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□生まれ変わった新生銀行 [アラブの声ML]
http://groups.yahoo.co.jp/group/voiceofarab/message/760
■1.「生まれ変わった新生銀行」■
アメリカの新興投資ファンド・リップルウッドが平成11
(1999)年に、国有化されていた日本長期信用銀行(長銀)の買
収に名乗りを上げた時、大蔵省にも長銀本店にも、その名を知
る人は一人もいなかった。
なんだ。この奇妙な名前は? 地名か人名か、はっきり
しないが、とにかく情報を集めろ。
そんな指示が大蔵省内や長銀行内を飛び交ったが、結局よく
分からないまま、「どうせ泡沫候補だ。ほっとけ」となった。
この無名の新興投資ファンドが、わずか10億円で長銀を買
収し、新生銀行としてまさに「新生」させて、1200億円の
増資をした後、4年後に再上場を果たした。リップルウッドの
社長ティモシー・コリンズは語る。
生まれ変わった新生銀行は私にとって誇りである。健全
なバランスシート、法人・個人向けのきめ細かなサービス、
創造性と血の通った銀行は、他にはない。ロビーにはスタ
ーバックス・コーヒーが入り、女性社員にとっても昇進の
チャンスが増えた。日本を最も根元的なところから改革さ
せることに貢献しているのだ。[1,p36]
しかし、コリンズはこの「新生」の陰に、日本政府から8兆
円もの公的資金が投入された事には口をつぐむ。
■2.「この買収には損が発生しない仕組みが埋め込んである」■
長銀買収に際して、コリンズは世界の投資家にこう言って、
資金を集めた。
長銀買収は必ず儲かります。投資していただければ、3
年ないし4年で確実に5倍に増やしてみせます。絶対に損
はさせません。この買収には損が発生しない仕組みが埋め
込んであるからです。[1,p137]
こうして集めたのが1200億円。コリンズの約束通り、4
年後の上場時にはそれが時価7600億円、実に6倍以上に大
化けしたのである。コリンズは、一躍ウォール街のヒーローと
なり、長銀買収は1999年のビンテージ・ディール(その年に最
も成功した契約)と絶賛された。
その「絶対に損が発生しない仕組み」とは何だったか。
■3.「気持ちとしてはタダでもいい」■
「絶対に損をしない仕組み」の第一は、3兆6千億円もの公的
資金を投入して身ぎれいになった長銀を10億円という破格の
値段で買い取った事である。
平成12(2000)年2月15日、衆議院予算委員会で自民党の
安倍基雄議員がこの点を追求すると、越智通雄・金融再生委員
会委員長はこう説明した。
越智: 決められました手続によりまして旧日長銀の評価をい
たしました。・・・その評価委員会で長銀の旧株はゼロ
となったわけであります。したがいまして、十億はいわ
ばのれん代みたいな格好で出されたわけでありまして、
十億と二十四億株というのは、一株幾らという計算で積
み上がった数字ではございません。
越智・委員長は、別の場で「破綻した長銀を買っていただけ
るのだから、気持ちとしてはタダでもいい。それを10億円も
出してくれるという。まあ、のれん代というわけでもありませ
んが、そんなものです。外国の銀行から新しい経営ノウハウや
人材を供給してもらえる、願ってもないチャンスです」と発言
している。[1,p153]
長銀は約23兆円の資産を持っていたが、それ以上に約3兆
6千億の債務超過(財産より多い借金)があったので株価がゼ
ロとなっていた。タダ同然のものなのだから、10億円で売れ
たら「御の字」ではないか、という訳である。
■4.「おかしいですよ、はっきり言って」■
この答弁に安倍議員はこう噛みついた。
安倍: いいですか。株価をゼロとしたのは、それだけの債務
超過があったからゼロになっているんですよ。債務超過
を解消したときに果たしてゼロなんですか、それが問題
ですよ。もともと債務超過が何兆円もあるからゼロになっ
たんでしょう。そいつを全部解消した途端に、それがま
たゼロがそのまま続くんですか。おかしいですよ、はっ
きり言って。・・・こういったのを国民の前に明らかに
した上で契約をすべきです。
リップルウッドへの売却契約締結を踏まえて、長銀の債務超
過分の穴埋めのために金銭贈与3兆2204億円、損失補填3
549億円、合計約3兆6千億円という公的資金が投入された。
公的資金投入で債務超過状態が解消すれば、あとは約23兆
円の資産を活用した銀行業務で収益が期待できる分だけ、株価
はプラスに転ずるはずである。それを考慮せずに、そのままゼ
ロとして、単なるのれん代10億円だけで売ってしまうのはお
かしい、という当然の指摘である。
さらに3兆円以上もの資産買い取りが日本政府によってなさ
れた。コリンズの誇る「健全化されたバランスシート(貸借対
照表)」とは、日本国民の税金によってなされたものなのであ
る。
■5.「買い手に足元を見られている」■
「絶対に損をしない仕組み」の第2は、長銀の事業を引き継ぐ
新生銀行の資本構成にあった。安倍議員はこの点についても問
題を提起している。
安倍: もう一つ言いましょう。今度は、二千五百億の準備金、
これは向こうが要望したからと言っている。向こうが出
すお金は、二十四億株を十億円で買うんですよ。それに
千二百億円出すんです。我が方は二千四百億円、別に出
すんです。その結果、どういう株主構成になるかという
と、いろいろ細工はあるようですけれども、向こうが三
分の二を持って、こっちが三分の一を持つんです。・・
株式の構成は、こちらがたくさん出せばたくさん株を
持つのが当たり前じゃないですか。それを、優先株がど
うの、それで最終的には三分の二になります、民間の要
するに発言権を持たせるために三分の二渡しますと。そ
れならそれで、もっとたくさん金を持ってくればいいで
すよ。・・・それで何でこちらが三分の一なんですか。
これはあくまで、買い手に足元を見られているわけです。
新しい銀行にリップルウッド側は1/3の1200億円を出
資し、残りを日本政府が出した。通常なら、1/3の出資をす
れば1/3の株式を持ち、利益があがった場合は1/3を貰う、
というのが当然の原則だ。それがなぜ、リップルウッドは1/
3の出資で2/3の株式を保有できるのか。
■6.「先方との話し合いの結果、、、」■
以上の二つの「仕掛け」に関する質問に対して、越智・委員
長は次のようにしか、答えていない。
越智: なお、最後に残りました買い取り希望のアメリカ側の
リップルの方と、日本側に実は二つの銀行の連合体があっ
たのでございますが、その申し出の金額は非常にかけ離
れておりまして、したがいまして、この長銀を引き取っ
てもらうのに、先方との話し合いの結果、今のような数
字が決定になったわけであります。
リップルウッドの方が良い申し出だから、こちらに売ったと
いうだけで、政府がどのような「話し合い」をして、こんな異
様に破格の条件で妥協したのか、まったく説明しない。
リップルウッド以外に、日本側からは「二つの銀行の連合体」
しか手を挙げなかった、という点に関して、安倍議員はこう反
論する。
安倍: これは本当に、当時は日本からいろいろな候補者がい
なかったと言うけれども、ほかの大銀行はみんな資金注
入でもっていっぱいで、合併問題でもってそういう暇が
なかったのです。出てきたのは二つしかないのです。そ
の中でどっちが要するに条件がいいかというそんな程度
の話で、いかにも、ずっと同じ一つのレールの上で決まっ
ちゃいましたという話じゃないのですよ。
■7.「損失はすべて日本政府がギャランティーしてくれる」■
リップルウッドの買収には、さらに強力な第三の「損が発生
しない仕組み」が埋め込んであった。コリンズは海外の出資者
に対して「将来発生する損失はすべて日本政府がギャランティ
ーしてくれる。だから絶対儲かる」と言って、資金集めをした。
長銀の貸し出し債権の価値が3年以内に2割以上下がった場
合、国に債権の買い戻しを請求する権利を認めた「瑕疵(かし)
担保条項」が盛り込まれていたからだ。
平成16(2004)年1月27日、新生銀行の上場を目前にした
時期に、民主党の中津川博郷議員が質問に立った。
中津川: 分かりやすく言えば、中小企業から融資を強引に引
き上げて、その損失分をすべて国のお金を使ってカバ
ーしたということです。吸血鬼のような銀行ですよ。
あまりにひどいというので、平成13年10月には、
国が新生銀行に対して業務改善命令を出したほどです。
こんな銀行が今回の上場では最大1兆5千億円くら
いの上場益を得ることになるという。8兆円の公的資
金を注ぎ込んだ結果でしょう。これでは国益は台無し
です。金融庁の責任はどうなっているのですか。
帝国データバンクの調査では、旧長銀が融資していた関連企
業のうち、新生銀行になってから、あこぎな取り立てで152
社が倒産を余儀なくされたという。大手デパートの「そごう」
をはじめ、第一ホテル、マイカル、ライフなど321社の不良
資産を次々と国の預金保険機構に買い取らせた。[1,p126]
321件の債権額は1兆1702億円。預金保険機構の支払
額は8530億円。新生銀行が貸し出しを取りやめて、相手先
を倒産に追い込んでも、その損害のほとんどは国が補償してく
れる。瑕疵担保条項が積極的に「活用」されたのだった。
■8.上場益にも課税できない■
2月19日、新生銀行は何事もなかったように、上場を果た
した。初日の終値は827円。リップルウッドは2200億円
の上場益を確保した。
そして、ここにも4つ目の「損を発生させない仕組み」が仕
掛けてあった。リップルウッドが長銀買収のために作った投資
組合「ニューLTCBパートナーズ」は登記地がオランダとさ
れており、日本では上場益に関して一切、課税されないのだ。
こういう問題に関して、平成11年の買収時に、民主党の生
方幸夫議員が「新生長銀が上場した際に、その上場益に対して、
日本が課税できるのか」と問われて、越智大臣は「当然でしょ
う。できないわけがない」と答えていた。
また民主党の上田清司議員は、長銀の売却時に越智大臣に次
のような質問を投げかけている。
上田: 新生長銀は損失を出すとは限りません。損失が出れば、
さまざまな形で国民の税金が投入されるわけですから、
最終的には大化けして、大変な利益を生み出す可能性も
あります。
損したときにどう面倒を見るかという議論が多いので
すが、逆に、大儲けした時に、どういう形で日本国民へ
お返しをしていただけるのか。そういう特約事項も設け
ておくべきではないでしょうか。自民党の安倍(晋三)
先生がおっしゃるように、上場益の30%は日本政府に
返却していただく。そんな特約事項も入れておくべきで
はありませんか。
この質問に関して、越智大臣は「昨年9月から交渉を積み上
げてきたわけですから、新たに特約事項を入れろというご提案
は到底受け入れることはできません」と突っぱねた。
■9.「日本を最も根元的なところから改革させる」■
これまでの国会での審議をたどれば、リップルウッドの仕掛
けた「仕組み」は、すべて日本側に見破られていた事が分かる。
それなのになぜ越智・金融再生委員会委員長をはじめとする日
本政府は、これらの声を無視して、異様に破格の条件で長銀を
リップルウッドに売ったのか。
これに関してはアメリカ政府の圧力があったと噂されている。
小渕恵三首相が平成10年5月に訪米した際に、コリンズは首
相と同じテーブルに座っていて、クリントン大統領やヒラリー
夫人との親密さを印象づけながら、「長銀の再生にはアメリカ
の経験が欠かせない」と吹き込んだ。無名の投資ファンドの社
長を日本の首相と同じテーブルに座らせるなどという見え透い
た芸当に、小渕首相もアメリカ政府の魂胆を感じとっただろう。
9月に訪米した柳沢・金融再生委員長がサマーズ財務長官と
会談した時にも、長銀問題が大きな話題になった。11月末に
は国会開会中にもかかわらず、後任の越智・委員長が突然、訪
米し、サマーズ財務長官と会っている。当然、「長銀の譲渡先
はリップルウッドにしろ」との圧力がかかったと噂された。さ
らにリップルウッドが長銀の受け皿として作ったニューLTC
Bパートナーズの上席顧問にはボルカー元連邦準備制度理事会
議長(日本で言えば日銀総裁)が就任している。
リップルウッドは日本の金融開国を迫るためにアメリカの送
り込んだ「黒船」だったようだ。江戸幕府は黒船の砲艦外交に
屈して、アメリカとの貿易を始めたが、その時に結んだのが関
税すら自主的に決められない不平等条約だった。リップルウッ
ドとの契約も、それに相当する「平成の不平等条約」と言える。
コリンズの「日本を最も根元的なところから改革させること
に貢献しているのだ」というセリフは、ある意味で真実をつい
ている。国際社会には、8兆円もの国富をついばんでしまうハ
ゲタカがうようよしている事を我々に教えてくれたという点で。
(文責:伊勢雅臣)
■リンク■
a. JOG(149) 黒船と白旗
ペリーの黒船から手渡された白旗は、弱肉強食の近代世界シ
ステムへの屈服を要求していた。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h12/jog149.html
b. JOG(078) 戦略なきマネー敗戦
日本のバブルはアメリカの貿易赤字補填・ドル防衛から起き
た。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h11_1/jog078.html
アラブの声ML 齊藤力二朗
http://groups.yahoo.co.jp/group/voiceofarab/