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「コアCPIがプラスに転じた際にチェックすべきもの」
「我々は、消費者物価指数がプラスの領域に入ったからといって、即条件が満たされたとして、現在の金融政策のフレームワークを変えようという想定に立っているわけではない。プラスの状況になった時に、改めて経済を良く見て、景気を下押しする圧力がどの程度強く、それが景気の持続的な回復を妨げるリスクになっているかを判断しなければならない。そして、物価についても、石油価格の上昇だけでプラスになったのかどうか、経済の実態として需給バランスの緩みが消えて、需給がタイト化する方向に向かい物価上昇の基底をなしているかどうか。さらに、物価押し上げの最大の要因であるユニット・レーバー・コスト(単位当りの労働コスト)が、次第に上昇していく状況になっているかどうか。そのようなところまでつぶさに点検した上で、デフレから脱却し逆戻りしないという状況判断をきちんとしていかなければならない。本当に消費者物価指数がプラスになった時点で、しっかりそれらを判断していくということだと思う。」
コアCPIがプラスになったからといって、量的緩和解除の条件が完全に満たされるわけではなく、まず、「景気を下押しする圧力」に注意すべきとしている。これは米国や中国の経済状況、そして原油価格上昇に伴う経済への影響などを示しているものと思われる。
「石油価格の上昇だけでプラスになったのかどうか」という点もチェックすべきだとしている。CPIの特殊要因の箔落後、CPIがプラスとなったとしても石油価格の上昇のみによるものとすれば、それは「需給がタイト化する方向に向かった上での物価上昇」とは言い切れず、安定的にゼロ以上という第2の条件を満たしているとは言い切れなくなる。
そして総裁は「物価押し上げの最大の要因であるユニット・レーバー・コスト」をチェックする必要性も説いている。なぜならば、CPIの上昇が阻害されていた大きな要因としては、CPI全体の半分近くを占めるサービス価格が上昇しなかったことが指摘されているためである。そのサービス価格は人件費の影響を強く受ける。つまり、生産物一単位当たりの人件費(ユニット・レーバー・コスト)をチェックする必要がある。
今回の日本の景気回復においては、米国や中国の景気回復の影響が強いとはいえ、根底には民間企業のリストラ策などによる体力強化がある。このため、景気回復の当初は企業のリストラなどに伴う生産性の向上や、パートなどの増加の影響で、労働コストの低下圧力となる。しかし、ある程度景気回復が本格化すると、雇用所得環境が改善に向かうことで、次第に労働コストも上昇し、それによってCPIが引き上げられる要因となる。そういった動きが見えるのかどうかを大きなチェック項目として置いているものと見られる。
ちなみに、日銀の武藤副総裁も6月23日の講演会で次のように述べている。
「原油価格をはじめとする内外商品市況の高騰が続いていますが、こうした原材料コストの上昇は、これまでのところ、生産性の上昇に比べて賃金が抑制されていること ―― すなわちユニットレーバーコスト(生産物一単位当たりの人件費)の低下 ―― によって、かなりの程度吸収されています。この間、創出された付加価値から人件費に配分された割合を示す労働分配率は、90年代初の水準にまで大きく低下しておりますが、多くの企業は、人件費を抑制する慎重なスタンスを崩していません。」
しかし、この環境も徐々にではあるが、改善されつつある。しかしそれが来年にかけて数字上でも表されるのか。日銀の量的緩和解除に向けては、そういったポイントも抑えておく必要がありそうである。
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