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『新聞が面白くない理由』岩瀬達哉
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投稿者 外野 日時 2005 年 9 月 17 日 00:39:46: XZP4hFjFHTtWY
 

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『新聞が面白くない理由』岩瀬達哉著(単行本 (1998/06) 講談社) 「プロローグ」 から

「社会の木鐸」とは、言うまでもなく「新聞」の代名詞として使われている言葉である。
 世に警告を発し、社会を正しい方向に教え導くと解されている言葉だが、日本人にとって常識ともいえるこの言葉の意味も、外国人にはなかなか理解しがたいものがあるようだ。友人の米国人女性が、音を発するための道具(木鐸)が、なぜジャーナリズムを象徴する言葉として使われているのか、その由来がわからないとしきりに首を傾げていたからだ。この米国人女性、ローリー・フリーマン(カリフォルニア大学サンタバーバラ校助教授)は、日本のマスメディアを研究している少壮の学者で、だからこそ、「木鐸」の意味にこだわったのかもしれない。
 その彼女が、ある日、皮肉な笑いを浮かべながら、「木鐸」の意味がわかったと、わざわざ伝えにきたことがあった。それまで誰に聞いても、要領を得なかった彼女は、自分で漢和辞典を引き、そこに「むかし、法令をしくとき、木鐸を振り鳴らしてふれ歩いた」という説明を見つける。その瞬間、まさに日本の「新聞」を象徴している言葉だ、と膝を打ったという。
「だって、そうでしょう。日本の新聞は、政府や官公庁の発表をそのまま記事にしているだけじゃない。政府が知らしめたいことを書くんだから、文字どおり木鐸よね」
 外国人研究者として、「平河クラブ」(主に自民党取材を担当する記者クラブ)のオブザーバー会員でもあった彼女は、日本の「新聞」の実態をつぶさに観察し、「日本の新聞は、『読者の知る権利』に応えようとする姿勢に乏しい」との実感を得ていた。その思いと、「社会の木鐸」本来の意味が一致したことを面白がったのである。
 実際、日本の「新聞」は、紙面のほとんどが政府や官公庁などが発表する、”発表モノ”で埋め尽くされている。記者会見などで当局が配るニュースリリースをもとに、多少の周辺取材を加えたそれら”発表モノ”と呼ばれる記事については、元共同通信編集主幹の原寿雄氏も、自著『新聞記者の処世術』の中でこう述べている。
「日本中どこにも記者クラブが在って毎日、多くの発表や懇談会という名の非公式発表があり、そこから出るニュースが報道全体のほぼ九割を占めている。…私が編集局長の時、発表モノには印をつける運動を提唱してみたが、それでは一目瞭然、独自取材モノの少ないことがわかりすぎるとあって実現しなかった」
 このように、日本の「新聞」の紙面が”発表モノ”で埋め尽くされているのには理由がある。
 明治以来、上意下達のコミュニケーション手段として政府は「新聞」に政策や方針を説明し、「新聞」はそれらの情報を全国に、しかもスピーディーに拡散するという役目を担ってきた。すでに使い古された言葉だが、独立したジャーナリズムとして歩むことより、”官報化”することで、「新聞」は官庁情報を独占するとともに市場での存続を容易なものとしてきた。当然のこととして、”発表モノ”中心の紙面作りがなされることになる。 そして、この両者の関係を繋ぐパイプ役が「記者クラブ」であった(「記者クラブ」は、明治の頃、第二次大戦前、敗戦後でその性格に多少の変化が見られるが、基本機能はほとんど変わっていない)。
「記者クラブ」は、原則的に日本新聞協会に加盟している新聞社、通信社、テレビ局などによって組織される”業界団体”である。その業界団体が、政府や官庁などから、あらゆる情報をほぼ独占的に入手し得るのは、何か法的根拠があってのことではない。ひとえに「新聞」と公的機関との、明治以来の”相互依存関係”に支えられてのことである。
 当然のこととして、この世界に例を見ない、政府と「新聞」のもたれあいは欧米の記者の目には信じられない姿と映る。
 かつて、フランスの『ル・モンド』紙は、「強者にはうやうやしく弱者には無情な日本のプレスは、権力との曖昧な関係を維持している」うえ、「その激しい競争は、慎重さよりもむしろ、政財界勢力との暗黙の申し合わせに基づく自制と情報操作への加担に結びついている」(九三年十一月三日付)と、酷評したことがある。また、同じフランスの『リベラシオン』紙も、日本の新聞記者を、「ジャーナリストと、役所の広報課員との中間の位置にある」(九三年六月二十二日付)と揶揄している。
 …(中略)…
 このように「新聞」の報道とは、読者の期待に反して、監視すべさ相手のためにペンを振っていることのほうが多い。そしてそれは、「記者クラブ」によって育まれた取材先との”仲間意識”がなせるわざでもある。
 この「記者クラブ」の弊害は当の「新聞」内部からも、その問題性を指摘する声が上がりつつあるが、いずれの声も一面的で、事態を正確に把握しているとはいいがたい。それどころか、なかには問題点を具体的に指摘しながらも、結果的に現状維持を説くという姑息なものもある。
 例えば、日本新聞協会研究所「新聞報道研究会」の指摘がそれにあたる。同研究会は、『いま新聞を考える』という単行本の中で、「クラブ批判の中心となるのは閉鎖性である。クラブ員、加盟社だけで情報を独占し、中には談合まがいの黒板協定などで国民の知る権利まで侵しているという批判もある。批判には真摯に耳を傾けるべきだろうし、傾聴する意見もまた多い」
 と、「記者クラブ」が批判されるべき存在であることは認めている。しかし、それ以上、突っ込んで問題の本質を論じようとはしていないばかりか、「閉鎖的であっても現行のクラブ制度に長所がある事実も見逃すわけにはいかない」と主張する。この「長所」が、どのようなものであり、それがどう、「国民の知る権利」に役立っているかの納得いく十分な説明もせずに、ただ、「長所」があると主張するのは、既得権を守ろうとすることにほかならない。
 口先では「批判には真摯に耳を傾けるべき」といいながら、その実、批判を巧妙にかわそうとする「新聞」に、果たして未来はあるのだろうか。
「新聞」が、これからも読者に必要とされる存在であり続けるには、むしろ、「記者クラブ」が「新聞」に与えている弊害を取り除く努力を惜しまないことではないか。そして、国民の側に立って、公的機関を監視すべき「新聞」が公的機関と馴れ合っているという、本末転倒を是正することではないだろうか。
「国民の知る権利」が、「新聞」によってこれ以上侵害されないためにも、本書において「記者クラブ」のさまざまな問題を検証し、そのあるべき姿について考えてみたいと思う。同時に、紙面で言っていることと実際の姿が、あまりに乖離してしまっている「新聞」の不透明な経営実態についても、朝日新聞社を例に可能なかぎり解き明かしてみようとも思う。検証の相手として朝日新聞社を選んだのは、同社が「新聞」の雄として多大な影響力を有する言論報道機関だからだ。
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http://www5a.biglobe.ne.jp/~NKSUCKS/sinbunga.html

「新聞が面白くない理由」岩瀬達哉/ 97年

 タブーに真っ向から挑戦する姿勢はまさにジャーナリズムである。記者クラブにかかっているコストについてのデータは、非常に重みがある。官官接待と同じような額が、「官マスコミ接待」にも使われているという信じられない実態。この事実は、もっと知られねばならない。

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「新聞記者たちは取材の相手先である官公庁などから、年間、どれくらいの接待を受けているのだろうか。その実態をできるかぎり正確に把握するため、私は、中央官庁、都道府県庁、地方議会、経済団体など全国800ヶ所の公的団体(一部、空港ビルなどの民間企業も含む)にアンケート調査を実施することにした。アンケート票には、大きく2つの質問項目を設け、ひとつは、各公的機関の費用負担で『新聞』を接待したケースについて具体的な回答を求めた。そして、もうひとつは、飲み食い以外に『新聞』に対して行っている経済的便宜供与の内容について聞いている。この種のアンケート調査は、恐らく、過去に行われたことはなかったのだろう。…アンケート票を送付してから、最終的に536の調査票を回収するまで、まるまる半年(95年6月から12月まで)もの時間を要したが、それら調査票の中から、官公庁等の負担で、『新聞』との懇親会が行われたとある164のサンプルに限り、集計、分析作業を行うことにした(95年11月時点での有効回答数)。ちなみに、この164のサンプルのなかには、会費制で行われたものや記者側が一部費用を負担しているケースも含まれていたが、その場合は、記者側が負担した額をすべての主催者に問い合わせた上で、集計数字から外すことにした。また、主催者側の回答拒否などで記者負担分が判明しなかったものに関しても、無効回答として164のサンプルには入れていない。つまり、これから紹介する数字は、主催者側負担で賄われた『官マスコミ接待』の総額である。集計結果は、年間で約5000万円。アンケートで質問している過去3年間のトータルだと約1億5500万円にものぼる接待を、新聞記者たちは受けていたことになる。さらに、企業や農協、特殊法人などが負担した分を除き、純粋に税金だけで賄われた『官マスコミ接待』の額を弾いてみたが、数字はほとんど変わらず年平均で約4750万円。3年間の総額は約1億4240万円となった。これは、先に紹介した『全国市民オンブズマン連絡会議』が明らかにした『官官接待』の総額(約29億円)を、資料公開に応じた自治体数で割った、1自治体あたりの平均額(5800万円)に迫ろうとする数字である。『官官接待』報道において、懇談という名目の『接待』はけしからんと、こぶしを振りあげていた当の新聞記者たちの胃袋にも、実は同じように巨額の税金が消えていたわけである。」

「『有楽クラブ』では、『記者室』が広いのをいいことに専用の『麻雀ルーム』まで作っていたことがある。」

「欧米には、このようなジャーナリズムの独立性に疑問を抱かせる『記者クラブ』のようなシステムは存在しない。代わって、ジャーナリストならば誰でも、情報源への自由なアクセスを保障する制度を設けている国が多い。米国の『ホワイトハウス記者証』やフランスの『プレスカード』などは、その典型例であろう。『ホワイトハウス記者証』は、ホワイトハウスをはじめ各省庁への取材を可能とする記者登録証で、基本的にジャーナリストであれば差別なく発行される。登録にあたっては、米国財務省管轄下のシークレット・サービスで、身分や経歴などのチェックを受けなければならないが、テロリストやテロリズムとの関係が無ければ、まず記者証は発行される。日本のように、日本新聞協会加盟社の記者でなければ、『記者室』の使用ばかりか、記者会見などへの出席まで認めないという差別は行われていない。日本共産党機関紙『赤旗』の記者で、初代ワシントン特派員だった堀江則雄氏も、『厳重なセキュリティ・チェックをへて、4ヶ月で記者証を入手できた』ひとりだ。堀江氏は、その時の感激を、著書でこうあらわしている。『日本の各官庁から排除されている『赤旗』の記者が、ホワイトハウスで記者として初めて、公然と認められたのである。…ホワイトハウスの記者証が出ると、つづいて国務省のそれが、そして議会の記者証が上院のプレス・ギャラリーからすぐ発給された』『議会の記者証を手に入れると、上下両院のプレス・ギャラリーに自由に出入りできる。上下両院の本会議場を見下ろし、取材ができる3階に両院それぞれのプレス・ギャラリーがある。タイプライターとワープロが置いてあり、だれでも自由に利用できる。ところが、日本の国会記者クラブとは違う』(『もう1つのワシントン報道』)

フランスの『プレスカード』は、これとは少し趣きを異にしている。フランスの場合は、1935年に法律によってジャーナリストの身分が確立され、ジャーナリストならば等しく『ジャーナリスト最低賃金の設定、休暇制度、退職金金庫、失業保険金庫、税金の基礎控除(30パーセント)、鉄道運賃の半額など』の恩恵に浴している。そして、『ジャーナリストの定義は、フランスで発行される日刊紙、定期刊行物またはフランスの通信社でジャーナリストの仕事を常に、もしくは定期的に行い、報酬を得て、それを主な職業活動とし、その収入が主収入である者』としている。この定義にあてはまるジャーナリストであれば、『プレスカード』が発行されるが、その際、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどメディアの経営者と、ジャーナリストの代表が、ともに同数の委員を出している『プレスカード委員会』によって審査される。審査のポイントは、『本当にジャーナリストとして働いているかどうかという一点につき…ジャーナリストの能力、質、信条については一切判断を下さない』ことになっている(96年版『プレスカード委員会』のパンフレット)。米国の『ホワイトハウス記者証』にしろ、フランスの『プレスカード』にしろ、いずれも『国民の知る権利』を代行するジャーナリストに対し、公平に情報源へのアクセス権を保障しようとするものだ。日本の『新聞』のように、新聞協会加盟社だけでアクセス権ばかりか、官公庁などからの経済的便宜供与をも独占しようとするものではない。というより、そのような“利権化”を政府も社会も許していないという点において根本的に違っている。これらの事実を前に、再び、日本の『記者クラブ』の弊害に目を移してみたとき、それがいかに異常なものであるかがわかるのではないだろうか。」

「その巨額な試算経費は、しかし、それでも各種の便宜供与をできる限り低く見積もってのものである。たとえば、机、椅子といった什器備品類は定価の半額で計算。また、クラブ担当職員の給与なども、実際の給与額が記載されていたケースは別にして、試算する場合、勤続年数とは関係なく、一律、各公的機関の初任給で計算している。つまり、勤続10年の職員であっても1年目の職員給与で計算した。家賃にしても、当該公共機関の周辺オフィスビルの賃料(預託金を含む)だけで試算し、通常、家賃の10%〜15%といわれる水道光熱費や管理費等は含んでいない。こうした試算結果は、什器備品類の総額が3億2556万円。クラブ担当職員の人件費や記者室の賃料、提供を受けている電話やファックスの料金などのトータルが107億5203万円となった。つまり総額110億7760万円ものクラブ運営費が税金等で肩代わりされていたわけである。これを全国紙一社あたりで見ると、約5億3000万円という具体的数字となってあらわれてくる(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の3社平均額)。…かりに、このクラブ運営費を新聞各社が、すべて自前で負担したとしても、これは初年度にかかる経費の試算額でしかない。2年目以降も、膨大な経費負担が待っている。翌年からは 、什器備品類の費用や賃料に含まれている預託金こそなくなるが、それでも毎年約53億円近くの維持コストが必要となり、1社あたり3億円近い負担は免れない。しかも、アンケートの回収率が66%なのだから、実際にはこの試算額のほぼ1・5倍近い経費負担を強いられることになる。これらの経費を、新聞は、過去一度として自らの負担とすることはなかった。企業体として、当然の必要経費でありながら、その負担を取材の相手先にまかせてきたわけである。」


「表1 記者クラブへの便宜・利益供与調査 11077608964円」

「表2大手新聞社が各公的取材機関から受けている便宜・利益供与の試算総額

 朝日550339652

 毎日537605733

 読売555091769

 日経377849996

「『株式の譲渡制限』というのは、商法上の特例規定によって、新聞社の株式を保有できる者を『その株式会社の事業に関係のある者であって取締役会が承認した者に限る』と定めたものだ。」

「租税特別措置の方も、取材費が課税対象の交際費から除かれているだけでなく、用紙の輸入関税がいっさいかからない(一般の印刷用紙は、用紙の種類によって差はあるが、約4・6〜5・3パーセントの関税がかけられている)。」
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