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虚偽報道 朝日新聞が問われている
相手に会っていないのに、一問一答の取材メモをでっち上げる。そのメモをもとに記事が出来上がる。報道に携わる者にとって決して許されないことが朝日新聞で起きてしまった。
新党結成について亀井静香元自民党政調会長と田中康夫長野県知事が会ったという情報があり、政治部から取材を依頼された長野総局の記者が、田中知事から話を聞いたかのように虚偽のメモをつくり、政治部記者にメールで送った。
政治部記者は虚偽と分からないまま、メモを引用して記事にしてしまった。
田中知事、亀井氏に大きな迷惑をかけてしまった。何よりも読者の信頼を裏切る結果になった。悔やんでも悔やみきれない不祥事である。
長野総局の記者は、田中知事が出席する集会の後で個別に取材しようと出かけたが、集会が終わる前に引き揚げた。
取材できずに戻ったことを「負い目に思った」という。メモについては「功名心だったかもしれない」と話している。
虚報という結果が、どれほど深刻な事態をもたらすか。普通なら、だれしも分かることである。
しかし、この信じられないような出来事は、1人の若い記者に魔がさしたといって済むことではない。記者をそんな心理にさせたものは何だったのか。取材をチェックする仕組みをどうつくるか。問われているのは、そうしたことを含めた朝日新聞の組織や体質だと思う。
朝日新聞では89年に、写真部員が沖縄・西表島で自ら傷をつけたサンゴを撮影した。写真部員と本社は法律違反の疑いで書類送検され、社長は辞任した。
このサンゴ事件で朝日新聞は出直しを誓う一方、紙面審議会を設け、紙面や取材の仕方について識者の意見を聞くことにした。読者や取材先の声に広く耳を傾けるため、読者広報室もつくった。
しかし、5年前には広島支局(現、総局)の記者が中国新聞の記事を盗用するという事件が起きた。当時の大阪本社編集局長は職を解かれた後、全国の地方取材網を回り、現場取材の重視などの再発防止策をまとめた。
それからいくらもたたないうちに、今回の虚偽取材メモである。
最近では、取材録音を第三者に渡した不祥事、週刊朝日への武富士からの5千万円の資金提供、NHK幹部らを取材した社内資料の流出問題なども重なった。
これらの問題は一つひとつ性格も原因も違う。しかし、こうも続いて起こると、何か構造的な問題があるのではないかと感じざるをえない。
このくらいならという気のゆるみやおごり。社内外での競争がもたらす重圧や焦り。朝日新聞という伝統と看板がかえって組織の病を生んではいないか。
こうしたことにきちんと目を向けて、病弊を根本から取り除く。日々の取材や紙面づくりで地道に努力する。それしか読者の信頼を取り戻す道はない。
あらためて、そう誓いたい。
http://www.asahi.com/paper/editorial20050831.html