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三重県の長良川河口堰(かこうぜき)が23日、使い始めて10年になる。
鵜飼(うか)いで知られる長良川は、大河川では珍しく本流にダムがない。「清流を守れ」と全国から反対の声が上がったが、当時の建設省が建設を強行した。
結果はどうだろう。特産のヤマトシジミが取れた堰の周りは流れを遮られ、泥がたまっている。せき止めた水の利用はごく一部だけだ。国土交通省は「渇水の時などに役立つ」というが、1800億円を投じるほどのことだったのか。
この10年を振り返ると、事前の説明とは異なることが次々に起きた。
水質悪化の目安となる植物プランクトンの量は、当初の予想を大きく超える。シジミは放流しても大半が死んだ。漁民は数年で放流をやめた。アユの漁獲量は半分以下になってしまった。
「水質の変化は想定の範囲内。漁民には補償金を払っている」という国交省の説明は、強弁としか聞こえない。
せっかく大量に取れるようにした水のうち、使っているのは1割だけだ。それも水道用に限られ、工業用水には全く使われていない。「この地域が発展したら必要になる」と説明されていたが、10年たっても、買い手は現れなかった。
建設費のうち900億円は愛知、三重両県と名古屋市が23年ローンで支払う。しかし、工業用水が売れないため、一般会計の一部をローンの返済に回した。水道料金も上げざるをえなくなった。
もともと10キロ上流に、土砂が川底にたまった自然の堰があり、海水がさかのぼって田畑にしみこむことを防いでいた。だが、洪水の時には、じゃまになる。自然の堰を壊し、代わりに造ったのが、ゲートを開閉できる河口堰だった。
しかし、洪水と塩害を防ぐのなら、他に方法はあった。自然の堰をいじらずに堤防をかさ上げしてもよかった。自然堰を壊しても、その近くで塩害対策を講じればよかった。
結局、水を大量に使っていた60年代の計画にこだわりすぎたのだ。古びた計画を80年代に強行し、そのツケがいま回ってきている。
長良川河口堰で批判された後、国は河川法を改めた。住民の参加や環境の保全を唱え、ダムの建設を中止し、川の蛇行も復元している。できるだけ自然をありのまま残そうというのだ。
そうしたことは原点の長良川でこそ取り組むべきだ。まずはアユが川を上る春や下る秋にゲートを一部でも開けてみてはどうか。海水が上らない範囲なら、今すぐできる。
上流からの川の水と海水が混じり合う河口は魚や貝、野鳥の宝庫だった。
ゲートを開け、堰の上流に海水を入れれば、それを一部でも回復できる。取水口を上流に移せば、利水への影響も少ない。ダムと違い、堰はゲートを機動的に動かせる。その機能を生かすべきだ。
この惨状をできるだけ回復する。それは国交省の責任である。