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逆光線
女の肌に風景は鏡のように映っていた。
故郷の駅から小学校の方向へと歩いていった。
ところどころの玄関に盆の提灯が吊られている。
恵子の家はなかった・・・恵子は小学校の同級生で隣に座っていた・・・
初恋の人だった・・・
そこには【みんと】という店ができていた。
店に入る。
店はお好み焼きを主軸にしたお酒を飲ませる店でもあった。
三角錐の天井が高い大きな店だった。
200円のトマトジュースを注文した。
しばらく冷房に涼んだ。
ジュースを飲み干し、料金を支払いとき
マスターに聞いた・・・
「昔、ここにあった家に住んでいた恵子さんを知りませんか・・・」
「ああ・・・親戚です・・・もう20年も会っていません・・・」
マスターは答える。
「恵子さんは生きているんですか・・・」
聞いてみた。
「ええ・・・生きていますよ」
マスターが答えてくれた。
マスターには何を聞くのかという不信の光が瞳にあった・・・
恵子さんの父は5・6年前に亡くなったという・・・
店を出て商店街を歩く・・・
人は誰も歩いていなかった・・・
廃墟となった店がいくつもあった・・・
恵子さんの家は、親戚どおしの財産分捕り戦争があったのかもしれない・・・
それで恵子さんの家は壊されたのかもしれない・・・
解体され更地になった場所に・・・あの店ができたのかもしれない・・・
そう推測しながら、ゴーストタウンのような商店街を突き抜けて、公園にいった。
公園も昔の面影はなく、造成につぐ造成がされていた・・・
土建造成の実験場こそ故郷の壊れた風景だった・・・
家も土地もない人々は追い出されていったと故郷の老人が公園でつぶやいた・・・
故郷は家と土地を持つ人々の町へと変形していた・・・
いまの自分には何もない・・・
あるのは記憶だけだった・・・
真夏だというのに変貌した故郷の光景は冷たかった・・・
自分はまるで異邦人だった・・・
公園で老人がすすめる日本酒を飲んだ・・・
お茶の飲料缶に日本酒をそそぎこんだワンカップだった。
暖かい人に出会うことができて嬉しかった。
公園で故郷の風を感じた・・・
気持ちがよかった・・・
樹木と風は昔のわたしを知っているのか・・・
異邦人となったわたしを歓迎してくれるのか・・・風と樹木の葉たちよ・・・
公園の老人と別れを告げ、また再び町へと歩いていった・・・
壊れた風景そして変貌した光景・・・
優しかった時代は20世紀とともに終わったと・・・そう思った・・・
真夏・・・故郷の町を歩くわたしは、敗戦後、同級生の生死を訪ねて歩く
満州から帰還した兵士のように思えてきた。
2015年体制へと出発した8月の原点、2005逆光線からの報告