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水道水アスベストの実態
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050920/mng_____tokuho__001.shtml
アスベスト(石綿)問題は、冷蔵庫やエアコンなどで石綿を使っている家庭用品を経済産業省が公表する事態となっている。健康へのその影響に対して国民の関心が高まる中、気になるのが水道水だ。石綿は水道管の原料としても使われていた。国は「水道水は問題ない」と太鼓判を押す。でも、直接、口に入れるものだけに、やはり気になる。実態を探った。 (星野 恵一)
一リットル中、二万三千本から十二万本−。少しデータは古いが、東京都立衛生研究所(現・東京都健康安全研究センター)が一九八八年に公表した、都内の一部の水道水に含まれる石綿繊維の数だ。調査は八七年、都内の九つの浄水場の水道原水と浄化後の浄水、そして石綿セメント水道管(以下、石綿管)を使った地域の水道水を対象にした。
調査を進めた背景を、報告書は「石綿繊維は建築材、自動車のブレーキ用摩擦材や水道管の一部に石綿セメント水道管として使用されており、環境由来による水道水汚染や石綿管からのはく離による給水栓水(水道水)の汚染が問題になる」と記している。
調査の結果だが、原水に含まれていた石綿繊維は最大二十五万本(一リットル中の数、以下同様)で、浄水は最大十一万本、水道水では最大十二万本。繊維の長さは最大で一〇・〇ミクロンだった。
問題は、原水にはわずかな繊維しか含まれていないのに、水道水で増加した地域があったことだ。三鷹市浄水場や羽村市浄水場では、原水ではほとんど含まれなかったが、水道水での濃度が上がっている。
■口に入れるものだけに…
水道水で濃度が高くなった理由について、調査は「石綿管からのはく離が示唆される」としながらも、「石綿管が明らかにはく離している確証は得られない」と断定を避けている。
旧衛生研究所は八八年にも島しょ地域や多摩地域で同様に調査した。この時は石綿繊維の数は、水道水では最大四万五千本、繊維の長さは最大で五・〇ミクロン未満。やはり、水道水の方が石綿濃度が上がった地域があった。
両年の調査で、検出された石綿は、毒性が低いとされる白石綿だった。
旧厚生省も同じ時期に水道水の調査を実施し、石綿繊維は一リットル中、最大三十七万本だった。が、調査個所は全国で三十カ所だけで、原水と水道水の比較はしておらず、調査地域も明かしていない。
都、国とも、その後、継続調査はしていない。
昭和女子大の元教授らが八六、八七年に都内で進めた調査では、最大で千八百万本との数字もある。
旧衛生研究所、国の調査では、石綿管からのはく離について断定を避けているが、昭和女子大の元教授らの調査では「水道管の使用年限や、その通過距離に関係があり、主因は管内のはく離によるものと考えられた」と指摘している。
石綿管は五〇年代後半から六〇年代後半にかけて主に使われた。石綿の健康被害が社会的に問題となったことから、八五年に生産が中止され、新たな敷設はしていない。今から約十年前の九四年には、都内の石綿管延長は、上水道で約五十キロメートル(水道管総延長の約1・9%)。全国では、八七年当時、石綿管は七万七千キロメートル(同18・2%)だった。その後、取り換えが進み、都内では今年三月末時点で約三十九キロメートル(同0・2%)、全国では〇三年で、約一万八千キロメートル(同3・2%)に減少している。
しかし、石綿管が残っているのも事実で、一番の関心は、健康への影響だ。
旧衛生研究所の調査は健康への影響に触れていなかったが、都水道局の担当者は「国が水道水中のアスベストについては『問題ない』としており、都としても問題ないレベルと考えている」と話す。
■飲んでも『問題ない』が…
「問題ない」という国の判断の根拠となっているのは、世界保健機関(WHO)が策定した飲料水の水質ガイドラインや、米国環境保護局(EPA)の基準だ。WHOのガイドラインでは、飲料水中の石綿について「健康影響の観点からガイドライン値を定める必要はないと結論できる」としている。EPAの基準は、動物実験による毒性データから、繊維の長さ一〇ミクロン以上で、一リットル中七百十万本以下となっている。
■口から摂取なら毒性かなり低い
国は、こうした基準や、八八年の調査も参考に、九二年の水道水基準の改正では、「石綿は呼吸器からの吸入に比べ、経口摂取に伴う毒性はきわめて小さく、水道水中の石綿の残存量は問題となるレベルにない」として、石綿の水質基準を設けなかった。
EPAの基準に比べれば、同センターや旧厚労省の調査結果で判明した石綿濃度はかなり低い値であったことは確かだ。
アスベストに詳しい専門家の一人は、「水道水中の石綿繊維は、国内では問題のある濃度は出ていないとされている。水道水や、石綿を含む食品を飲み込んで、その繊維が消化器系の臓器に突き刺さったという報告例も聞かない。高濃度のものを大量に飲み込み、長く体に滞留していれば影響があるかもしれないが、通常なら、飲み込んでも、体の外に出てしまうものの方が多いと思う」と、健康への影響はないと話す。
「静かな時限爆弾 アスベスト災害」などの著書がある東京女子大の広瀬弘忠教授は、こう分析する。
「旧都立衛生研究所の調査では、石綿濃度はかなり低い。米国の八三年の調査推計では、平均的な米国人が年間に口から摂取する石綿繊維は、食物で二十四億本から十四兆本、飲料で九十万本から四千億本とされる。国の調査をもとに、仮に一リットル中約四十万本の繊維が含まれていて、一日に二リットルの水道水を飲むとしても、年間摂取量は約三億本で、少ない。同センターや国の調査だけからみれば、調査対象となった水道水は危険とは言えない」
どうやら、国や同センターなどの調査結果ほどの濃度であれば、特段、問題はないようだ。
■不安につけ込み浄水器の販売も
ただ、広瀬氏は、「国の調査でも、全国的な石綿濃度の実態が分かっていないのが問題」と指摘した上で、こう警鐘を鳴らす。
「WHOは水道水中の石綿が健康障害を引き起こす証拠があがっていないことから、『健康上問題ない』とする一方で、水道水中の石綿の影響調査が困難で、費用がかかりすぎ、『これまできちんとした調査研究が行われなかった』という指摘もしている。明らかにされていないリスクには、よほど慎重でなければならないだろう。疫学的には、米国の石綿濃度の高い地域では、消化器系での発がん率が他地域に比べて高いという研究もある。国は全国的な石綿濃度の調査を継続的に続けるべきだ」
なお、石綿問題に絡めて、高額な浄水器の販売をする業者についての苦情や相談が、国民生活センターに複数寄せられている。何とぞ、ご注意を−。
【水中アスベスト繊維の調査結果】
=1987、88年当時
水道水中の 原水中の
採取場所 総本数/リットル 総本数/リットル
田無市浄水場 38000 15000
三鷹市浄水場 120000 7500未満
羽村市浄水場 85000 15000
昭島市浄水場 85000 77000
大島 45000 30000
利島 37500 7500未満
新島 45000 7500未満
小笠原(父島) 29500 7500未満
※旧東京都立衛生研究所調べ。調査対象となった17の調査地のうち、原水より、水道水の石綿濃度が高かった地域。
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