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(回答先: Re: 私の意味はネット上での事です。 ネット上では情報が限られている為、精神分析は危険である。 投稿者 Ama 日時 2005 年 6 月 26 日 14:59:24)
>依頼もしていないのに、勝手に分析する行為がそもそもやりすぎであり、やった方の精神を私は疑います。
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筒井康隆 私設博物誌より抜粋 p9〜p14 イボイノシシ
この凶悪な面がまえをしたイボイノシシは、英名をワートホッグ(Wort-hog)という。
Wortにはコブという意味もあり、動物学者の父の意見では、コブイノシシというほうが正確ではないかということである。
こいつを最初に見たのは、戦後もだいぶ経ってからである。
どこの動物園でお眼にかかったのか、たしかな記憶がない。
上野動物園か、天王寺動物園のどちらかであろう。
閉園まぎわだったため、見物人はもうほとんどいなかった。
イボイノシシは比較的大きな獣舎に入れられ、ぼくが前を通りかかった時はたまたま金網のすぐ近くまで出てきていて、餌をあさるでもなく、横たわるでもなく、ただ一匹、ぼんやりした様子で佇んでいた。
肩高五、六○センチほどのからだには似合わぬ大きな顔をしていて、その縦長の顔にコブだかイボだかをぽかりぽかりくっつけた、見るからに憎にくしいやつである。
「でかい顔、してやがるなあ」
そんなことをつぶやきながらぼくは顔をあげ、金網にくくりつけてある注意書きの札を読んだ。
『臆病な動物ですから、おどかさないでください』
外見からは、ちょっと信じられなかった。
「へええ、こいつ、臆病なのか」
ぼくはあたりを見まわした。
見物人は遠くにいる二、三人だけである。
手摺から身を乗り出し、ぽんと手を叩くと同時に、思いきり大きな声でぼくはワッと叫んだ。
イボイノシシは、へたへたと腰を抜かした。
一瞬、さっと顔色が蒼白になったようだったが、これはぼくの気のせいであろう。
四肢の力が抜けたらしく、くたくたくた、という感じでその場にはいつくばってしまったのである。
それほど極端な反応を示すとは思っていなかったので、むしろこちらが驚き、ははあこれはこれはと思いながら見ていると、彼はやがて後肢だけをまっすぐにし、つまり尻を勃立てた姿勢で、前肢だけはあいかわらず手前の方に折り曲げたまま、がくがく身をゆすりながら方向転換して、地べたを這うようにぼくから遠ざかっていった。
−中略−
人間には理想我というものがある。
他人を威圧できる人間になりたいと思っていると、次第に威圧的な顔つきになってくるし、危険人物だと思われたい願望があると、知らず知らずのうちに凶悪な顔つきになってくる。
これはたとえば外面如菩薩内心如夜叉の女性とか、腹黒いやつがしばしばほとけ顔とか、えびす顔とかをしているのと似ているように思えるが、こちらは理想我ではなく、どちらかといえば、自分の利益のためにそういう顔をしているわけであって、動物であればむしろ擬態に相当する。
威圧的な、あるいは凶悪な顔というのは、内側のもろさをかくすための一種の甲羅とか殻とかである場合が多い。
見かけは柔弱に見える人物が、意外に芯があったりするのと、この場合は逆である。
−中略−
社長室でふんぞり返り、満面に朱をそそいだ鬼のような顔で相手を睨みつけ、最高級仕立ての背広に包まれた巨体でもって威圧し、割れんばかりの大声で部下を怒鳴りつけてる人間は、そういった局面にいること自体がすでに腰をぬかす寸前にあるといえないだろうか。
表面の固い甲羅とか殻とかが破れた時、中に温存されていた臆病さがいちどに噴き出すのではないか。
嘘と思ったら、いちど試してみればよろしい。
こういう人物に近づいていき、耳もとで手をぱちんと打ちならし、ワッと叫ぶのだ。
彼はたちまち顔を白くし、へたへたと腰を抜かして大きな椅子から落ち、デスクの向こうへはいつくばり、がくがくと身をふるわせながら、豪勢なカーペットの上を這うようにして、前肢だけを手前の方へ折り曲げたまま、よたよたと・・・・。
http://www.asyura2.com/0505/idletalk13/msg/217.html
http://www.asyura2.com/0502/kanri8/msg/699.html