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今週の金融市場展望(2005年9月5日)
http://www.uekusa-tri.co.jp/column/index.html
今週の金融市場は、9月11日総選挙を控えて選挙後の市場動向を視野に入れた動きを強めることが予想される。米国市場では、ハリケーンの被害が拡大し、米国経済、原油価格等への影響についての考察が市場変動にも反映されることが予想される。
国内では、9日(金)に株価指数先物・オプション9月物の特別清算指数(SQ)算出を控えており、テクニカルな要因での株価変動も予想される。7日(水)に7月景気動向指数が発表されるが、一致指数は景気判断の分かれ目となる50%を下回る見通しである。8日(木)には、8月景気ウオッチャー調査結果が発表される。
米国では、6日(火)に上院エネルギー委員会で、史上最高値更新を続けるガソリン価格の経済に与える影響について公聴会が開催される。また、同日サプライマネジメント協会(ISM)の非製造業景気指数も発表される。7日(水)には、地区連銀報告書(ベージュブック)が発表される。原油価格高騰が続くなかで、ハリケーン「カトリーナ」がテキサス州などに大きな被害をもたらし、経済や金融引締め政策にどのような影響を与えるのかについての市場観測に注目が集まっている。
9月4日に一斉に発表された、日本の総選挙についての主要各紙の中間調査は、総じて自民党の地すべり的な圧勝を示唆するものとなった。「郵政民営化の是非を問う」との小泉政権のキャンペーンが、小泉政権の思惑通りに有権者の行動に強く影響を与えた結果である。
これまでの経過をもたらした要因は次の三点である。第一は、テレビ、新聞などの大手マスコミが権力迎合の姿勢を著しく強め、主要なメディアが露骨な政権支援の情報提供に強めてきたこと。第二に、野党第一党の民主党が、「効率的な政府」、「小さな政府」実現に向けて、国民にアピールする具体的提案を効果的に打ち出せてこなかったこと。逆に、「民主党が改革に積極的でない政党」との印象を有権者に植え付けようとする与党の攻勢に押されてしまってきたことである。第三に、国民が小泉政権のこれまでの実績、郵政民営化後の行政改革や年金改革の具体的展開について、正確な情報を得ていないこと、を指摘することができる。
多くの有権者は、「小さな政府」、「効率的な政府」実現を強く求めている。経済は依然として停滞し、生活の厳しさは変化していない。一方で、国の財政状況の悪化が深刻化し、年金や医療保険制度の将来に対する不安をかきたてる情報が氾濫している。また、談合や天下りなど公的部門の不透明さや税金の無駄遣いを想起させる出来事が頻発している。
このような状況の中で、「27万人の公務員削減につながる郵政民営化をまず成し遂げたい」とのメッセージは、有権者の目には「国民の意向を反映した政策」と映りやすい。「郵政民営化法案に反対する人は改革に反対する『抵抗勢力』である」との説明も、何も考えずに聞いている限りでは、国民の共感を呼びやすい説明である。
総選挙に際して、論点を単純化して、繰り返し同じことのみを訴える手法が、与党に対する有権者の支持を急増させている大きな背景である。小泉政権の政治的技法が大きな効果を上げてきたと言える。ただし、問題は、郵政民営化が国民の望む「政府の効率化」、「小さな政府」実現につながる保証はどこにもないことだ。
筆者は、小泉政権が本当の意味での「小さな政府」を実現する可能性はゼロに近いと考えている。小泉政権は「天下り」を中心とした「官僚天国」の状況に、4年間、まったく手を入れてこなかった。今後も、改革のメスを入れる可能性は皆無に近い。財務省を中心とした官僚支配の構造は過去4年間に、著しく強化され、中央集権を地方主権に転換する構造改革もまったく進展していない。
本当の意味での「改革」はこれまで進展してこなかったし、今後も進展する可能性はゼロに近い。小泉政権は、選挙に際して国民の人気を獲得する演出を施す点に関してのみ、類まれなる天才的な政治的技量を有している。
小泉政権の国民支持獲得に甚大な貢献をしてきているのが、大手マスコミの著しい「偏向報道」である。振り返ってみれば、第二次世界大戦の遂行にあたっても、大手マスコミは同様の役割を果たしてきた。「鬼畜米英」、「一億玉砕」などのスローガンがマスコミによって広く流布され、虚偽の「大本営」情報が氾濫して、国民世論が誘導されたが、世論操作に最大の貢献をしたのが大手マスコミの行動だった。
今回の「郵政民営化」論争においても、テレビ番組では、自他共に小泉政権応援団の一員と認められる、元政治家、政治評論化、コメンテーター、御用学者、芸人などが、ほとんどすべての情報系番組を占拠してきている。正論を述べる正統な論客はほぼ完全に排除され、著しい偏向の傾向を有する番組キャスターが、世論誘導に全面的に貢献してきている。
野党第一党の民主党は、「小さな政府」、「効率的な政府」実現に向けての、インパクトのある具体的政策を「対案」として国民の前に提示する責務を負っているが、民主党代表の岡田克也氏は、この点でまったく成功していない。「小さな政府」には二つの意味がある。
第一は、「経済活動に介入しない政府」という意味だ。経済活動に対する「自由放任」は、結果における格差拡大をもたらすが、「小さな政府」推進には、「格差容認」の意味合いが含まれる。小泉政権の政策はこの意味での「小さな政府」を推進するものである。民主党はこの点については、独自の立場を強調する必要がある。金融における「弱者保護」、郵便事業における「地方、過疎地重視」を表明することが求められている。
第二の意味は、「効率的な政府」の意味での「小さな政府」だ。この点で、民主党は全面的に競争を挑まなければならない。「効率的な政府」を目指すとは、政府の無駄を徹底的に排除することである。政府の無駄はどこにあるか。それは「郵政」ではなく、「特殊法人、公益法人」にこそ存在する。財政投融資制度の「入り口」ではなく、「出口」にこそ、巨大な無駄が隠されている。この無駄を排除する、最大の施策は「天下り廃止」である。「天下り廃止」こそ、改革の本丸であり、国民が求める「小さな政府」を実現させる施策である。
岡田民主党代表が、「天下り廃止」を前面に掲げて、「真の改革」論争を全面的に展開してきていれば、世論動向は著しく異なるものになっていたはずである。岡田代表が「天下り廃止」を強く訴えていない背景として、同氏自身が経済産業省出身であり「天下り廃止」に消極的な考えを有していることがあるのではないか、との憶測が生まれてしまう。残された時間のなかで、民主党が劣勢を挽回するためには、「真の改革」の具体策として、「天下り廃止」を前面に掲げ、「郵政民営化」と「天下り廃止」の対決を演出する必要がある。
国民は「郵政民営化」が「効率的な政府」実現につながることを期待して、小泉政権に対する支持を強めている。だが、小泉政権のこれまでの実績を踏まえる限り、小泉政権が本当の意味での「効率的な政府」を目指しているとはまったく考えられない。国民はとんでもない思い違いをしている。
小泉政権の4年余りの期間に、旧大蔵省、現在の財務省・金融庁の権力は飛躍的に増大し、官僚主導政治は一段と強化されてきた。財務省を中心とする「天下り」はまったく是正されてこなかったし、今後も是正される可能性は皆無に近い。今後予想される政府系金融機関の制度変更に際しても、「天下り」が堅持され、財務官僚にとってより有利な条件の「天下り」が増加することは確実な情勢である。
すでに小泉首相は、道路公団や民営化郵政公社関係の「天下り」を容認し続けることを表明している。小泉政権が掲げる「改革」は「真の改革」とは「似て非なるもの」である。
また、小泉政権が継続する場合、2007年度消費税大増税が実施されるのは確実である。自民党の「政権公約」にはこのことが明確に示されている。2006年末の税制改正で決定され、2008年1月に消費税率が現行水準から3%ないし5%引き上げられる可能性が非常に高い。小泉首相は一連のテレビ等での発言でも、この可能性を明確に否定していない。
日本の株式市場は、選挙結果に関わりなく、上方への水準修正の機会をうかがっているように思われる。日経平均株価が14000円台、もしくは15000円台に水準を切り上げてゆく可能性が強いように思われる。小泉政権が持続する場合には、2006年半ば以降、2007年度大増税実施の懸念から、状況が一転悪化する可能性が生じよう。
米国では、9月20日のFOMCで、金利引上げが見送られる可能性が浮上しつつある。金利引上げの終了ではなく、利上げは2006年前半まで持続すると考えられるが、9月のみ一時休止となる可能性がある。この見方が生じる場合、ドルが一時的に下落する可能性が生じよう。米国株価は小幅反発する可能性があろう。この意味で、地区連銀経済報告に対して注意を怠れない。
2005年9月5日
植草 一秀
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