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証券ゼミナール大会(2000年12月16・17日)発表論文要旨
「金融界再編とこれからの金融サービスのあり方」
--------------- Nguyen Thai Binh、磯村直樹、杉山茂生、竹内一聡
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はじめに
ビッグバン以前の日本の金融組織
ヨーロッパの金融再編
アメリカの金融再編
今後の日本の金融再編
おわりに
・主要参考文献
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T.はじめに
経済のグローバル化による世界の金融・資本市場の一体化の進展に伴い金融機関の競争が激化するため、地域や国境を越えた金融再編が進んでいる。「金融ビッグバン」によって様々な規制が取り払われた日本の金融界では、今後どのような再編が起きるだろうか。この論文では、アメリカとヨーロッパのこれまでの動向を見ながら、日本の金融再編について考えていきたい。
U.ビッグバン以前の日本の金融組織
「護送船団方式」とも呼ばれた日本の金融組織は、銀行分業主義の考え方から金融機関の業務分野について種々の規制が課され、業態を細分化し、競争相手を限定することによって経営基盤の弱い銀行でも存立できるようにして金融システムの安定性維持を図ってきた。競争制限的規制の中で特に日本の戦後の金融システムを特徴づけてきた規制が、銀行等、金融機関の業務範囲を制限する業務分野規制であった。具体的には、(1)長短金融の分離、(2)銀行・信託の分離、そして(3)銀行・証券の分離であった。これらの規制は、種々の業務の間に垣根をもうけることによって他の業態の金融機関の参入を防ぐ効果も持つため、各業態の金融機関の成長を後押しするものであった。
しかし、分業主義では、ますます多様化する企業や家計の金融取引ニーズを必ずしも満足させることができないため、日本版「金融ビッグバン」によって業務分野規制の緩和、見直しが行なわれた。その他、戦後の日本の金融規制の主な柱となってきたのが、金利規制と内外市場分離規制であった。これらも世界的な金利自由化や金融取引のグローバル化の進展の影響で規制緩和・撤廃が行われ、自由化が実現した。
V.ヨーロッパの金融再編
ヨーロッパでは1990年代半ば以後、EUという「経済統合」を踏まえた金融機関の合従連衡の動きが続いている。この動きを地域的に見ると、第1段階は文化、習慣、労働条件が似ている国内の銀行同士のM&Aであり、第2段階は国境を越えた、EU域内の金融機関の間のM&Aの活発化であった。(a)第2次銀行指令と投資サービス指令に従って1996年までにEU諸国の国内法が改正されたことにより、域内単一免許と域内相互承認の原則が確立し、金融機関の国内での業務展開と同じ法的基礎がEU全体にわたって造られたこと、(b)EU内では関税が消滅し、また、「ユーロ」の誕生によって域内各国通貨の為替変動の心配がなくなることから、国内の金融機関の間のM&Aが域内のM&Aに及んだのである。そして、今日、再編はさらにグローバル化した第3段階に入っている。
業務面では、商業銀行同士のM&Aと、商業銀行と投資銀行と言った異業態の金融機関の間のM&Aの二つに大別できる。ヨーロッパの金融再編で特に注目されるのは、その量的拡大もさることながら、国際競争の激化の中で大手金融機関が新しい経営戦略を模索している点にある。つまり、投資銀行業務、アセット・マネジメント、プライベートバンキングなどに重心を置いた経営への転換であり、その裏面として採算性の低い業務分野、特に伝統的なリーテイルバンキングからの撤退を志向していることである。
このような金融再編は、(1)金融グローバル化による競争の激化、特に、米系大手金融機関のメガバンク化に対する対抗、(2)新しいテクノロジーの導入によるコストの削減と二重投資の回避、(3)金融商品・サービスの差別化によるセールスマーケティング部門の強化、そして、(4)ユーロ導入後、厚みのある金融市場が誕生し、直接金融のウェートが高まったことなどを背景としている。
W.アメリカの金融再編
アメリカの金融再編は次の三つの動向に集約できる。
第1は、銀行の整理統合の進捗である。1980年代前半は異常高金利と累積債務を主因にS&Aの第1次破綻や大手商業銀行の経営危機、後半は不動産金融やLBO方式によるM&A盛行に対する融資膨張の反動でS&Lの第2次破綻等、金融危機が表面化し、大きな編成の波に洗われた。
第2が先進的金融サービスの浸透に伴うものである。アメリカではインターネット普及率が10%を超えた96年頃にオンラインブローカーが台頭したが、続いてインターネットバンキングが拡大、98年末までに1,150のネットバンクが生まれた。中にはバンクワンのように、ネット専業子銀行を自動車販売ポータルと連繋させ自動車ローンや保険などを販売するなど、流通業との融合を進めているものもある。99年以降はB to Cの競争激化に加え、B to Bをターゲットとした金融商品のeマーケットプレイス化がベンチャー企業による参入や大手金融機関の合併連衡を促進している。
そして第3が金融監督・規制体系の改革に呼応する再編である。1994年リーグル・ニール法の施行(1997年6月)によって州際銀行業務の自由化が全米レベルで実現したことにより、大恐慌以来、なかった銀行合併や統合の大波が生れ、スーパーリージョナルから全国規模の銀行が相次いで誕生した。また、90年代後半、金融証券化の進展とともに業務分野規制が形骸化してきたことから、98年3月に政府が、異業態間の相互参入を解禁する金融改革法案を提出し、同時に、一般企業との兼営を認める検討を始めたことが、金融機関の総合サービス化への再編を活発化する起爆剤となった。この法案自体は成立しなかった。しかし、昨年11月に成立したグラム・リーチ・ブライリー法が、33年グラス・スティーガル法の20条と32条を廃止すると共に、銀行持株会社法4条を改正して金融持株会社の創設を認めた。この結果、金融持株会社として認定されれば、銀行、証券、保険、資産運用等、さまざまな金融分野にわたる総合金融路線を大々的に進めるようになった。
シティ・グループは既に銀行・証券・保険業務にわたる総合的な金融サービスを提供しているが、法的な整備が実現したので、他の大手金融機関のコングロマリット化も加速するであろう。また、インターネットの活用により金融サービスの複合化も進展すると予想される。
このようなアメリカの金融再編の事例に共通する狙いは、(a)統合による規模の経済の実現、(b)市場内競争の軽減による伝統的業務の収益力の改善と、(c)範囲の経済を実現するための商品・サービスの多様化や強化、重複投資の削減、(d)資本基盤の強化による投資余力の強化であった。
X.今後の日本の金融再編
日本版ビッグバンによる諸規制の緩和・撤廃で日本でも金融再編による大きな変化が起きている。大手都銀を中心とする再編における束ね方は様々であるが、重要なのは、どのグループも総合金融機関を志向する限り、「地域、機能、業務」という三つの軸を横断した三次元的な広がりを持っていることである。
公的資金導入等により大手銀行の融資姿勢に関する「社会的責任」がクローズアップしている。勝ち組として評価されなかった銀行を主力銀行や大口調達先としていた企業経営者にとって、資金調達面での不安の解消や取引銀行の経営方針に左右されるリスクから開放が重要である。彼らは「メガバンク」が今後どのような方針で臨んでくるかに期待と不安をもっている。特に、中堅・中小企業の融資ニーズを大手行が直接担うかどうかが問題である。中堅・中小企業の経営者にとっては、「銀行の生き残りのため」の再編ではなく、「自分達を対象として金融サービスを提供するために生き残る手段として合併やグループ化を行って資本力を強化する」というメッセージを強く出せるメガバンクが出るかどうかが重要であろう。
イトーヨーカ堂の新銀行設立、ソニーのインターネットを活用した銀行の新設等、異業種の新規参入が銀行業界に大きな波紋を広げている。消費者の利便性と経営の改革的なスタイルを軽視し、既存の銀行業界の既得権を温存するのでは納得がいかない。画期的な新規参入を認め、業界を競争的で魅力のあるものに変えていく方が将来にもプラスである。これまでの銀行は必ずしも顧客の利便性を優先していたとは言えず、消費者からの親近感も得にくかったのが実情だったからである。
Y.おわりに
以上、欧米の動きを見ながら日本の金融再編のゆくえを考えてきた。金融機関を含め、業種や国籍にとらわれない企業合併や買収は今後も続くであろう。今後日本はアメリカやヨーロッパなどの成功例や失敗例などを参考に金融再編を考えていく必要があり、また、日本独特の強みを発揮していかなければならない。特に、(1)合併すれば事足りるわけでなく、真の意味でのリストラクチャリングができるかどうか、そして、(2)個々の金融機関の経営カルチャーの違いをうまく活かせるかどうかが鍵である。日本でもバンカシュアランスやPFS分野での合従連衡が進む方向にある。いずれの場合も新しいモデルを確立できるところが成功を納めるであろう。
主要参考文献
日本銀行金融研究所編『わが国の金融制度』日本銀行金融研究所、1995年。
高木仁・高月昭年『入門日本の金融機関』東洋経済新報社、2000年。
日本証券経済研究所編『業際問題を超えて』日本証券経済研究所、1998年。
「金融財政事情」1999年12月6日、2000年5月1日、2000年10月9日。
「金融ビジネス」2000年3月。
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Revised: 04/10/2002