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(回答先: ぷち姉さん,こちらに移りました. 投稿者 馬場英治 日時 2005 年 8 月 06 日 02:10:58)
ぷち姉さま,ただいま.
お約束通り国会議事堂前まで出向いて,小泉売国政権の末路を見届けてきました.
2005年8月8日郵政民営化法案参院採択の当日,私はかなり早朝に目覚めてネッ
ト情報の収集を始めました.ひょっとしたら廃案・流会ないし継続審議などということ
もあり得るかと思ったからです.しかし,この流れはもう誰の力をもってしても止める
ことのできない怒涛の勢いに乗っていました.典型的であったのは半兵衛氏が活写
された風見鶏の異名を取る中曽根大臣の抜け駆けの一場です.
私は「除菌ができる台所用洗剤ジョイ」をすでに切らしてしまっていたので,「センイ
の先までやわらかく」と謳ったハミング(これは昔のまともな暮らしがあった頃の遺品
です)を流しの下に見つけて,ボディを2度洗いし,念入りにシャワーしました.ぷち姉
のご忠告に従って鏡でチェックするとランニングに薄いしみがあるのを見つけてしま
ったので,已むなく黒のランニングに切り替えました.私は父から「男が外に出るとき
は,七人の敵がいると思え.ゆえに身に着けた肌着で恥を掻くことのないよう,心せ
よ」と教えられています.とは言え子どもの目から見ても親父はただのお人好しの田
舎教師に過ぎず,七人の敵などとはおおげさな,と半信半疑に聞いていましたが.
モーパッサンの短編に出てくるような,裾をかがった一張羅の擦り切れたスーツに
袖を通し(このスーツの各所が男手で補修されているという事実は私と近所のクリー
ニング屋のおばさん以外誰も知らない最高機密です)ネスカフェを薄く立ててシュリ
ンクした帯行容器(500CCのペットボトルに熱湯をかけてシュリンクしたもの,列車
の窓枠に置くと底が丸くなっているので,ゆらゆら揺れたりしておもしろい)に詰めて
ポケットに押し込むとF駅目指して飛び出してゆきました.
私はためらいなく入線してきた特急に飛び乗りました.上野までの特急料金九百な
んぼが私にとってどれほどのぜいたくに当たるかは,姉にもご察しがつくと思います.
喫煙が許される特急自由席のリクライニングシートにもたれて,私は今日一日をあ
の若かりし日の私の恋人ボニィと一緒に過ごそうと決めました.私は全共闘運動に
はほとんど直接の関わりを持っていませんが,彼女は私と別れた後,T女子大の自
治会委員長に立候補し,全学ストの先頭に立ったと風のうわさに聞きました.彼女
はねんねぇでどこから見てもそんなタイプじゃなかったので,胸が傷みました...
よく知っているつもりの上野駅で私は始めてお上りさんのように迷ってしまいました.
ともかく人の流れに沿ってまっすぐ進むとようやく見慣れたと言ってもまったく様変わ
りしたホールに出ました.ホールは人の波で渦巻いていましたが,中心線上に2人の
男が立っていました.一人はデブで一人はノッポです.デブの方はケータイに向かっ
て何やらわめいていました.ノッポは竹馬に乗っているのではないかと思うほど脚の
長いハンサムボーイで前方を見据えて股を広げスックと仁王立ちしていました.私は
思わずその股の下を潜ってゆこうかと思ったくらいです.10米ほど進んでから,Uタ
ーンしてその地点に戻ると,すでにそのデブとノッポ2人組の姿はありません.
地下鉄丸の内線に乗り換えて国会議事堂前で降りました.乗降客はかなりありまし
たが,地下通路2番出口に向かう人影はありませんでした.長く薄暗い階段に私の
靴音だけがコツコツと木霊します.外は明るい8月の日差しがあふれ,空からせみ
時雨が振ってきました.機動隊の車両を1台だけ見ましたが,普段の警備状況から
すると格段に手薄になっています.ジュラルミンの盾は一枚も見当たりませんでした.
猫の子一匹通らない沈んだ猟師町の雰囲気です.私は2,3年前,数学の海外論文
を探して国会図書館に通っていたことがあるので,このあたりの警備状況はよく知っ
ています.そのころは大型バスを改造した右翼の街宣車が走り回り,衆議院議員会
館の前は人や旗で埋め尽くされ,歩道には双眼鏡を持った男たちが右往左往して
いました.阿修羅の常連木村愛二さんがお店を広げているのを見たこともあります.
予想外なことに正門前には報道陣の姿は見当たらず,わずかにTBSの腕章をつけ
た5,6人ほどの若いクルーが信号機のあたりでしょぼしょぼとカメラを回していまし
た.そのうちの一人に「もう票決は出たんですか?」と訊ねると,一言「否決です」と
の答.その中にどっかで見たことのあるような女の子が一人いて,議事堂を背にカメ
ラの方に向き直り前傾すると急に表情も改まって,一語一語区切るように力を込め
「たった今・参議院本会議で・郵政民営化法案が・否決されました」と吹き込みました.
これは実況中継ではなく,ビデオ録画です.何度も何度もこれを反復していましたが,
やっているうちどんどん下手になってゆくようです.結局,この歴史的瞬間をまさにそ
の瞬間の映像として切り取ることのできた報道は存在しなかったのでしょう.私がそ
の場を離れると,クルーも釣られたように歩き始めてどこかへ消えてしまいました.
それにしても報道の現場はこんなに若いヒヨッコたちにまかされていたんですね.
このようは報道の状況をどう受け止めますか?一見するとおそるべき退廃・鈍感さ
の表れのようにも見えますが,私はむしろこの事態がマスコミに与えた衝撃の「深さ」
として受け止めています.
信号を渡ると,国会前庭と呼ばれるかなり広い庭園があります.私はそれを過ぎた
ところに尾崎憲政記念館を見つけてそれに付属しているレストラン霞会館に入り,
窓際の席を取りました.私の他には客は一人もいません.ホールに出ているのは定
式通り吊りバンドで蝶ネクタイという出で立ちの年配者一人です.テーブルにはもち
ろんテーブルカバーがかかっています.私は運ばれたビール中ビンを空けて一人祝
杯を挙げました.厨房には何人いるのかよく見えませんが,お客が一人も入ってい
ないのにやけに忙しそうに立ち働きしています.「ここでは国会に仕出しすることもあ
るのですか?たとえば弁当など」と支配人に尋ねると,「国会内には小さいレストラン
がたくさんあって,ここから出すことはほとんどない」とのこと,まれにオードブルなど
の特注があることもあるとは言ってましたが.このレストランではカレー535円?と
いう値付けですから,議員先生方のお口には合わなかったかもしれませんね.
後から一組,やややつれ気味のポパイとオリーブみたいなカップルが反対側のドア
から入ってきました.2人ともTシャツとジーンズのようなカジュアルなスタイルですが,
もしかすると私と似たような動機でやってきたのかもしれません.すぐ隣に座ったの
で,話かけることも可能でしたが,私は私で飲んでいました.グラスを空けて外に出
ると雨粒が何滴か落ちてきました.見上げると薄い雲の上には青空が広がっていま
したから,お天気雨のようです.実際,数歩も歩く間もなく,またまたじりじりする日射
に変わりました.そのとき私の隣にはボニィがいて,私と肩を並べて歩いていたので
すから,ボニィの涙が私の頬に落ちたのも不思議はありません.
どうもこのペースでは中々ハンバーグにありつくところまで行き着けそうもありませ
ん.この一日もとても長い一日だったので,稿を改めて書き継ぐことにします.