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新聞週間に考える
重み増す『権力監視』
自民党圧勝が政治の転換点となって、日本が激変する可能性が指摘されています。政権党の暴走を許さない監視役である報道機関の役割の重さを痛感します。
9・11総選挙戦とその開票結果は、四年前の9・11テロを契機に始まったアフガン戦争、それに続くイラク戦争をめぐる米国世論の熱狂を思い出させました。
ブッシュ大統領は「新しい戦争」「テロとの戦い」という単純なキャッチフレーズで戦争に突き進みました。それを批判したテレビのニュースキャスターには視聴者の非難が殺到し、戦争に反対した地方紙記者二人が読者の圧力で解雇されるなど、米国は戦争一色に染まりました。
■共通点は首相への忠誠
日本では、小泉純一郎首相の「改革を止めるな」という決めぜりふで改革の中身を問う声はかき消されました。時の権力者に逆らい異論を唱えた政治家の多くは、“刺客”を送られて政治生命を奪われました。
かくして国会には、テレビ映りがよくて話題性はあるものの、政治的な見識や能力はまったく未知数の新人議員が多数登場しました。なかには複数の政党の候補者募集に応募した経験があり、政治的に無節操と言われても仕方ない人もいます。彼ら彼女らの共通点は小泉首相に対する忠誠心です。
太平洋戦争が始まって間もない一九四二(昭和十七)年、当時の東条英機首相の主導による選挙で出来上がった政治体制になぞらえて、「翼賛体制」と評する人がいるのもむべなるかなです。
こんな時にこそ、政治を見つめ社会を見渡して事実を伝え、歴史を振り返りながら警告もまじえ判断材料や選択肢を国民に提供する、ジャーナリズムの存在意義があります。情緒を伝え、感性に訴える傾向のある映像メディアと異なり、読者の理性に期待できる活字メディアの役割はとりわけ重大です。
■求められる課題の設定
新聞はカメラのようなものです。時代の動き、社会の実相をありのままに写し取るとともに、その底にある流れを敏感に感じ取って読者に指標を示します。
時代の流れが速まり、社会が複雑になると、新聞には「いま何が大事か」「何を判断、選ばなければならないか」と論点を示す課題設定が求められます。その役目を果たすにはレンズの解像力、フィルムの感度が高くなければなりません。
ここに反省材料があります。
イラク戦争開始後の三週間、米国にある六つのテレビネットワークのニュース番組で意見を述べた約千六百人のうち、戦争に反対したのはたった3%でした。民間のメディア監視団体FAIRの調査です。
ところが、調査会社、テレビ局による同じ時期の合同世論調査では国民の約30%が反対でした。この場合、ニュース番組が世論を正しく写し取れていなかったのです。
9・11選挙を報じた私たちのレンズとフィルムは与えられた使命を果たし得たでしょうか。読者の激励とおしかりの声を糧に、解像力、感度をさらに高める努力を重ねます。
「カメラを構えたら両目をしっかり開く。片目でファインダーの枠の中を、片目で枠の外をにらむ。そうしないと全体像をつかめない」−ベテラン報道カメラマンの戒めです。
昨今、権力を握る情報源の側の課題設定が巧みになりました。レンズの前で刺激が強く話題になりそうなパフォーマンスを繰り広げます。短く、単純な宣伝文句を連発して「これが核心だ」と国民に迫ります。
メディアはそれにつられて真相や事柄の本質を見失い、ファインダーの外側を見逃しがちです。見逃さずにきちんと報道しても、刺激の強さに惑わされた国民が、パフォーマンスのごまかしや偽りに気づかないことがあります。
小泉首相の「郵政改革国民投票」論はその典型でしょう。当選者の権限は郵政改革法案に限定されていません。憲法改正の発議だってできます。自民党を圧勝させた有権者はそこまで考えていたでしょうか。
現に改憲のための国民投票法案の議論が具体性を帯び、改憲の動きに拍車がかかりそうです。
決めぜりふはしばしば真実を隠します。現憲法を「押しつけ」と攻撃する人は、押しつけがなければどんな憲法になったか語りません。日本政府は天皇主権の明治憲法の部分修正ですまそうとしていたのです。
「改革」「規制緩和」のかけ声にかき消されそうですが、強者、弱者の格差がますます開く弱肉強食社会への懸念も聞かれます。この声も真剣に受け止めなければなりません。
■時には世論から離れて
報道の自由がなく、報道機関と国民が互いに共鳴し合って政府、軍部の後押しになってしまった結果が六十年前の敗戦でした。
ジャーナリズムは世論を離れては成り立ちませんが、それに同調すると危険なこともあると歴史が教えています。
世論の背景を掘り下げ、時には国民から一歩離れた位置に立つことも必要−これは私たちの自戒です。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sha/20051016/col_____sha_____001.shtml