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今週の金融市場展望(2005年9月12日)
日本の株式市場では、今回の解散・総選挙をきっかけにして株価水準が上方に切上がる可能性が高いと思われる。このことはすでに記述してきた。株価上昇の最大の背景は、日本企業の株価が、相対的に割安の状況にあると判断されることである。すでに『金利・為替・株価特報』で記述してきたが、株価は上方への水準修正のきっかけを求めていると考えられ、解散・総選挙はそのきっかけを提供していると考えられる。
1990年代に入って日本の株価は下落に転じた。90年年初から株価は下落に転じたが、本格的下落が始動したのは、総選挙実施直後の90年2月19日からであった。総選挙前のコメントとしては、自民党が勝利すれば株価は反発に転じるとするものが多かった。
ところが、2月18日の総選挙で自民党が大勝したにもかかわらず、株価は選挙を境に急落していった。株価は割高な状況にあり、下方に水準修正されるきっかけを求めていたのだと考えられる。
東証第1部上場企業の来年3月期予想の利益水準を基準とすると、PERは20倍を下回る。これは、益利回りに換算して5%超に該当する。米国NY市場の株価もPERが20倍程度で単純比較して、日本の株価は割安でないとの指摘が多いが、比較の対象は長期債利回りである。
米国10年国債の利回りが4%台であるのに対して、日本の10年国債の利回りは1%台である。このことを踏まえると日本の株価が割安であるとの評価も生じてくる。詳しくは『金利・為替・株価特報』をご参照いただきたいが、私は日本の株価が一般的な想定を超えて上方に水準修正される可能性が低くないと判断している。
今週は、15日(木)に米国で8月分消費者物価指数が発表される。米国南部を襲い激烈な被害をもたらしたハリケーン「カトリーナ」の後遺症で、米国経済には景気押し下げ圧力が働くことが予想される。また、原油価格の騰勢もここのところ一服している。米国経済を牽引してきた住宅投資に密接に関わる住宅価格も一部で下落傾向が生じ始めており、9月20日のFOMCで、利上げが一時的に見送られる可能性が浮上してきている。
この点は、先週記述したが、FRBの行動を推し量る上で、今週発表の消費者物価指数は重要な意味を持つ。事前予想通り、小幅の上昇に留まれば、利上げ中断説が勢いを強めるものと考えられる。ドルには下落材料、株価には上昇材料として受け止められるだろう。
逆に、消費者物価統計で予想を超す大幅上昇が示される場合には、9月20日FOMCで利上げが実施される可能性が高まり、株価は反落すると考えられる。ドルは強含むだろう。この意味で、今週発表の最重要経済指標は、米国8月消費者物価統計を中心とする物価統計である。
日本の総選挙では、自民党が地すべり的に大勝した。自民党大勝の理由は以下の三点である。
第一に、国民が現在の日本の行政運営に不満を蓄積させていて、小泉政権の「27万人の公務員削減」のキャンペーンが、この不満に極めて効果的に響いたことである。多くの国民は、小泉構造改革の実相をほとんど知らない。だが、示された方針は非常に魅力的に見えた。
小泉政権の総選挙に向けての争点の演出が非常に巧みであったことが、自民党に対する巨大な投票行動を引き起こした。
第二に、主要メディアが小泉政権支援の偏向報道に徹したことである。小泉政権の政策に鋭く切り込む、力のある論客は主要メディアから完全に隔離された。あらゆる情報番組に小泉応援団と表現できる多数の人物が、ほぼ常連の状態で出演し、露骨な世論誘導が図られた。第二次大戦中の大本営を中心にした世論誘導、ナチスによる情報統制に通じる情報操作が非常に大きな役割を果たしたことを見落とせない。
第三は、民主党の戦術があまりに稚拙であったことだ。今回の自民党完勝への最大の功労者は岡田克也民主党代表であったとも言うことができる。小泉政権が「郵政」を「改革の本丸」と提示して、戦いののろしを上げたのに対し、民主党は「天下り廃止」を「改革の本丸」として掲げて、「真っ向勝負」を挑むべきであった。
主権者である「有権者からの発想」、「有権者のニーズ」を捉える戦術が示されなかった。また、小泉政権の打倒を目指すなら、反小泉勢力を結集する必要があったが、反小泉勢力を逆に遠ざけるような言動が目立ち、「風を呼ぶ」ことに完全に失敗した。PR戦術も極めて質が低かった。
小泉政権が大勝したことにより、今後は小泉政権の真価が問われることになる。これまでは、改革の遅れの原因として「抵抗勢力」が前面に押し立てられ、政策の停滞が正当化されてきた。支持率を引き上げる面でも、「抵抗勢力」が巧みに活用されてきた。だが、今後はそのような口実が消滅する。
「改革」が急速に進展するのか否かに、厳しい監視の目が光ることになる。
「郵政はあくまで入り口」としてきた小泉首相が、特殊法人・公益法人などの「出口」改革に具体的にどう取り組むのかが、まず注目される。今秋には政府系金融機関改革が論議の対象になる。小泉改革が本物であるのかどうかを判定する上で、「天下り廃止」が示されるかどうかは決定的に重要な意味を持つ。
厚生年金と共済年金の一元化をいつ実現させるのか。国民年金の問題はどう処理されるのか。議員年金は廃止されるのか。児童手当は拡充されるのか。チェックすべき事項は多い。
2007年度の消費税増税を小泉首相は選挙期間中に完全否定したが、この「約束」が本当に守られるか。小泉政権の真価が問われるのはまさにこれからである。
これまでも記述してきたように、日本の株価は当面上昇を継続する可能性が高い。日本経済も株価上昇、米国景気、中国景気に支えられて、堅調を維持する可能性が高まっている。問題は2006年後半以降である。短期と中期を分けて考察することが重要である。
為替市場では、米国利上げ中断の可能性、日本への実物資産投資に伴う資本流入が、円高・ドル安の要因として作用しやすい。目先のドル下落の可能性を考慮しておくべきである。
長期金利は米国における利上げ中断観測浮上に伴う米国長期金利低下に連動して、日本でも小幅低下が観測された。引き続き、米国金利動向との連動を市場観測の基準に置いておくべきである。
政治状況、金融市場動向等についてのより詳しい解説は『金利・為替・株価特報』をご参照賜れれば幸いである。
2005年9月12日
植草 一秀
http://www.uekusa-tri.co.jp/column/index.html