★阿修羅♪ > 国家破産42 > 101.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
(人の時代に向けて:5)重み増す外国人労働 受容へ問われる覚悟
日本最大のタオル産地、愛媛県今治市。熱気でむせ返るようなタオル染色工場で20代の中国人女性たちが汗だくで白地のタオルを並べていた。経営者は「とにかく休まないし、さぼらない。日本人とは働きぶりが違う」と絶賛する。
●枠倍増の特区
タオル業界では安い中国製品との競争が激しく、撤退業者が相次いだ。対抗するために低賃金の外国人を雇おうにも、工場などでの単純労働は認められていない。そこで3年間受け入れられる中国からの研修生・技能実習生に頼っている企業が少なくない。
今治市と周辺市町村は地元経済界の強い要望を受け、零細企業の研修生受け入れ枠を倍増して6人にする特区となることを国に申請。03年に認められた。
若者の失業が社会問題となっているが、今治市では05年の高卒求人倍率は1・77倍で全国平均の2倍近くと引く手あまただ。低賃金労働や肉体労働を敬遠する若者も多く、中国人がいなければ成り立たない会社も多い。
トヨタ自動車やスズキなどの大手製造業が集まる愛知県や静岡県には日系ブラジル人約10万人が住む。バブル経済下での人手不足で、国は90年、出入国管理法を改正して日本国籍を持たない2世、3世が就労しやすくした。大量採用された日系ブラジル人や家族が今も住み続けている。
愛知県豊橋市の県営岩田住宅では、全650戸の4割が日系ブラジル人世帯だ。垣内オズワルドさん(50)は「母国での住宅資金を稼ぎに来たが、戻っても仕事がないのでしばらく日本にいたい」という。
少子高齢化が急速に進む日本では、将来の労働力不足が心配されている。国連の人口部の試算によると、日本の生産人口を外国人労働者の受け入れで補うには、毎年65万人増やす必要があるという。現実には日本に就労目的で来る外国人は04年に約16万人だった。
●経済界が熱望
受け入れ増加を最も望んでいるのは経済界だ。
「単純労働者の受け入れに慎重な政府の公式見解は現実とかけ離れた建前にすぎない」。奥田碩・日本経団連会長は昨年末、外国人労働者の積極的受け入れを主張。日本商工会議所も03年9月に「外国人単純労働者の受け入れ促進策を真剣に検討すべきだ」とする提言書を公表した。
もちろん慎重論も根強い。依光正哲・一橋大大学院教授(社会政策)は人口減対策としての受け入れに反対し、「社会的コストを考えれば、企業が技術革新で労働生産性をあげる方がいい」と提言する。
多くの外国人住民を地域社会が受け入れられるのかという問題もある。岩田住宅では数年前まで駐車、ゴミ出し、深夜の騒音など生活習慣の違いから起こるトラブルが絶えなかったが、自治会にブラジル人を入れ、日本語教室を開き、ふれあう機会を増やすことでかなり減ったという。
外国人労働者も、請負会社を通じて雇用されていることや、社会保険に加入していないことなどに多くの不安を抱えている。家族は日本語が未熟で進学や就職もままならない。
「移民先進国」の欧州はこれらの問題をどう克服しようとしているのか。
「言葉こそ真のパスポートだ」。7月下旬、フランスのボトラン社会連帯担当相は仏中部リヨンの国際移民事務所でこう説いた。「皆さんがこの国で生きていくための第一条件はフランス語を話すこと。政府は語学力と滞在許可を関連づけることも検討中です」
失業率が5年ぶりに10%を超えたフランスには「良い移民」だけを受け入れようという動きがある。仏での永住を前提に滞在許可を取る移民は年約12万人。出稼ぎ労働者が妻子を呼び寄せるケースが多い。
次の大統領を狙うサルコジ内相は6月、定住を認める移民の数を職種ごとに毎年定めようと提案した。「まず流入を抑えることが移民を前向きに考える前提」。出稼ぎの単純労働を規制する意向とみられる。
●語学も条件に
ドイツでも今年初め、欧州連合(EU)以外からの永住希望の移民に独語の研修と試験を義務づける新法が施行された。費用の半分は国の負担だ。英国、オランダ、オーストリア、デンマークも語学力水準を受け入れ条件の一つとしている。
少子高齢化が進む欧州社会は、移民労働力なしには成立しない。移民は主に底辺の仕事を担い、社会を支えてきた。欧州委員会は年初の報告書で、移民の流入ペースが不変でも、EU25カ国の労働人口は10年からの20年間に2千万人減ると予測。「欧州の競争力を守るにはより一貫した移民流入が必要になるだろう」と指摘した。
スペインは今年、半年以上住んでいる不法移民に1年間の就労ビザと2年間の滞在許可を与えた。不法移民80万人という現実を追認し、密入国あっせんのヤミ経済を一掃する狙いだ。
一方で、「外国人に雇用を奪われる」という国民の声に配慮して移民規制を強化する国も目立つ。規制と容認の間で揺れる欧州。それでも、移民を受け入れ続けるしかない。
経済格差が国境を越える労働者の流れを生み出す。それを完全に止めることはできない。日本経済を下支えしている現実もある。
だとすれば、どこまで受け入れるべきなのか。外国人労働者問題を長年研究してきた桑原靖夫・独協大名誉教授は、私たちに問いかける。「単なる『労働力』としてでなく、将来の『国民』として受け入れる覚悟はありますか」(立松真文、冨永格)
http://www.asahi.com/paper/business.html