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監査法人 問われるもの (東京新聞)
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投稿者 彗星 日時 2005 年 9 月 22 日 12:23:49: HZN1pv7x5vK0M
 

特報
2005.09.22

監査法人 問われるもの

 カネボウの粉飾決算事件で、大手監査法人「中央青山監査法人」の幹部らが逮捕されたのを受け、日本公認会計士協会の藤沼亜起(つぐおき)会長は二十日、綱紀委員会の刷新などを打ち出した。企業の破綻(はたん)や粉飾決算の相次ぐ発覚で、監査への不信が強まる中、事件が業界に与えた衝撃は大きい。しかし、一方で“会計の番人”の構造的な危うさは以前から指摘されていた。問題点とは。

 「いつ、お縄になるかもしれないから、全財産を妻に贈与しておこうか」「でも、贈与したとたんに離婚されたりしてな」。司法試験と並ぶ難関を突破した知的エリート、と持ち上げられてきた公認会計士の間で今、こんなブラックジョークが飛び交っている。今回の事件は、エリートたちを自虐のどん底に突き落とすには十二分だったようだ。

 とはいえ、中央青山をかばう声は外部にもある。「所詮(しょせん)、クライアント(顧客)あっての監査法人。お金をくれる相手に厳しい監査なんか、元来、できない。社内資料ひとつ見せてもらうにも低姿勢なのだから。英国式に、国が監査法人に報酬を払って企業監査させるのが理想」「株主主権が浸透した米国と違い、日本は株の持ち合いで、株主と経営陣が一体。そもそも、厳しく監査しろとの声が、株主から上がらない」(ともに中堅の会計士)

 しかし、手厳しく批判する同業者も少なくない。「低姿勢? 冗談じゃない。トーマツなんか『そこまでやるか』という厳しい監査をやって、信頼を勝ち取ってきた。中央青山は、なあなあ体質から脱却しつつある経済界についてこられなかっただけ」と四大監査法人のOBは言い切る。

■責任は現場 体質も災い

 事件の背景に、中央青山の「社内カルチャー」あり、との見方もある。内部事情に詳しい会計士は「山一証券、足利銀行、ヤオハンジャパン。中央青山はカネボウ以前も、こんなに粉飾決算企業を担当していた」と指摘したうえで、「合併を繰り返して大きくなった中央青山は、派閥集合体みたいなもの。今、挙げた三社は全部、別派閥の担当だったが、どこかがしくじっても、他派閥は対岸の火事。全社一丸で改革する機運がなかった。首脳陣の意思決定も遅く、そのくせ不祥事の責任は現場に押しつける体質も災いした」と振り返る。

 会計事務所が今ほど巨大でなかったころ、大手顧客獲得は、個々の会計士の職人芸、営業手腕の見せどころだった。事務所が統合され、大手監査法人に巨大化する過程で、「××先生」といった大御所たちが、顧客を引き連れたまま監査法人トップの代表社員にのし上がった。

 「今は、大御所から弟子筋の会計士に代替わりしている最中。だからこそ、事件が起きたともいえる」と話すのは、ベテラン会計士だ。「大御所たちは顧客に直言でき、顧客も『××先生が言うなら』と従うこともあった。弟子は、それができない。顧客の言いなりになったのも当然の成り行き」と手厳しい。

 日本公認会計士協会によると、八月末現在、国内の公認会計士は一万六千二百七十四人。試験は、一般学力を判定する一次試験、会計士補となるための第二次試験、さらに会計士補として三年間の経験を積んだ後に、「公認会計士」となるための試験がある。会計士補の試験の合格率はわずかに8・4%(昨年)で、第三次試験の合格率も65・4%と狭き門だ。ちなみに同様に難関の司法試験を突破した弁護士は、全国で約二万一千人いる。

 監査法人数は八月末で百六十一法人だが、中央青山やトーマツ、新日本、あずさの大手四監査法人が上場会社の監査の約八割を占めている。

 “裏方”の監査法人が脚光を浴びるようになったのは、バブル経済崩壊後。一九九六年に破綻した旧住宅金融専門会社の日本住宅金融では、監査法人などが、元株主から損害賠償を求められ、二千万円を払うことで和解。破綻した日本長期信用銀行や山一証券など、企業の相次ぐ粉飾決算でも、監査のあり方が問われ、最近では、一時国有化された足利銀行が、中央青山に損害賠償を求める訴訟を起こしている。監査法人の責任に厳しい目が向けられるようになった。

 そして起きたのが今回の事件。青山学院大学経営学部の八田進二教授は、二〇〇一年に米国で起きたエンロンの巨額不正会計事件で、巨大会計事務所が実質破綻したケースに触れながら、「米国では、エンロン事件後、監査法人に対しても厳しい対応がとられ、世界的にも監査を取り巻く環境、制度が激変していく中で、国内では当事者が対応し切れていない」と指摘する。

 監査法人と企業のなれ合い体質も繰り返し指摘されてきたが、八田氏は「公認会計士法が改正される六七年までは、企業監査は会計士個人が行っていた。監査法人になっても、人的つながりは続いた」と話す。

 監査法人への報酬も議論のひとつだ。八田氏は「誰が報酬を負担すべきか、ということは世界中で五十年もの間、言われ続けてきた。エンロン事件後、米国でも議論は過熱している。不特定多数の投資家のための監査を考えるとき、例えば、上場企業であれば、東京証券取引所などをワンクッションとして、支払うこともひとつの手だて」と話す。

 北海道大学大学院の吉見宏教授は「会計情報を得るには、客である企業に協力してもらわなければいけない面もある。会計士に強制力がない中で、人的関係に依拠するところが大きい。だが今は、情報が得られなくとも、そうした人的関係は切るべきだというふうになっている」と指摘した。

 監査法人の組織の問題もある。監査法人は、経営に携わる代表社員らと、現場で企業に接する会計士らの二重構造だ。「顧客をとってくる営業力のある人は、コンサルタントで企業と付き合い、晴れて上場すると、その人が企業の監査で代表社員になるのが通例」(八田氏)。そこにも“癒着”の土壌がある。

 国内でも昨年、改正公認会計士法が施行され、同じ監査チームが同一企業を担当できる期間を七年にしたり、金融庁に監査法人を監視・監督する公認会計士・監査審査会が設置されるなど、監査制度の改革に向け動き始めた。

 しかし、同審査会は、同協会の報告を受けてからしか動けず、「実質的には教育・指導的な役割しかない」(八田氏)というのが現状だ。八田氏は「証券取引等監視委員会と同審査会の役割、権限を合わせた機関をつくってことにあたる時期が来ている」と指摘し、吉見氏も「監督という立場からすると力不足。全体に監査の専門集団でなく、会の職員は監査法人からの派遣もある。会計士村の一員になっている」と話す。

■『中央青山は一番厳しい』

 今回の事件を受け、監査法人は再生するのか。ある会計士は「自分の首を絞めるようだが、民間企業も独立行政法人を見習って、監査法人を数年おきにチェンジしたらどうか。同業者にばれる恐怖感で、監査法人も必死になるはずです」。

 だが、冒頭のジョークを披露した会計士は「心配はご無用。すでに日本中の会計士が襟を正しまくっている。なにしろ、カネボウの疑惑浮上以降、日本一、監査内容が厳しくなったのは中央青山だって言われてますから」と笑った。

http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050922/mng_____tokuho__000.shtml

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