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寺島実郎氏の‘発言’より
http://www.asyura2.com/0505/holocaust2/msg/262.html
投稿者 はてな? 日時 2005 年 7 月 20 日 18:40:02: Cgi16yXgIem4U
 

NHK政治討論では視聴者から見て左(翼?)に座し、右(翼?)に必ずといってよいほどに政府関係者と並んで席を占める森本敏氏を完膚なきまでにうちのめしてくれる頼もしい論客は以下のようにホロコーストを語っています。70年代始めのイラン石油プロジェクトをきっかけに、テルアビブで学んだ事もある氏のホロコースト視点は以前から大変知りたく思っていました。600万という数字が引用されているのは勉強不足のゆえなのか?
以下発言より
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寺島実郎の‘発言’

http://mitsui.mgssi.com/terashima/0409.html
世界 2004年9月号 連載「脳力のレッスン」
人は何故かくも残忍で無神経なのか
 人間は自分達が味わい尽くした悲劇を平然と他者に強制するほど残酷で無神経な存在なのであろうか。イスラエルが建設を強行している西岸地域の分離壁の問題を考えると暗然となる。テロ攻撃からイスラエルの安全を確保するために総延長700キロの分離壁を建設するというもので、既に第一段階の西岸北西部145キロは完成済みである。壁の高さは8メートルで東西ベルリンを分断した壁の2倍、壁の両側に約50メートル幅の緩衝地帯を設け、高圧電流フェンス、塹壕、監視塔などを設置、これによりパレスチナは飛び地状に分断され、主権国家となったとしても、最小限度の統合力さえ欠くことになるであろう。
 イスラエルはガザ地区からのイスラエル軍の撤退や分離壁の外側に取り残される入植地からの撤退など一定の妥協をみせているが、客観的に判断して分離壁の建設が「パレスチナのゲットー化」「人種差別的隔離」であることは否定し難い。事実、国際司法裁判所も本年六月に「分離壁は違法」との判決を出しているのである。
 このパレスチナの生存権を実質的に否定する「囲い込み」を、かつて「ゲットー」の恐怖体験をしたユダヤ人が推し進め、それを「開かれた民主主義の国」を標榜してきた米国の政権が支持するという構図ほど、現代世界の問題を炙り出すものはない。イスラエルが「テロとの戦いに先制攻撃を」という姿勢は、9.11後の米国がブッシュ・ドクトリンとして掲げる政策のミニチュア版であり、皮肉にもイスラエルこそブッシュ政権の政策思想の実践者なのである。

アンネ・フランクの家
 オランダ・アムステルダムのアンネ・フランクの家を訪れたことがある。ナチスのユダヤ人隔離政策から逃れてドイツからオランダに移住していたアンネ・フランクの一家が、ドイツのオランダ侵攻を経てアムステルダムの運河に面した家の裏側の隠れ家に潜行したのは1942年7月であった。それからの2年間の息をのむような隠れ家での生活を少女の澄んだ目線で書き綴った「アンネの日記」は、結局はナチ強制収容所の露と消えた少女の運命への共感もあって世界中でベストセラーとなった。本箱で塞いでカムフラージュしていた隠れ家に続く回廊通り抜け、少女が生活した空間に身を置いた時、ここで必死に生きようとし、不条理な死を迎えた少女の無念に心が痛んだ。
 同じような心痛は幾つものホロコースト博物館を訪れた時にも感じたものである。600万人のユダヤ人を虐殺したナチの「ホロコースト」の記憶を風化させないために、ユダヤ人が思いを込めて実現してきた「ホローコースト博物館」の展示を、イスラエルで、ドイツで、そしてワシントンDCで見つめてきた。政治の狂気の犠牲となった人々の正視に耐えられないような展示を見て、「何故、人間はこれほど残忍な行為に陥るのか」を自問してきた。自らが信じる「正義」に陶酔した時、人間はそれを妨げる存在に限りなく敵愾心を抱き残虐になるということなのであろうか。
 自分に敵対し攻撃してくる存在はすべてテロリストとなる。かつて、ベトナムで「ベトコン」とはその思想性や主張と関係なく米国に敵対する者達であった。戦前の日本においても、中国に展開する日本に敵対する者は「便衣隊」でありテロリストであった。人間は身内の者や同胞がそれらの敵対者の犠牲にされると、なぜ自分達に攻撃がなされたのかを自省することよりも、無差別攻撃への憎しみが増幅され、報復の心理に吸い込まれていく。
 イスラエルではアンネと同じ十代のパレスチナの少女による自爆テロ攻撃も行なわれているという。そのことは過酷で不条理な運命に直面している何十人ものアンネをイスラエル自身が生み出しているということの裏返しでもある。愚かな殺戮の連鎖を止めなければならない。そして、中東和平の歴史的経緯からして、米国こそ事態を制御する責任を有するにもかかわらず、ブッシュ政権の米国はこの問題における仲介者としての足場を自ら放棄しているかに思われる。

「メンチ」について
 元々、米国は「トラウマとしてのユダヤ」とでもいうべき構図にはまりこんできた。人口比わずか3%程度のマイノリティーにすぎないユダヤ人が、全米ユダヤ協会、AIPAC(米イスラエル公共問題委員会)などのユダヤ団体が「ワシントン最強のロビング団体」の活動を通じて、政策に大きな影響を与え続けている。その結果が、過去30年間の米国の対外援助が軍事・経済ともに、1年の例外も無く中東の人口わずか600万人程度の小国イスラエルを第1位の援助対象国としてきたという事実である。
 伝統的にユダヤ系団体は民主党との関係が蜜とされ、クリントン政権の「親イスラエル路線」も目立っていたが、ブッシュ政権は屈折した形で、イスラエル支援勢力の影響を受けることとなった。「ネオコン・シニスト」とされる人達の政権中枢への浸透である。ブッシュ政権の中枢がチェイニー副大統領をはじめとしてラムズフェルド国防長官、ウォルフォヴィッツ国防副長官、ボルトン国務次官など「米国の掲げる価値(人権と民主主義)を圧倒的軍事力によって世界に実現すること」を希求する思考の持ち主によって占められていることは再三指摘され、それらの人達を総称して「ネオコン」(新保守派)という傾向がある。しかし、「ネオコン」とは源流を辿れば、ユダヤ系の急進社会主義にあり、拠点ともいえるワシントンのシンクタンクたるAEI(アメリカ・エンタープライズ研究所)を創ったユダヤ系の長老アービン・クリストルが語るごとく、70年代の「ベトナム」や「公民権運動」に揺らぐアメリカに失望した反共リベラリズムが形を変えて「力によるアメリカの理想の実現に向けての国際干渉主義」に転じていった過程が確認できる。そして、その思想の担い手の一人となったユダヤ系リチャード・パール(ブッシュ政権の前国防政策諮問委員会議長)のごとく、「中東における唯一の民主主義国イスラエルに良いことはアメリカにも良いことだ」という考えに立って、冷戦後のアメリカにとっての仮想敵をアラブ・イスラムとする政策へとアメリカを誘導していった。
 9.11後のテロに脅え逆上するアメリカは、ネオコン・シオニズムにとって自己目的を実現する格好の舞台となり、ブッシュ政権は「イスラエルにとって望ましい戦争たるイラク攻撃」へと突き進んでいった。そして、イスラエルに構築されていく隔離壁を当惑して眺めながら、それを支持せざるをえないパラダイムにはまり込んでいるのである。
 ニューヨークに生活していた頃、ユダヤ人の友人からユダヤ人がよく使う「メンチ」(MENSCH)という語があることを教えられた。一角の人物という意味で、「自己抑制と人間性によって行動し、常に他者の気持ちと考え方に感受性を抱く人物」こそメンチだと説明された。歴史の中で故郷の地を失い、世界を放浪して辛酸をなめてきた民族の英知を思った。    
 テルアビブで面談した大物ジャーナリストの半生記に重なった。ロシアで育ったユダヤ人の彼は、家計の苦しさで高校進学をあきらめかけていた時の思い出を語ってくれた。学校の先生が、国の奨学金が出るよう努力すると言ってくれた話を父親に報告したところ、彼の父親は一張羅の毛皮のコートを売り飛ばし入学金を作ってくれたのだという。寒いロシアの冬をコートなしで黙々と働く父親の姿を見たとき、「真剣に勉強しよう」と心に誓ったのだと老ジャーナリストは涙ぐんだ。彼の時代への発言が他者への思いやりに満ちた筋道の通ったものであることの理由の一端を垣間見た思いだった。
 憎しみの連鎖を断ちメンチとして生きることは容易ではない。力への誘惑を自制することは難しいことである。日本人として、21世紀の国際社会への関りを考える時、「武力をもって紛争解決手段としない」という憲法理念の先進性を、メンチという言葉とともに噛み締めたい。

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