合
戦闘は目標の発見、識別・指定、要撃、撃破の4段階―米空軍ではFind、Fix、Target、 Track、Employ、Assessの6段階―で構成されることはいつの時代においても変わらないが、これまでの軍事技術史の中では、発見・識別手段としてのセンサー分野の分離は見られたものの、指定・要撃及び撃破段階は、兵器運搬手段である戦車、艦船、戦闘機等がその役割を担っていた。例えば戦闘機の場合、パイロットは、弾頭を搭載したミサイルが目標に到達するまでレーザービームを目標に対し照射し続ける必要があり、パイロットは地上からの防空火器に脅威を感じながら目標を指定(デジグネート)し続けなければならなかった。そのため当然のこととして命中率が低くなり、航空阻止作戦、あるいは陸海作戦直接支援という任務は、きわめて効率の悪いものとして認識されていた。しかしNetwork Centric Warfareが実現し、場所的・時間的・タイミング的な観点から最も有利な軍種、部隊、戦闘主体が行う機能を選択し、これをネットで統合(Integrate)して戦闘サイクルを完成させることが可能になった。その結果、パイロットはじめ戦闘主体は、ミサイルを発射したら直ちに敵の火力から遠ざかることが可能となり任務が極めて容易となった。これがすなわち、戦闘における革命的変化がネットによってもたらされたということなのである。更に言えば、シューターである射手・パイロット等は、もはや敵の攻撃の的となる戦闘主体に搭乗する必要はなく、シューターは地上の指揮命令装置から、無人戦車・無人機等に搭載されたミサイルを発射することが出来るようになっており、革命はさらに進化している。
この様な戦闘の一例を今般のイラク戦争における戦闘に見てみると、まずレーザー・デジグネーターを個人装備する米特殊作戦部隊隊員は、携帯するパソコンを経由して、何日何時どの位置に占位し、携行しているレーザー・デジグネーターでどの目標に向かってレーザーを何秒間照射せよという命令を受領する。他方、B-52爆撃機のパイロットは、同様に、何日何時どの位置に飛翔し、コード化されているレーザーの反射光がミサイルを起動したら直ちにそのミサイルを発射せよという命令を、コックピット内のパソコンで受領する。両者には画像情報等が届けられているため、戦場認識が共有されており、パイロットは指示通りにミサイルを発射する。この2人の間には何の申し合わせや通話手段もないが、例えば中央軍司令部に位置する指揮官は、ネットを通じて2人に戦闘命令を発し、タイミングを指示して戦闘サイクルを完成させるという訳である。
この様に、IT革命の成果により、今や戦闘におけるセンサー、デジグネーター、シューターは完全に分離されているのみならず、それぞれの役目は、陸・海・空の区別なく、そのタイミングで最も効率よく目的を達成できる手段が、瞬時に選定されてネットにより組み立てられ統合化(Integrate)され、戦闘のサイクルを完成するということも、アフガン戦争及び今回の戦闘によって証明されたのである。ここに「何故に統合が必要なのか」という疑問に対する回答が含まれており、“統合運用による戦闘効率の革命的な向上”という新たな戦闘のあり方を示唆したのである。統合司令部は、緊要なタイミングにおいて、最もふさわしい機能を陸・海・空に関係なく選択し、統合化し、戦闘を企画していった。そしてここに、このオペレーションを成功に導いたのは、衛星システムが介在したネットであったことを改めて想起すべきであるし、これがまさしくNetwork Centric Warfareなのである。
(3)GPS誘導による爆撃
今般のRMAにおいて最も革命的変化が生じたのは、航空戦力運用分野ではなかろうか。この分野では戦略爆撃、航空阻止、近接航空支援といった任務が旧来から存在していたが、先述のとおり弾薬を目標に到達させるためには、レーザーを最後の瞬間まで照射し続けるというパイロットの必死の精神が必要であり、それ故に目標に弾薬が当たらないことが多く、世界の陸・海軍は、航空戦力を当てにすることが出来なかった。ところがGPSが弾薬自体に取り付けられ、目標までの誘導を担当することとなったことから、航空戦力は弾薬を1万メートルの上空まで運搬して位置エネルギーを与えるだけでよいこととなった。すなわち、航空機が目標の約20〜40Km近づいて弾薬を放り出せば、弾薬は落下速度を推進力とし、GPS/INSを誘導装置として目標に近づき、命中率(CEP)約10~13mで目標を破壊することが出来るようになったのである。この結果、GPSの精度をさらに上げればCEP1m以内で、レーザー・デジグネーターによる最終精密誘導を実施することなく、目標に弾薬を運ぶことが可能となる見込みが出てきている。このような作戦を実施する場合には、当然のこととしてしかるべき空域の航空優勢(制空権)が確立されていなければならないが、航空優勢が確立されている場合、弾薬を運ぶ航空機は戦闘爆撃機よりも爆撃機の方が効率的であり、今般のイラク戦争でB-1、B-2、B-52といった爆撃機が活躍した理由もここにある。これがまさしく、プラットホームを必要としない作戦であろう。米空軍がPlatform-based Operation からEffect-based Operationへの転換を唱える所以もここに存在するのである。
現在米統合参謀本部では、空軍による戦略攻撃、航空阻止任務の格段の有効性の向上、さらには近接航空支援の有効性と、陸・海軍が自ら実施すべき前線に対する砲撃効果をどのように判断し、陸・海・空軍の任務分担を見直すべきかについて大議論が行われている。ここで少なくとも言えることは、『空からする地上戦』の意義が十分に評価され、空軍の任務が必ず拡大するという方向に落ち着くであろうということである。
(4)運用にかかわる革命
ア.運用原則の見直し
さて、Network Centric Warfareにおいては、フラット型から進化した円錐形ネット型指揮命令・作戦運用系統が実現されるとともに、統合運用による戦闘効率の革命的な向上といった成果が享受できることを確認したが、さらに新しい戦いは、運用の基本原則のひとつである「集中」の原則についても、全く概念を変化させてしまうこととなる。すなわち、従来型であれば「集中」とは、キャリアー、シューター、デジグネーターという機能を全て兼ねた戦力発揮の主体である戦闘機、艦船、戦車等が、要時、要点に「集中」をせざるを得なかったのであり、先に述べたパッケージ・アッタックもこの原則を活用して編み出された戦法であったが、新しい戦いでは、「集中」の本質は戦闘の撃破の段階での爆発力・殺傷力、すなわち弾薬を目標に集中させることであり、その中途における兵器運搬手段(ウエポン・キャリア)の集中も、目標指定手段(デジグネーター)の集中も必要としないということとなったのである。むしろ、兵器運搬手段や目標指定手段の集中は、敵に自らを暴露するという弱点をさらけ出すこととして極力避けるべきこととなってきた。従って戦闘機、艦船、戦車等は散開した形から射撃を実施し、その弾頭が同時に目標に集中するという戦術が趨勢を得るようになるであろうと言うことなのである。ここに戦いの原則、あるいはドクトリンに対する革命的転換の必要性が潜んでいる。敢えて言えば、理想的ではあったが各個撃破に弱かった散兵戦的用兵が、円錐形ネット型指揮命令系統の実現により可能となったということであり、かつてナポレオンがマスケット銃の発明をいち早く活用して散兵戦を編み出し、軍事革命の先端を突き進んだことにも比肩される、それ以来の軍事分野における一大革命であると称される所以もここに存在するのである。
イ.ドクトリン等の見直し
さらにNetwork Centric Warfareは、対テロ・ゲリラ戦にはきわめて有効であることを指摘したい。すなわち、攻撃側のテロ・ゲリラ同士が、移動型のネットで連携を保持しつつ作戦を敢行することは技術的に極めて困難であるが、他方防御側は、意志さえあれば自国に対テロ・ゲリラ戦用ネットをあらかじめ構築し、これによって連携を確保することが出来るし、情報を各隊員に配布するとともに、一隊員が獲得した情報を他隊員に周知徹底することも可能である。そして、指令センターのひとつの意志でテロ・ゲリラ掃討戦を遂行することが出来る。このように、例えばPHS機能を利用した対テロ・ゲリラ用ネットをあらかじめしかるべき区域に構成することが出来れば、警察、海保、消防、軍隊の連携についても意思さえあれば可能であり、現代の脅威に対応するためには最も有効な手段になる。対テロ・ゲリラ戦用ネットを構築することによって“情報の優越”及び“指揮・統制上の優越”を確保することは、防御側の利点を生かす最良の施策であることに注意を喚起したいところである。
以上述べたような戦闘を実施するためには、ドクトリンを含む運用原則の見直し、戦術・戦法の見直し、教範類の書き直し、ROE(Rule of Engagement)の新たな設定等、教育・訓練関係のすべての見直しが必要となることは言うまでもないところである。すなわち、Network Centric Warfareは、戦争の性格から国家としての安全保障戦略及び軍事戦略、軍事力運用の基本となるドクトリン、防衛力整備及び自衛隊の編制・組織のあり方、戦術・戦法、教育・訓練、研究開発の方向、特に指揮統制組織及び情報組織のあり方、さらには民間防衛、民間関連企業を含む国家としての研究開発のあり方等について抜本的な改革を伴うものであるということであり、これが正しく軍事革命なのであると考えなければならないであろう。
おわりに
しかしここでひとつ、十分配慮しなければならないことがある。それは“軍事革命が過去の全ての装備、ドクトリン、戦法等を駆逐するというものではない”ということである。かつてミサイルが出現したときに、これで戦闘機時代は終わったと誤って早合点して主張した戦術家が、数多く輩出したことを想起してほしい。軍事革命がもたらす意味と限界を厳密に理解することが肝要である所以もここに存在する。軍隊とは、旧式も含めて最新の技術までを取り込んだ装備を追求する、金のかかる代物なのである。
さらに米陸軍といえども陸軍のトランスフォーメーションについては、大変な困難に直面していると言われている。その理由は、他ならぬIT分野におけるユビキタス化が未だに達成されていないからであり、ウエラブル・コンピュータとかモバイル・コンピュータ等の更なる発展が必要であるからである。陸軍が目標としている歩兵のコンピューター化、すなわち、『Land Warrior構想』の達成のためには、民間でのユビキタス社会の到来とともに進捗するITの更なる革新が不可欠であるということを銘記する必要があろう。
http://www.drc-jpn.org/AR-8/okamoto-04j.htm