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乾燥はお肌・・・以上に創傷治癒の大敵−
真皮の唯一の弱点,それが乾燥だ。乾燥させると真皮はすぐに死んでしまう。 そして同時に・・・「真皮の中にある表皮」である毛穴も汗管も死んでしう。 そして,死んだものはもう生き返らない。 ということは,表皮欠損創(すりむき傷や熱傷)を乾燥させると傷は治らなくなってしまうのだ。当然の話である。つまり,「傷を乾かすと傷は治らない」のだ(「傷は治ると乾く」・・・というのが正しい)。 ここで「傷(表皮欠損創)にガーゼをあてる」という行為を考えてみよう。ガーゼ(あるいは家庭用の「キズ・バンソウコウ」も同じ)を傷にあてた場合,水分は完全にフーlリパスパスである。つまり,傷は乾き放題。
・・・ということは,皮膚欠損創をガーゼで覆うと,傷(つまり真皮)が乾き,創治癒(つまり表皮遊離による創治癒)はストップしてしまう。
「傷にガーゼをあてる」ことは,少なくとも表皮欠損創においては創治癒を妨害するもの以外の何者でもない,ということになる。 じゃあ,何で傷を覆ったら良いかという事になるが,その答えが各種の「創傷被覆材(ポリウレタン,ハイドロコロイド,アルギン酸塩,ハイドロポリマー,ハイドロファイバー,ハイドロジェルなど)」である。
すりむき傷がジクジクするのには意味がある
すりむき傷をほうっておくとジクジクしてくるのは皆,経験したことがあるだろう。膝小僧をすりむいたことがない人なんていないからね。
しかも傷口は次第に痛くなってくる。なんだか化膿しているみたいだ。こりゃ,ばい菌が入っただろうということで,消毒しガーゼをあてるのが普通だろう(家庭だとキズバンソウコウの類かな)。
これは外眼角部(目の外側)の挫傷の患者さんだが,他の病院で傷にガーゼをあてられている。ガーゼには浸出液(傷口のジクジク)が染みているのがわかると思う。
実はこの「ジクジク」は化膿しているのでも,ばい菌が入ったものでもない。これは傷を治そうとして体が頑張っている結果なのだ。
膝小僧をすりむいたり,包丁で指を切ったりすると傷口ではどんなことが起こっているのだろうか? ここでは実にダイナミックな現象が起きているのだ。大雑把に箇条書きにすると大体次のようになる。
血小板が集まってくる。
好中球やマクロファージが集まってくる。
線維芽細胞が集まってくる。
表皮細胞が傷の表面を覆う。
まず,すりむいたり切ったりすると血が流れることになる。こりゃまずい,ってんで血を固めるために血小板が最初に登場するわけだ。その後,死んだ細胞やばい菌なんかを除去するために好中球やマクロファージといった細胞が集まり,こういうのを食べ始める(貪食作用という)。そして傷口をくっつけようと線維芽細胞が集まり,最後に表皮細胞がやってきて傷口をふさぐわけだ。実に合理的である(実際はもっと複雑だけど,あえて簡略化しています)。 といっても,これらの細胞が集まるためには何かが呼び寄せているはずだが,その「呼び込み」をするものが「細胞成長因子(Growth Factor)」と呼ばれるものだ。
例えば,血小板は線維芽細胞や好中球を呼び寄せる成長因子を分泌するし,マクロファージが線維芽細胞を増殖させる成長因子を分泌し・・・という具合に,傷が治るために最善のタイミングで,いろんな種類の成長因子を分泌しながら傷を治すために頑張ってくれているわけだ。
と,ここまできて勘のいい人はわかったと思うが,傷口から「ジクジク」と分泌されているのは,実はこの「細胞成長因子」なのである。つまり,傷口を治そうと体が必死になって「ジクジク」させているのだ。これを「化膿しているんじゃない」とか「ばい菌が入ってジクジクしているんだ」なんて言ったら,バチが当たるのだ。
しかも,細胞の身になって考えるとわかると思うが,細胞が移動するにしろ,集まって何かの仕事をするにしろ,乾燥した状態は非常に辛い。要するに細胞にとって乾燥している状態というのは例えて言うと,「砂漠の中で水も食料もなしに移動しろ,仕事をしろ」と言われているようなものなのだ。
水も食料もなしに人間が砂漠で生存できないと同様,乾燥した状態ではどんな細胞も生きていける訳がない。
要するに「ジクジク」した状態というのは,傷口を治す細胞にとって最も働きやすい状態ということになる。というか,傷口に集まってきた細胞が,自分たちが最も働きやすい環境を作るために,いろんな物を分泌している,という風にも考えることができる。
傷口にガーゼを当ててはいけないと前に書いたが,この「ジクジクの正体」を知ると,傷にガーゼをあてることの危険性と愚かしさが見えてくる。
つまり,傷にガーゼをあてると,細胞君たちがせっせと作っている貴重な「細胞成長因子」をガーゼが吸い取り,蒸発させてしまうのだ。つまり,ガーゼは傷が治るのを妨害しているだけの存在だ。
すりむき傷をガーゼで覆うと,傷は治らなくなるのだ。「傷を治したくなかったらガーゼをあてろ」と言い換えてもいいだろう。すくなくともすりむき傷のような表皮欠損創にとって,ガーゼは百害あって一利なしと断言できる。要するにガーゼは創傷治癒にとって有害な存在でしかない。 じゃあ,傷は何で覆ったらいいのということになる訳だが,ここでも「創傷被覆材」が登場する。(2001/10/02)
ガーゼ考
というわけで,表皮欠損創(すりむき傷や熱傷,褥瘡など)をなぜガーゼで覆ってはいけないかという理由をまとめる。
創面を乾燥させることで,傷の治癒をストップさせてしまう。
創面から分泌される各種の「細胞成長因子」を吸い取って蒸発させ,細胞成長因子が創面に働くのを妨害している。
ガーゼの網目が傷に食い込み,ガーゼを剥がす時に出血する。そのため,治りかけた傷をさらに悪化させる。
ガーゼが傷にくっつくため,ガーゼ交換すると非常に痛い。
つまり,「表皮欠損創をガーゼで覆う」ことには全くメリットがないばかりか,むしろ患者さんに有形無形の損害・障害を与えていることになる。つまりこれは,医療の名前を借りた傷害行為なのである。
ガーゼが傷を覆う材料として一般化したのは,1870年代から80年代の頃とされている。それまでもさまざまな素材が使われてきたが,手に入りやすいこと,安価なこと,滅菌処理しても材質が劣化しないことなどから,ガーゼは不動の地位を占めることとなった。
現在でも,ほとんどの医療施設では「傷といえばガーゼ」であり,ガーゼ以外の「傷を覆うもの」はごく稀にしか使われていないと思う。
その原因の一つはやはり,ガーゼが極めて安価なことだろうし,それ以上に,「傷といえばガーゼ」という知識があまりに基本的なものであるため,大部分の医療人にとって,よもやそれが間違っているかも・・・という考えが浮かぶことが皆無なためだろうと思う。
ほとんどの医者,看護婦,そして患者にとって「傷にはガーゼ」は,「カレーに福神漬け」「刺身にワサビ」「スキーにストック」「ショパンにピアノ」「プッチーニにオペラ」・・・同様,不可分の存在であり,この組み合わせ以外のものがあるなんて考えられないのだ。要するに,医者や看護婦になったその日から「傷にはガーゼ」と教え込まれてきたため,その組み合わせが本当に理想的かどうかを考えることすらなかったのだ。
事実,130年間にわたり,真実と教えられてきたものを否定するには,多大なエネルギーを必要とする。
だが,過去130年間信じられてこようと,500年間にわたり真理と捉えられてこようと,間違いは間違いである。
最新の知見から,ガーゼという素材が創傷治癒にとって理想的な素材でもなく,かえってそれを妨害するだけということが明らかになった現在,もうそろそろガーゼに引導を渡す時期ではないだろうか? 間違いだったとわかったとき,それを捨て去るだけの知性を持つべきではないだろうか?
過去の知識に引きずられて,患者を苦しめることはもう止めにしてもいいのではないだろうか?
(2001/10/02)
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